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三章 歓迎会

 早朝、孝がトレーニングをしていると、

「どうぞ、お水です」

「おう、ありがと」

 ペットボトルの水を渡され、何も疑うことなくそれを受け取った。しかし数秒経って、

「涼恵!?いたのか!?」

 この時間に人がいるわけがないと正気に返った。いきなり大声を出され、涼恵はビクゥ!と肩を震わせた。

「あ、え、えと……す、すみません……」

「あ、いや、俺の方こそすまない」

 怯えさせてしまったと孝は謝る。ただでさえ年下の対応に慣れていないのに、引きこもりだった女の子の対応など出来るわけがない。

「……な、なぁ、近くのコンビニに行ってみないか?」

 とっさに誘ってみると、「コンビニ?」と涼恵は首を傾げた。そういえばあまり外にも出ていないのだから、知らなくてもおかしくはない。

「いろいろ売ってんだぜ。俺も行くからどうだ?」

 もう一度聞くと、涼恵が小さく頷いたのが見えた。孝はシャツを着て、涼恵をコンビニに連れて行く。

「ほへぇ……いろんなものがある……」

 USBメモリを見ながら、涼恵は呟いた。孝は笑って「ここのコンビニは基本なんでも置いてるぜ」と笑った。孝はプロテイン入りの飲み物を手に取り、レジに持って行った。

「その子、見ない顔ね。新しい子?」

「あぁ、かなりの人見知りでな」

「かわいい子ね、学園生活に早くなじんだらいいけど」

「そうだな」

 孝が買い物をして、いざ帰ろうと涼恵がいた方向を見ると、いなくなっていることに気付いた。

「……涼恵?どこ行った?」

 嫌な予感がして、孝はコンビニの外に出る。

 周囲を見て回ると、涼恵が男三人に囲まれているのが目に入った。

「なぁなぁ、おれたちと遊ぼうよ」

「あ、その、えっと……」

 涼恵が顔を青くして震えているのが見える。男達に囲まれているうえに人慣れしていないのだ、当然のことだろう。

 孝は近付き、涼恵を守るように抱きしめる。

「悪いな、こいつは俺の連れなんだ、ほかを当たってくれ」

 ガタイのいい男が出てきて、男達はおびえたように去っていく。それを見届けた後、孝は涼恵の方を見た。

「大丈夫だったか?」

「は、はい。ありがとうございます」

 涼恵は顔を真っ赤にして、お礼を言った。孝は涼恵に手を差し出す。

「手、繋ぐか。これならはぐれないだろ?」

 その言葉に、涼恵は目を丸くして、

「は、はい……」

 その手を握った。

(お、男の人と、初めて手を握った……大きい……)

 頬を染めながら、涼恵はそんなことを考える。

 そうして食堂まで行くと、兄が出迎えた。

「おや、涼恵。おはよう……」

 恵漣が手元を見て、静かになった。そして、

「孝さん?なぜ涼恵と手をつないでいるのですか?」

 昨日の涼恵と同じように後ろに鬼神を引き連れて詰め寄った。(こいつやっぱ涼恵の兄貴だ……!)と孝は肩を震わせる。

「ち、違うの。私が男の人に絡まれてたから助けてくれて……」

 涼恵が孝をかばうと、兄は「そうだったのですね。すみません」と鬼神を帰した。

(サンキュー涼恵!)

