ミッション8 ステータスを確認しよう
『報酬として<ステータス>機能を追加します』
ミッションさんの美声が頭に響き、『ステータス』という概念を思い出す。
そう言えばゲームにはステータスって当たり前のようにあったなと。
でもどうやってステータスを確認するのか。
それにまだ前回の『冒険者の記録』もまだどんな機能なのか確認できていなかった。
街のど真ん中で回復薬を使ってからそのまま頭を悩ませていたので取り敢えず本日の報告目的でゾジーのいる役場へと向かう。
仕事を終えたゾジーと酒場へと直行し、役長のソエルさんの愚痴を挟みつつも冒険の成果や出来事を情報交換した。
「ええぇぇ!オーガに遭遇したの?チヒィロォはよく生きて帰ってこれたね」
「うん、一発殴られたし自分でもほんとよく死ななかったなって思う」
「体は大丈夫なのかい?」
「ああ、道具屋で回復薬を買って使ったからもう痛みもないよ」
安心したゾジーだったが冒険者を勧めたのが自分だと思っている節もあり、
「もしチヒィロォが望むならあのオーガよりも怖い役長に頼んで役場の仕事が出来ないか相談してみてもいいけど・・・」
「はは、ありがとう。でも身分制限で役場の仕事には就けないんでしょ?それにまだ冒険者としてやっていきたい気持ちもあるから出来るところまでは頑張ってみるよ。ところでステータスってどうやって確認すればいいのか知ってるか?」
「ステータス?なんだいそりゃ。相変わらずチヒィロォは変な言葉を知ってるね。それってどういう意味なんだい?」
「ええっと、能力を数値化したり何かしらの指標があったり、個人の評価を示すものって感じなんだけど・・・」
「なるほど~それなら鑑定屋が出してくれる鑑定証のことかな」
「鑑定証ってのがあるんだ。それってどんなことが書いてあるの?」
ゾジーから聞いた鑑定証にはLVや戦力、魔力などをE~SSの7段階で表示し、どのようなスキルを取得しているかも記載されているらしい。
ただ鑑定を受けるのに最低でも四民層以上の身分が条件となり、更に利用料として小金貨1枚もする為いくつものハードルを越える必要がある。
この世界の常識として四民層以上の15歳になった少年少女は、成人の儀の一つの行事として鑑定を行い、その結果如何で将来の生業を決めていくのが一般的だという。
特に15歳くらいの年頃だと潜在的なスキル(取得していると気付いていないスキルなど)の発見もあり人生を決める一大イベントとして特に重視されるそうだ。
中には王国騎士に憧れて成人の儀までに剣を習ったり、魔法を習って魔法院を目指す者もいるそうだ。
特に貴族や上層階級に見られる風潮で、貧民層は習い事が出来ないし農家であれば農業系のスキルしか身に付いていないことが多い。
ちなみにゾジーは成人の儀で『人心緩和』というスキルを取得していることに気付いて人と接する仕事を選んだみたいだ。その一例だけとっても有効な手段であると頷ける。
ただソエル役長にはスキルが効いていないんじゃないか説へと話が続いてしまい、そのまま愚痴ルートまっしぐらとなりゾジーが酔って寝てしまったので相談会はお開きとなった。
安宿に戻った俺はステータス、もとい鑑定証を手に入れることが次のステップだと方針を定めて眠りについた。
◇◇◇
『ミッション発生 ステータスを確認しよう』
目覚めに鈴の音のような響きを聞き、体を伸ばして頭を働かせる。
やはり次は鑑定証を手に入れることで間違いなさそうだ、と確信する。
とりあえず必要なのは小金貨1枚と身分の昇格が最低条件なのでギルドで依頼をこなしていくしかない。
昨日オーガから逃げ切ったばかりだというのに危険地帯へと足を運ばなければいけないなんて本当に世知辛い。
元の世界でも嫌な出来事があれば学校や仕事に行きたくないと思うのと同じで、異世界だからってその感情が無くなるわけではないのだ。
だが他に生きていく手段が今のところ見つからないのだから仕方がない。
この異世界の方が命の危険が遥かに高いのに逃げられないという現実はそれなりにストレスである。
オーガというイレギュラーを除けば昨日のてファングラビットの討伐と納品という成功実績があるから同じ依頼を受けてまた二本木を目指して草原へと向かう。
それにしても鑑定証を得るまで結構お金を貯めないといけないなぁ、と独り言を呟き、何気なく発した言葉に引っ掛かりを覚える。
鑑定証・・・鑑定?
もしかして鑑定スキルがあれば自分を鑑定できるのではないか?と疑問が湧く。
これまで生活を成り立たせる為にあれこれと必死になっていたが自分のスキルの検証はあまりしてきていなかった。
ファングラビットの生息地までの途中、岩場を見つけたので休憩がてらスキルについて確認していくことにした。
今自分がミッションで手に入れたスキルは『言語理解』『鑑定』『恐怖体制』の三つだ。
そして機能の追加で『冒険者の記録』と『ステータス』を昨日手に入れた。
言語理解はゾジーとの会話で実感があるからスルー。
鑑定もファングラビットやオーガを鑑定することが出来た。
恐怖耐性に関してはオーガと直面した時に少し冷静でいられたことだろうか?
追加された機能は未だ確認は出来ていない。
考えつく方法として取り敢えず「ステータス!」と叫んでみたが、ウィンドウのような画面が表示されることもなく、手を前に突き出し「冒険者の記録!」と唱えてみてもなにも起きなかった。
そこで最初に疑問に思った鑑定を自分にかけることにした。
「鑑定!」
すると魔物の鑑定と同じように<チヒロ・イマイ>と鑑定結果が表示される。
その直後にバグが起きたようにノイズが入り、表示していた画面が煙を出して小さな雲のようにモクモクと膨れ上がっていく。
しばらくその現象に茫然としながら眺めていると徐々に雲は小さく収縮していき、1冊の本を地面に残して消え去った。
もしかして、と思い手に取ると<冒険者の記録>と書かれていることが分かる。
表紙をめくってみると、最初にステータスが書かれていた。
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【ステータス】
今井千尋 20才 男
種族:人間(異界)
状態:普通
LV:1
戦力:5
魔力:4
気力:6
知力:10
運力:2
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【スキル】
言語理解LV2、鑑定LV1、恐怖耐性LV1
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ゾジーに聞いた内容だとE~SSという大まかなランクで表示されるはずだったが俺のステータスは数字で書かれていた。
なぜこうなったのかも分からないがひとまずステータスを見ることができるようになったのは大きな成果だ。
これでミッションも達成となるだろう。
『ミッション達成』
『報酬として下級魔法書を獲得しました』
最後まで読んで頂きありがとうございます。
☆合間の小話
「ゾジーさん最近あの人と仲良いみたいですね」
「あの人?ああ、チヒィロォのことかい?」
「そうそう、チヒロさんです」
「チヒィロォはほんと変わってて面白いんだよ!もし良かったら今度紹介するよ?」
「い、いいんですか?」
「もっちろん!チヒィロォは知り合いも居ないみたいだからね。僕が対応出来ない時はララちゃんが助けてあげてよ」
「そういうことなら、はい、お願いします」
「よし、じゃあ早速チヒィロォ探して酒場に行こうか!」
「・・・ゾジーさん、後ろ」
「後ろ?」
振り向くとオーガのような表情を浮かべた役長が仁王立ちしている。
『チヒィロォ、僕はオーガからは逃げられないみたいだ・・・』