105.女性騎士
下位貴族だったら淑女どころか当主だって騎士なんかには護衛して貰えない。
いたとしたって平民の私兵か、警備の人だ。
だって騎士ってお給金が凄く高いのよ。
伯爵以上にならないとお抱えなんか出来ないでしょう。
ちなみに子爵は微妙だ。
というのは子爵って高位貴族が化けていたりする場合がある。
一方、単なる代官のこともあるんだけど、高位貴族の重要な領地だったら騎士の護衛がついていたりするから油断はならない。
私には関係ないけど。
「でも私に護衛騎士など必要でしょうか」
王都は結構安全なのよね。
少なくとも貴族街は警備隊が定期的に巡回しているし、あちこちに騎士団の分所がある。
そもそも貴族街と平民街は塀で隔てられているから狼藉者が入り込む余地はない。
学院に通う高位貴族の淑女も侍女はいても護衛騎士なんかついてなかったけどなあ。
「今は必要ないかもしれませぬが、王都を離れる機会もございましょう。
宿に泊まる場合でも護衛は必要かと」
そうなの。
そんな機会が来るとは限らないし、そもそも男爵の庶子が宿に泊まるのに騎士の護衛っている?
疑問は湧いたけど、そんなことをギルボア先生に言っても仕方が無い。
忘れよう。
そんなある日、学院で王国史の講義に出ると懐かしい顔があった。
「カリーネン様。
お久しゅう」
「サエラ様も」
淑女として挨拶を交わし、大人しく講義を受ける。
終わって部屋を出たらすぐ、私はエリザベスの手を引いて例の食堂に向かった。
エリザベスは苦笑しているし、グレースとエリザベスのお付きのメイドさんは会話しながらついてくる。
みんな冷たい(泣)。
食堂の席に並んで座った途端、私は尋問を開始した。
「今までどうしてたの?
講義にも出ないで」
「あー。
うん、ちょっとね」
答えになってない。
そう、エリザベスは避寒に行くと言って王都を出てからずっと音沙汰無しだったのよ。
寒い時期が過ぎても学院にはいないし、エリザベスのカリーネン家は元々商人だからあちこち行くのが当たり前。
仕事だろうとは思うけど、支援役に見捨てられたのかと思って気が気ではなかった。
私、結構エリザベスに依存しているのかも。
「まあ、いいけど。
これからは学院に来るんでしょう?」
「ああ、うん。
まだ学院生を続けるつもりではあるけれど……それより貴方はいいの?
私なんかに関わっていて」
変な事を言うね?
「いいも悪いもないよ。
エリザベスは友達でしょ?」
「なら」
エリザベスは素早く左右を見た。
クレースとメイドさんの、ええとサラさんは少し離れた場所でお話している。
周囲に人はいない。
「私も貴方のことをマリアンヌって呼んでいい?」
そうきたか。
つい息をのんでしまった。
もちろんエリザベスは私の名前を知っている。
だけど、自分のことを名前で呼べと強要してくるのに私の名前は呼ばなかったんだよね。
いつも「貴方」で。
つまりはそういうことか。
「……知ってたの?」
「それは、ね。
そっちも別に隠していたわけじゃないでしょ。
それにその瞳を見れば一目瞭然」
確かに。
エリザベスは商人だ。
つまり情報の専門家と言っていい。
私の素性を調べることなんかお茶の子だろう。
「いいよ」
エリザベスは友達だ。
私の前世の人が読んでいた小説の設定では、サポートキャラであるエリザベスは打算まみれで私を助けていることになっていたけど、それでも私を裏切ったり利用しようとしたことはなかった。
現実でもそれは同じ。
だから、お互いの立場がどうあれエリザベスとは友達だ。
「マリアンヌって呼んで」
「良かった。
マリアンヌ、これからもよろしくね」
ほっとしたように言うエリザベス。
何かあった?