 命拾いした……と孝は胸をなでおろす。この兄は妹のことになると恐ろしいのだ。

 みんなが集まると、「蘭、涼恵と記也を連れてどこかに行っててくれる?」と怜に言われ、「わかった」と言われた本人は頷いた。

「二人とも、行こうぜ」

「え?」

「なんで?」

「いいから行ってこい」

 慎也につまみ出され、三人で外に出る。

「慎也君も雑だねぇ……」

 ネコ耳のついたフードを被った涼恵がため息をついた。犬の耳のついたフードを被った記也も「いつものことだろ……」と頷いた。

「蘭君、どこに行くの?」

「んー?お前たちはどこか行きたいとこねぇの?」

 蘭に聞かれ、二人は「うーん」とうなる。そして、

「猫缶買いたい」

「ドックフード買いたい」

「却下」

 明らかにネコや犬と遊ぼうとしている二人の発言を切り捨てると、二人は唇と尖らせた。

「ちぇ。それで、結局どこ行くんだ?」

 記也が尋ねると、「それじゃあ、デパートにでも行くか?」と聞き返す。

「すず姉、あっちでネコに構ってるけど」

「気まぐれすぎんだろ……」

 どこから持ってきたのか、猫じゃらしを使ってネコと遊んでいる姉を記也は引きずってくる。

「それで、どうするの?」

 涼恵が首を傾げる。蘭は「デパートに行ってみないか?」と提案する。

 数分後、デパートの中にある電気屋に来ていた。

「あ、これ新しいの出てたんだ」

「こんなのもあるぜ」

 双子はパソコン関係の機材を見て、ワイワイ話していた。そっち関係に詳しくない蘭は疑問符を浮かべながらそれを聞いていた。

「すず姉はあんま外出ねえもんな。いろいろあるぞ」

 記也が笑いながら姉に見せていく。

「やっぱり、現物見たほうがいいね……」

 涼恵はこういう機具にはこだわりがある。そういったことで言えば外に出られなかったのは致命的だった。

 蘭が「そろそろ飯、食わねぇか?」と提案すると、「もうそんな時間か」と記也が時計を見た。

「すず姉、行こうぜ」

「え、でも、人多いでしょ……?」

 この姉貴、いまだ人の多いところは苦手である。

「なら、テイクアウトしようぜ。それなら公園で食べられるし、いいだろ」

 蘭が言うと「それ、いいな」と弟も頷いたため、ハンバーガーセットを買って公園で食べる。

「それ食べ終わったら、戻ろう」

 スマホを見ていた蘭に言われ、二人は首を傾げる。

 寮に戻ると、そこはパーティー会場になっていた。二人は目を丸くして、

「片付け大丈夫なの?」

「真っ先にする反応か?」

 真っ先に掃除の心配をする姉に蘭がツッコミを入れる。

「ワインがある!」

「未成年は飲んだらダメだからな」

 弟の方にもツッコミが入った。ちなみにワインは下の階の問題児(愛良)が準備したものらしい。こっぴどく怒られていた。

「みんなで準備したんですよ!」

 希菜が涼恵の手をつかみ、その中心に連れてきた。

「涼恵さんのお話、聞きたいです」

 隣に座った希菜がそう言ってきた。涼恵は少し悩んで、

「記也が失敗した話とか?」

「すず姉!その話、絶対すんなよ!?」

 姉の発言に、弟は焦る。それを見ていた兄は笑った。

「あまり記也をいじめてはいけませんよ、涼恵」

「はーい、兄さん」

「からかってただけかよ!?」

 仲のいいきょうだいだなぁ、と周りの人達は思う。男女のきょうだいはどうしても仲が悪くなるイメージが強いからだろう。下の階の、成雲家の双子のように。……いや、あちらはツンデレが過ぎる結果か。

「でも、涼恵さんがこんなに早くなじむとは思わなかったよ」

 佑夜がその様子を見て笑った。

「そう?」

「あの子、分かると思うけど心を開いた人にしか近付かないからね。だから驚いたよ」

 確かに、初日はあんなにおびえていたのに、割とすぐに馴染んだと思う。幼馴染ときょうだい、それから雪那なら平気だから、その人達がみんなと話しているのを見て大丈夫だと思ったのだろう。

 しばらくして、恵漣が佑夜と話していると、恵漣の肩に涼恵の頭が乗った。

「おや、寝てしまっていますね」

 クスッと、兄は妹の寝顔を見て笑った。佑夜も「しばらく寝かせましょうか」と言った。

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