102.お付き
朝食は好きにしていいというのでお部屋に運んで貰った。
本当に来た。
豪華だ(泣)。
ついこないだまではこれのおこぼれを頂いていた立場なのに!
何か居たたまれなくてお屋敷のメイドさんたちに顔向け出来ない。
「現在、お屋敷を整備させているとのことでございます」
グレースがこともなげに言うけど、何でそんなに私に入れ込むの?
ミルガスト伯爵家っておかしくなってない?
言われるままにドレスを着て、さて学院に行こうとしたら待ったがかかった。
「馬車を回しますので少々お待ちください」
「馬車で行くの?」
「当然でございます。
マリアンヌ様はミルガスト家の御育預でごさいますれば」
違うでしょう!
今まではグレース付きだったけど徒歩だったのに!
「ご身分をご自覚くださいませ」
サンディさん、いつの間にいたの?
そういえば私の侍女になったんだっけ。
侍女って、ひょっとして学院にも付いてくる気ですか?
「いえ。
色々と手続きがございますので、当面はグレースに任せます」
「お任せ下さい」
グレースが張り切っている。
ていうかサンディさんってグレースの上司っぽい。
侍女とメイドだから階層的に言えばそうなんだろうけど。
もういいや。
玄関を出て待っているとファサードを回って馬車が来た。
やっぱり立派な奴だった。
伯爵級か。
「いってらっしゃいませ」
サンディさんを先頭に私の専属メイドさんたちが揃って頭を下げて見送ってくれた。
そういえば執事の人がいなかったな。
「アーサーは引き継ぎの為に一時的に離邸しているとのことでございます」
私の心を読んだらしいグレースが教えてくれた。
やっぱこの人、私の前世の人が読んでいた小説に出てくる「影」か、あるいはニンジャとやらなのかもしれない。
いつもはてくてく歩く距離も馬車ならすぐだった。
学院の門は馬車自体が通行証になるみたいですんなり通れた。
でもファサードで降りるときにはやっぱり注目されてしまった。
だってミルガスト伯爵家の紋章が掲げられた馬車から下位貴族用のショールをまとった令嬢がメイド付きで出てくるんだよ?
色々と矛盾しているのでとっさに理解が難しいらしくて、目にした人は観なかったことにして足早に去って行く。
わざわざ面倒事に自分から関わることはないよね。
ちなみになぜファサードで馬車を降りたのかというと、そういう決まりがあるから。
学院の建物はお城を改装したものなので、つまり出入り口が結構狭い。
戦いになった時に門口を広く開けていたら拙いから。
だから学院の生徒は基本的に少し離れた所で馬車を降りることになっている。
王族とかは知らないけど。
ちなみにこれは学院の教授でも同じだそうだ。
というよりは教授の方々にこそ必要な規則かも。
だって教授だったらまず、徒歩での登院なんかしないからね。
学院に入ってしまえば目立つことはない……わけでもないけど、令嬢とお仕着せのお供が一緒にいるのは珍しくないから注目はされなかった。
たまに私のショールとグレースを見比べて怪訝な表情をする人もいたけど、基本的には見なかったふりをしてくれる。
エリザベスの例もあるように、下位貴族の令嬢に付き人がいるのは少ないけど珍しいというほどでもないから。
そうそう、貴族は常に地雷原を歩んでいることを忘れないように。
本日講座があったミストア神聖語とテレジア王国史の授業に出席したけど、そこでも問題はなかった。
グレースが壁際に立っていたけど、他にもちらほらいたから。
私以外にもお付きのメイドや侍女を連れている令嬢がいるのよ。
でも、それってどっちかというとお付きよりお目付役だ。
というのはそういうご令嬢はみんな幼いというか、少なくとも私なんかよりは年下だから。
中には十歳くらいにしか見えない方もいて、多分お付きがいないと外出させて貰えないんだろうな。
高位貴族の令嬢なら、その歳では学院ではなくてお屋敷で家庭教師に習うはずだから、せいぜい子爵家とかだろう。
でも、逆に言ったら本気で貴族子弟を教育しようと思ったら十歳でも遅いくらいなんだけどね。
私とは逆の意味でギリギリだ。
家庭教師を雇う余裕がない貴族家は、何とか通えるようになった令嬢に必要最小限の教育を施して学院に送り込むわけ。
ある程度教育を受けてないと入学試験に落ちて「始まりの部屋」送りになってしまうから、仕方がない。
それでも家庭教師を雇うよりは授業料を払ってメイド付きで学院に通わせる方が安いんだろうな。
大変だなあ。(ひとごと)




