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一章 転校生

学パロ涼恵編の共通ルートです。

一応、涼恵編では恋愛要素が多くなる予定です。共通ルートのあとはそれぞれのルートに分かれて物語が進みます。

 ゼーゲンリュンヌ学園――。

 世界中の御曹司やお嬢様も通う、アヤメが校長を務める有名な学園。

 ここに、世界的有名な名家の子供が集まっていた。


 出会いの季節、四月。学園内でとある噂が流れていた。

「なぁ、知ってる?この学級に転校生が来るんだってさ」

 それを聞いた後ろの席に座っている青年、霜月 怜は目を丸くした。

「そうなの?男の子?女の子?」

「どっちもだって。どうやら双子らしいよ」

 姉と弟だってー、と言うと、近くで聞いていた巨漢、三代 孝がケラケラ笑った。

「姉貴の方は美人なのか?」

「噂では、美人らしいよ」

「えー!楽しみー!」

 道新 舞華が嬉しそうに言うと、隣に座っていた幼い女の子の如月 奈子は「……そうね」と頷いた。

「珍しいな、この学園に転校生なんて」

 秋原 蘭が目を見開く。実際、この学園に転校生が来るなんて珍しいことだ。

「名前は?」

 高比良 ゆみがその転校生の名前を聞こうとすると、

「失礼、その転校生というのはもしや……」

 森岡 恵漣が確認しようとすると、ガラッと教室の扉が開いた。担任が来たようだ。

「はいはい、いったんお話はやめて座ってくださいね」

 担任の神邦 真次と副担任の中松 廉人が教室に入ってきた。出席を取ろうとした神邦に、歌川 羽菜が質問する。

「先生!転校生が来るって本当ですか!?」

「おや、知っていましたか」

「恵漣さん、話しても大丈夫かな?」

 廉人が確認すると、恵漣は「えぇ、妹の方がちょっと難ありですからね……」と頷いた。

「恵漣のきょうだいなのー?」

 野白 啓が驚いた様子で聞くと、「えぇ、妹が引きこもりだったんですよ」と答えた。

「保険医の雪那先生の知人なんだ」

「ねぇ、本当に大丈夫?」

 恵漣に聞いたのは祈花 佑夜。彼と彼の双子の兄である祈花 慎也、そして高雪 愛斗は森岡きょうだいの幼馴染なのだ。

「大丈夫だって」

「何を心配しているんだ?佑夜」

 愛斗と慎也がニコニコしながら尋ねると、「お前らだよ、この問題児ども」と怒りに満ちた声で言った。

「恵漣さんのごきょうだい……」

「絶対美人だな」

 佐藤 希菜と松浦 麻実が笑ってそう言った。それとは反対に心配そうな表情を浮かべているのは麻実の兄である松浦 実弘と梶谷 ゴウ。

「大丈夫か……?」

「心配ぜよ……」

 そんなこんなしているうちに、三人分の足音が聞こえてきた。

「失礼します。涼恵と記也君が来ました」

 教室の扉を開けたのは神龍 雪那。その後ろに二人の影がいることが分かった。

「分かりました。では、まずは記也君から自己紹介をしてもらいましょうか」

 神邦に言われ、入ってきたのは……陽気な男の子。

「森岡 記也っす!よろしくお願いします!」

(いや陽キャ……!恵漣とは正反対……!)

 恵漣の弟と聞いていたのでもう少しおとなしいと思っていたのだが、予想外だった。では、姉の方はどうなのだろうかと心配になる。

「涼恵さん、大丈夫ですか?」

「は、はい……」

 緊張した面持ちで入ってきたのは……。

「も、森岡 涼恵……です……よ、よろしく、お願いします……」

(いやめっちゃ美人……!)

 さすが恵漣の妹というべきか、かなりの美少女だった。しかもモデル体型である。周囲から「まさかお嬢様……?」だとか「箱入り娘っぽい……」とか、「身長高い……」とか聞こえてくる。

 そんな中、涼恵は記也の後ろに隠れていた。

「涼恵は人見知りが激しい子だから、気を遣ってあげてね」

「それから、二人とも寮に入るから、寮生は過ごし方を教えてあげてほしい」

 雪那と廉人がそう言った。それに「はーい」とみんなが返事する。

 涼恵は兄の後ろの席に座る。窓際で、隣は弟だった。

「涼恵、久しぶりですね。元気にしてました?」

 放課後、兄が尋ねてきた。涼恵は「うん……何とか……」と小さく笑った。

「ご飯は食べてますか?また痩せた気がしますけど……」

「記也もいるし、食べてはいるんだけど……やっぱり食欲はないかな?いつも残しちゃって……」

 少し困った表情を浮かべて、涼恵は答えた。兄は頭を撫でながら「今度、久しぶりに作ってあげますよ」と約束した。

 そうして話していると、周囲に人が集まってきた。

「森岡さん!趣味って何!?」

「好きな食べ物は!?」

「あ、えと、その……」

 涼恵は兄の後ろに隠れる。恵漣は「すみませんね、妹は人馴れしていないのであまり一気に質問はしないでもらえませんか」と言った。それでも、やはり転校生ということで質問が飛んでくる。

