どうしてこんな犯罪者に
どうしてこんな犯罪者になってしまったんだろう。
子供の頃はまっとうな大人になれると思っていた。
普通の会社で働いて、普通の家庭をもてると。
でも、現実はそうじゃない。
「あっちへ逃げたぞ!」
「凶悪犯を逃がすな!」
数か月前に、騙されて違法な薬物を運んでしまった。
友人が、「ただ荷物を運んでほしいだけだよ」と言ってきたから。
信じてしまった。
運んでいる最中に、警察に囲まれて、その時に利用されたんだと気がついた。
手錠をかけようとする者達に、「知らなかったんだ」と訴えかけても、まるで信じてもらえなかった。
だから逃げた。
あの時は、濡れ衣を着せられる恐怖でいっぱいだったから。
どこかに泊る事もできず、何か食べ物を買うこともできない。
お金は底をついた。
疲弊していく一方だ。
疲れ果てて裏路地でうずくまっていた俺は、人の声を聞いた。
「大丈夫ですか?」
パンの袋をもった、みなりのいい女性だった。
きっといい人なのだろう。
心配そうな表情をしている。
けれど、俺はポケットの中にあるナイフをにぎりしめた。
ああ、こんな判断をしなければならないなんて。
与えられればパン一つ。
けれど奪えばそれ以上も。
良心なんて、とっくにすり切れたよ。
俺は、どうしてこんな犯罪者になってしまったんだろう。