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六章 迫りくる魔の手

 次の日、涼恵は久しぶりに制服を着た。

「……これでいいかな……」

 姿鏡で整えていると、「涼恵、大丈夫そうか?」と孝の声が聞こえてきた。涼恵が部屋から出ると、「おー、準備出来てんな」と笑いかけてくれた。

「今日は保健室行くか。急に教室はきついだろ?」

 そう言って、孝と涼恵は保健室に向かった。

 入ると、雪那が「涼恵、よかった、登校出来たんだね」と微笑んだ。

「雪那先生、彼女は……?」

 眼鏡をかけた男性の保険医、開原 一輝が尋ねてくる。雪那が「私の担当の子ですよ」と答えると、「それなら、僕は別のところに行っているね」と保健室から出た。

「座って。孝君もありがとう」

 お茶、持ってくるねと雪那が奥に入る。涼恵と孝がソファに座り、雪那を待っていると急にドアが開いた。

「おねえちゃーん!」

「亜花梨ちゃん、どうしたの?」

 そう、妹が入ってきたのだ。亜花梨は姉の背中に抱き着く。

「涼恵、そいつは……?お前に似てっけど……」

 孝が戸惑った様子で尋ねる。

「私達の末妹ですよ」

「お前以上にちびっこだなぁ……」

「お姉ちゃんが高いだけだもん!」

 亜花梨が可愛く反抗すると、「おー、可愛いもんだなぁ」と微笑んだ。

「あ、亜花梨も来ていたんだ」

 そう言いながら、持ってきているマグカップは五つ。一つはこの妹のものだとして、もう一つは誰のだろう……?と思っていると、再び来客があった。

「涼恵さん、久しぶり。体調はどう?」

 そう、副担任の廉人だ。涼恵は「はい、なんとか」と答える。

「廉人先生も来たし、ここで勉強しようか」

「マジかよ……」

 孝は見て分かるほど、嫌そうな顔をする。雪那は「勉強も、学生の仕事だよ?」とニコリと笑った。

「廉人せんせー!」

 亜花梨が廉人に抱き着く。

「可愛いなぁ……」

 廉人にかなり懐いている妹に、涼恵はほのぼのしていた。

 そうして、休みをはさみながら勉強をしていると、兄と弟が入ってきた。

「あ、亜花梨!ヤッホー!」

「記也お兄ちゃん!恵漣お兄ちゃんも!あそぼー!」

「えぇ、今は昼休みなので構いませんよ」

 二人は末妹を見て、笑顔を浮かべた。

「お兄ちゃん、お昼何食べるの?」

「兄さんお手製のお弁当ですよ。亜花梨の分もあります」

「やったー!」

 本当に涼恵に似ているなー、と孝は思った。きょうだい好きなところが特に。

「佑夜お兄ちゃんとかは?」

「中庭で待っていますよ。一緒に行きましょうか」

 みんなで行きましょう、と恵漣が珍しく孝の方を見る。どうやら寮生全員で食べるということらしい。

「雪那先生と廉人先生もどうっすか?」

「私達もいいのかい?」

「もちろんっす!ご飯はみんなで食べた方がおいしいっすよ!」

「じゃあ、たまには一緒に食べようかな」

 そして、みんなで中庭に行くとすでに神邦を含めたみんな集まっていた。

「おや?涼恵さん、お元気でしたか?」

「はい、すみません」

「いえ、無理なさる方があなたのためにはならないので。授業には出られるときに出てください」

 神邦の言葉に涼恵は「ありがとうございます」と笑った。

 弁当を広げ、食べ始める。

「亜花梨ちゃん、廉人先生に懐いてるね」

「あぁ、うれしいよな!」

 双子がそんな話をしていると、

「わたし、廉人先生のお嫁さんになりたい!」

(ちょっと亜花梨ちゃん!それここで言わない方が……!)

 そんな、きょうだい達が聞いてはいけない言葉が聞こえてくる。ピキッと三個分の音がたった。それに佑夜は慌てる。

「廉人先生?一体どういうことでしょう?」

(わぁあああ!涼恵の髪が別の生物に!)

「詳しく聞きたいっすねぇ」

(あああああ!この弟も怒らせたら怖いんだよ!)

「私にも聞かせてください」

(あぁあああああああ!誰かこのきょうだい止めてー!)

 佑夜が頭を抱える。こうなった彼らは、佑夜だけでは止められない。

 それを悟った愛斗、蘭、怜がそれぞれ話しかける。

「す、涼恵さん!構って!」

「うん?いいよ」

「記也、放課後どっか行かね?」

「お!いいな」

「恵漣、小説書き終わったからあとで読んでくれる?」

「私で構わないのなら、いいですよ」

(ありがとう三人とも!)