「あの、恵漣さん、森岡さん。寮の案内をするので……」

 見かねた蘭が声をかける。それに乗るように「そうですね」と恵漣が頷いた。

 記也も一緒に寮に向かう途中、

「森岡さんは学校に通ったこと……」

 蘭が尋ねると、

「あー、すず姉、学校に登校したことがねぇんだ。高校も通信制で……」

 記也が答える。涼恵は緊張しているのか、無口だった。

「昔、いろいろあってな……。まぁ、いつか話すさ」

「……そうか」

 蘭はこれ以上踏み込むことはしなかった。これ以上は、涼恵の傷をえぐることになると思ったからだ。

 そうしている間に、大きな建物の前まで来た。ここが寮らしい。

 寮内の食堂に行くと既にみんながいた。

「涼恵さーん!」

「愛斗君、ヤッホー」

 愛斗が近付いてきて、涼恵の手を握る。涼恵は小さく笑った。

「そんな緊張しなくていいよー!」

「そ、そうかもしれないけど……」

「森岡さん、でいいのかなー?」

 啓が話しかけ、「ひゃっ!?」と涼恵が悲鳴を上げる。そして愛斗の後ろに隠れた。

「こらこら、ちゃんと挨拶しないとダメだよ。今日のために練習してきたんでしょ?」

「うー……それとこれとは違うもん……」

 本当に箱入り娘らしい。涙目で見つめてくる涼恵に啓は困ったように笑った。

「ちょっと難しそうだねー。後で話そうかなー」

「森岡さん、何か食べる?」

 怜が尋ねると、「涼恵さんは甘いものが好きだよ」と愛斗が答えた。

「……え、えっと……す、涼恵、で、大丈夫ですよ……記也と分からなくなると思いますし……」

 ここで初めて、涼恵が声を出す。

「分かった、じゃあ、そう呼ばせてもらうね。あ、俺は怜って言うんだ。よろしくね」

 怜が怖がらせないように笑うと、涼恵はコクコクと頷いた。

 怜がお菓子を持ってくる間、涼恵は立っていた佑夜の後ろに隠れていた。

「涼恵さん……座った方がいいんじゃない?」

「……っ!」

 ブンブンと首を横に振った。強くつかんでくるところを見るに、かなり緊張しているらしい。まぁあまり痛くはないのでいいのだが。

「ねぇねぇ、すずちゃーん」

 舞華が声をかける。ビクッと震え、

「な、なんですか……」

 涙を浮かべ、舞華の方を見る。

「怖がらないでよー。私、すずちゃんと仲良くなりたいな」

 優しい声をかけると、小動物のようにジッと見ていたが、やがて佑夜の後ろから出てくる。

「あ、出てきてくれた!」

「うー……」

「なぁなぁ、あっちで話そうぜ!」

 麻実が腕を掴み、涼恵を少し離れた席に連れて行った。

「心配だったけど、何とかやっていけそうだなぁ」

 それを見ていた記也が腕を組んで、うんうんと頷いていた。

「そうだね。初日はみんなの前で声すら出せないと思っていたけど」

「みなさんがいい人だと思ったんでしょう。こちらとしては喜ばしい限りです」

 佑夜と恵漣が満足そうに笑っている。

「あんな美人な妹がいるなら教えてくれよー、恵漣」

 孝が恵漣の肩に腕を回す。彼は「いろいろと事情があったので。あと引っ付かないでください」と離れる。

 怜がみんなにお茶を出す。そして、蘭の隣に座った。

「珍しい子だね。礼儀正しい子だけど、世間知らずって感じがするよ」

 怜がお茶を飲みながらそういうと、「まぁ、世間知らずというのはあっていますね」と恵漣が苦笑いを浮かべた。

「涼恵もいろいろあったんだよ。今はあまり触れてやらないでくれ」

 慎也がお茶を飲みながら言った。それに「……分かった」と怜は頷いた。

「らーんー!後でスズ姉の部屋行こうぜー!」

「い、いや、オレが女の子の部屋に行くのはアウトだろ……」

 記也にとっては姉の部屋に行くだけだが、蘭にとっては年頃の女の子の部屋に行こうといわれているようなものだ。

「俺も行こうかなー!」

「孝さんはダメに決まっているでしょう?」

 恵漣が目を鋭くした。孝は「じょ、冗談だって」と冷や汗を流す。

「でも、かわいいよねー。守ってあげたいタイプだ」

 啓が涼恵の方を見ながら笑った。

 その涼恵は、お茶を飲みながら話を聞いていた。

「でね!あそこのケーキ屋さんのショートケーキがすごくおいしいんだよ!」

 ゆみがケーキを食べながらそう言った。ちなみに兄が、今日涼恵が来るからと作っていたものでみんなの前に置いてある。

「涼恵さんは、ケーキお好きですか?」

 希菜が尋ねると、「そ、そうだね……甘いものは好きだよ……」と答えた。

「だったら、今度行ってみないか?涼恵のタイミングでいいからさ」

 麻実に言われ、涼恵は「ま、まぁ、行ってみたいですけど……」と困ったように笑った。

「で、でも、そんな遠くまで行けるかな……?」

「私達も一緒に行くから、大丈夫だよー!」

