103.何で知ってる?
講座を終えて、いつものように図書室に行こうとしたらグレースに止められた。
「ミルガスト邸の図書室をご自由にお使い下さいとのことでございます」
さいですか。
そう、ミルガスト邸にも立派な図書室があるのよね。
蔵書も揃っている。
だって学院に通われる子弟に必要だから。
領地伯爵家、というよりは高位貴族家の凄さが判る。
タウンハウスにすら、簡易版とはいえ学院に匹敵する図書室があるって。
とはいえ実は学院の図書室、というよりは図書館ってむしろ学習室なんだけどね。
大勢の生徒が使うから同じ蔵書が何冊もあって、本の量は多くても種類はそれほどでもない。
ていうか、本当はもっと専門的だったり高価だったりする本もあるそうなんだけど、それは特別に許可された生徒しか読めないことになっていたりして。
そういうのは専門書だから、実は学院ではあんまり需要がないのよ。
まあいい。
そういうことならということで、私は素直に帰邸することにした。
王国史の講座に出てなかったから、まだエリザベスは王都には戻ってないみたい。
ちょっと会うのが怖い気がするけど、とりあえずエリザベスって私が一番気を許せる相手なのよね。
相談したいこともあるし。
グレースに頼んで馬車を呼んで貰おうとしたら、しばらくかかるというので一緒にあの待機部屋で待つことにした。
グレースを連れてこいって言われていたし。
行って見たら大歓迎されて囲まれたので、私は隅の方でまったりとする。
ああ、お茶とお菓子が美味しい。
そういえば差し入れ持ってきてなかった。
次は忘れないようにしないと。
「ごきげんよう」
話しかけられてパッと姿勢を正す。
もう条件反射だ。
「ごきげんよう。
ええと、ミネバ様」
確か男爵家の方だったはず。
ちなみにミネバは家名だ。
名前は知らない。
「大人気ですわね」
グレースを見ながらするっと私の隣に腰掛けるミネバ様。
歳は私と同じくらいだと聞いているけど、私と違って発育が良くて何歳か年上に見える。
つまり輿入れの適齢期だ。
成長が早いのも善し悪しよね。
外見上、適齢期を過ぎかかっているように見えるって貴族令嬢の婚姻には不利だ。
私みたいにいつまでたっても幼女扱いされるのも逆の意味で駄目だけど。
「ええ、グレースも楽しそうで良かったです」
当たり障りの無い対応をしていると、ミネバ様は顔を寄せてきた。
囁くように言う。
「聞きましたわよ?
凄いことになっているそうではありませんか」
もう聞いたの!(泣)
だが違った。
楽隊、じゃなくて歌劇のお話だった。
実を言えば私はもうあんまり関係はないんだけど、モルズ様やシストリア様が事あるごとに誘ってくるので会議には参加しているのよね。
毎回、置物だけど。
計画自体は順調に進行していて、もう上演する劇場も決まって劇団が練習を始めているそうだ。
出演者を選考で選ぶというのも本当らしい。
ミネバ様は親経由でその話を聞いて、是非自分もその活動に参加したいと。
「歌手になりたいのですか?」
「そうではありませんが、歌劇となれば芸術でございましょう?
それにシストリア様が主要登場人物として出演されることが内定したそうなので」
シストリア様、やったのか。
プロと競って役を掴むとはさすが。
「ですが、競争は激しいのでは」
「ええ、ですからそういったお役ではなく、ご支援という形で関わることが出来れば」
なるほど。
貴族の場合、こういう芸術の振興を支援するということで後援につくことが多い。
資金を出したり便宜を図ったり。
支援相手は劇団でもいいし団員でもいい。
ていうか、普通は「推し」の人を後援するよね。
「ミネバ様はどなたを後援したいと?」
「それはもちろん、シストリア様ですわ!
後援というよりは応援になりますけれど」
ああ、なるほど。
シストリア様は子爵令嬢だけど、実際には侯爵家の方だ。
そんな方に資金援助や便宜を図るとかできるわけがない。
ならば追っかけと言う形で関わろうと。
「それは良いですね」
「でしょう?
ですが、私のような者がいきなり申し出ても受けて下さらないのではと。
というよりは接点がございません」
あー。
読めてきた。
「……私もそれほど親しくして頂いているわけではないのですが」
「それでもお茶会に参加していると聞きましたし、何より歌劇で使われる楽曲の作曲者ではありませんか!」
何で知ってる?
「いえ私は」
「シストリア様や劇団の方々が公言していらっしゃるそうですわよ。
原曲はサエラ男爵令嬢が提供されたと」
何やっとんじゃーっ!