 佑夜は涙が出そうである。

 亜花梨が姉に抱き着くと、涼恵は妹の頭を撫でた。

「お姉ちゃん!」

「どうしたの?亜花梨ちゃん」

「お姉ちゃんって、彼氏とかいないの?」

「いるわけないじゃん。亜花梨ちゃんがまだ手のかかる子なのに」

「もうそんな年じゃないもん!」

「冗談だって」

 その様子を見ていた教師達は「仲がいいですね」と微笑んでいた。

 チャイムが鳴り、教室に戻る。涼恵と孝は雪那と一緒に保健室に向かった。


 放課後、蓮がやってくる。

「涼恵ちゃん、大丈夫だったか?」

「うん、なんとかね」

「それならよかった」

 ニコッと笑っていたが、周囲に人がいないことを確認して、

「後で話がある。ほかの人達も連れてきてほしい」

「了解、集めておくよ」

 そう言って、その場は去った。

 寮に戻った涼恵は、みんなを一階に集める。一階のロビーにはすでに人が集まっていた。

「久しぶりだな、涼恵」

「愛良君もね」

「え?こいつと知り合い?」

 蓮によく似た男性を見て、蘭は涼恵に尋ねる。それもそのハズ、この男は蓮と顔が瓜二つであるくせに問題児なのだ。生徒会長なのに問題児である啓と同じようなものである。

「シンシアちゃんも久しぶり」

「うん!久しぶりですね、涼恵ちゃん!」

「こら、シンシア。お前は身体が弱いんだからあまり暴れるな」

 金髪の少女――シンシアが涼恵の言葉に嬉しそうに跳ねていると、その兄であるユーカリが止めた。

「いいじゃない、ユーカリ。シンシアは私達の妹よ?」

「そうだよ、何かあった時のために私がいるんでしょ?」

 そんなユーカリをなだめたのは姉であるアネモネとシンシアの従者のアイリス。その様子に、ユーカリはため息をつく。

「はぁ……まぁいい」

 アネモネとユーカリは血が繋がっていない。今でこそ仲がいいが、最初はいがみ合っていたのだが……それはまた別の話。

「いくら俺でも分かるぞ。俺ら場違いじゃね?」

 孝が真顔でそう言った。慎也が「気にしない気にしない」と笑う。

「君、美しい……!モデルになってくれ!」

「ひゃ!?」

「こら、裕斗。涼恵ちゃんは人なれしていないんだ、怯えさせるな」

 涼恵がいつものごとく兄の後ろに隠れたのを見て、蓮が声をかけた残念イケメンの裕斗に注意した。

「涼恵、慣れたんじゃなかったのか?」

「そ、それとこれとは……違うもん……」

 愛良にからかわれ、涼恵は涙目で反論する。この調子では本当に慣れるまでどれだけかかることやら。

「そうだ。ほら、りゅう。彼女達がお前のいとこだ」

「え、そうなの?」

 蓮の後ろに隠れていた藍色の髪の少年が目を丸くする。

「いとこの姉に似ているな、お前は」

 蓮は小さく笑ってその頭を撫でた。りゅうはじーっと四人を見た後、前に出た。

「は、初めまして」

「はい、初めまして。私は恵漣と言います」

 恵漣が優しく頭を撫でると、最初こそ怯えていたが次第に笑顔を浮かべていた。それを見ていた涼恵も、前に出る。

「わぁ……身長高い……」

 りゅうは感動したような声を出した。それもそのハズ、涼恵はりゅうより背が高いのだ。

 さて、無駄話はここまでにして本題に入った。

「それで、話に入るが。「招かれざる客」がいるらしい」

 蓮の言葉に、涼恵とシンシアの表情が一変する。

「……なるほど」

「気を付けてくれ。特に涼恵ちゃん、君は狙われやすいだろうからな」

「分かってるよ」

 今回はそれだけだ、また今度情報共有をしようとこの日は解散する。

「……「モロツゥ」と「トリスト」、か……気を付けないとね」

「何?それ」

 ゆみが尋ねる。それに「オレ達の力を狙っている奴らっすよ」と記也が答えた。

「何せこの国の権力者は子供だけで、外国の御曹司達も集まっていますからね。今は格好の的なんですよ。しかもうちも、涼恵が私達より強力な力を持っていますから」

「なるほどね……だったらなおのこと、身を守らないと」

 啓の言葉に「えぇ」と恵漣も頷いた。

「……だから、その……みんなで妹を、守ってください」

 頭を下げて頼む兄に、「当然だ」と実弘が頷く。

「任せるぜよ!ワシだって、力だけは自信あるからな!」

 ゴウも笑って頷いた。それに「……ありがとうございます」と恵漣は涙を耐えた。


 ――魔の手は、そこまで迫ってきていることに、涼恵は気づいた。

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