 心配そうな声に、舞華が明るく答えた。彼女は女性陣の中で最年長だ。

「涼恵、時間だよ」

 その時、雪那に声をかけられた。涼恵は「はーい、今行きます」と雪那のところに向かった。

「時間?」

 孝が首を傾げると、「あぁ、カウンセリングを受けているんだよ」と慎也が答えた。

「ほら、昔いろいろあったって言ったろ?そのせいで引きこもりになったんだよ」

「今回も、週に一回カウンセリングを受けるって条件で転校してきたからね」

「結構訳ありな子なんだね……」

 怜が呟くと、「涼恵さんはいい子だから、大丈夫ですよ」と佑夜が自分で淹れたコーヒーを飲みながら答えた。

「ほら、恵漣さんが張り切ってケーキとか作ってたでしょ?」

「そうだね。料理好きだし、あまり気にならなかったけど……」

「涼恵さんがきょうだいとかボク達の料理しか食べられなくなってしまって……今は市販のものも少し食べられるようになったけど、そう言った理由でいつも手作りなんですよ」

 それは相当だ。ここの寮は階ごとに食事当番。自分達の料理は食べられるのだろうか?

「食べられるとは思いますけど、もともと小食なので……」

「そ、そう?」

 それならいいけど……と怜は考える。


 一方そのころ、雪那の部屋でカウンセリングが始まる。と言っても、少し話すだけだが。

「これからやっていけそう?」

「えぇ、何とか」

 雪那が出してくれたホットミルクを飲みながら、涼恵は笑う。

「みんないい人だから、安心していいからね。少しずつ慣れていけばいいからさ。どうしてもって時は保健室に来ていいからね」

「はい、そうします。あ、そうだ!最近小説を書き始めたんです!」

 涼恵は近況報告をした。雪那は笑って「そうなんだね」と聞いていた。

「小説か……怜君も書いていたかな?話しておこうか?」

 その提案に「いえ、相手もお忙しいでしょうし……」とためらう。それを見て、雪那は小さく笑った。

「明日は休みだけど、恵漣君と買出しに行くんだよね?」

「はい、下着とか合わなくて……」

「気を付けて行ってくるんだよ」

 雪那の言葉に涼恵は笑って頷いた。


 戻ってくると、食堂が大惨事になっていた。

「あ!涼恵さん!夕食出来たよ!」

(いやダークマター出来てる……!)

 愛斗が何かを作り上げていた。そう、運悪く今日は愛斗と慎也が食事当番だったのだ。記也が机の上で倒れていた。どこからか「すず姉ー」と声が聞こえてくる気がする。

(魂抜けてる……!)

 これ以上犠牲を出すわけにはいかない……!

 そう思った涼恵は弟の魂を中に戻した後、愛斗と一緒に作った。

「まったく……あんまりみんなに変なもの食べさせたらダメだよ?」

「はーい、気を付けるよ、涼恵さん」

 渋い顔をしながら注意する涼恵に愛斗はヘラヘラと返した。本当に分かっているのか怪しいところである。

 そうして出来たのはチャーハン。あり合わせで作ったものだ。

「これをかけたら……」

「やめなさい」

 愛斗が変なものをその上にかけようとして、涼恵が止める。「えー……」と頬を膨れさせながら、愛斗はみんなの前に出す。

「涼恵、料理できんだな」

 孝が食べながら言うと、「すず姉は基本なんでもできんだぜ!」と記也が笑った。

「今度はカレーが食べたいぜ!」

「さっきのあれもカレーなんだけど」

「あれ、カレーだったの……?」

 愛斗の言葉に涼恵は困った表情を浮かべた。なぜカレーであのダークマターが出来るのだろう。野菜と肉を切ってルーを入れて煮込むだけだよね?

 せんべいも作っていたのでポリポリ食べていると、

「涼恵、明日はお買い物に行くんですよね?」

 兄が確認してきたので涼恵は「うん、日用品は買わないと……」と頷いた。

「あ、わたしも行きたいです!」

 希菜がそう言うと、ほかの女性陣も一斉に手を挙げる。恵漣としては心配だったが、妹を人と慣れさせるためと頷いた。


 その夜、涼恵がパソコンを使っていると突然扉が開いた。

「すず姉ー!来たぜー!」

「ちょ、記也!勝手に開けんなって!」

 弟と蘭だ。弟の突撃に慣れている涼恵は「どうしたの?」といたって普通に尋ねた。

「いや急な部屋突撃はいいのかよ!?」

「……?いつものことだから?」

「お前……いつもやってんのかよ……」

 蘭がため息をつくと、「え?当たり前じゃないの?」と涼恵が首を傾げた。

「……まぁ、きょうだいの形はそれぞれだからな……」

 何も言えなくなった蘭は無難な言葉を選ぶ。このきょうだいは距離感が近すぎる……。

 そうしてこの日の夜、蘭は双子と一緒に過ごすことになった。

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