ミッション4 ギルドに登録しよう
無事奴隷から解放された俺は夜遅くまでゾジーの愚痴に付き合い、強くもないのに深酒をしてしまい小銀貨2枚の安宿で目を覚ました。
ゾジーの気持ちも分からんでもないが、あれって俺の解放祝いじゃなかったっけ?
まぁ、異世界に来て贅沢させて貰ったってことで感謝の方が大きいのは確かだが。
ゾジーへの評価は九割感謝で一割呆れって具合だ。
めちゃくちゃ良い人だし、友人としては好きだが俺が女だったとして付き合いたいかと問われればご遠慮させて貰うだろう。つまり良い人止まりの友人代表ってところだ。
いや、でも国営の役場で働いてるってことは意外と優秀で収入も平均より高く安定してるのかもしれない。
そう思えばワンチャンあるかも?
・・・不毛な疑問を掘り下げるのは俺の短所だな。やめよ。
数日ミッションを達成していなかったからか、ミッションが発生することも忘れて今日からの行動をどうするか、ある程度はゾジーにも選択肢を受けているが決めかねているのでもう一度ゾジーに相談にでも行こうかと思考を巡らせていると、
『ミッション発生 ギルドに登録しよう』
あ、俺にはこの特別なスキルがあったと思い出させた。
ゾジーからは暫く奉仕活動を続けるかギルドに登録して仕事を斡旋してもらうか、または自力で各店舗に行って労働契約を結ぶかなどを教えてもらっていた。
だがミッションが発生したことで俺の行動指針は確定したと言わざるを得ない。
「さてと、ギルドに行ってみるか」
何気に過ごしてはいるが見知らぬ慣れぬ土地で初めましての連続、いつの間にかこうやって独り言ちるとことで自分を奮い立たせていた。
安宿を出てまずはゾジーのいる総合役場へと顔を出す。
「ゾジーはいますか?」
「少々お待ち下さい」
若い女性職員が丁寧に応対してくれる。こんなみすぼらしい布一枚の俺に対してもそんな扱いをしてくれることに教育が行き届いていると感じた。
ゾジーよ、どうしてそうなった!?
受付カウンター前で暫し待っていると役場の奥の方からフラフラと頼りなく歩く小太りのおっさんが顔色悪く近づいてくる。
「やぁチヒィロォ・・・良い朝だね・・・・・・うぷ」
「おはようゾジー、昨日はご馳走様。それより二日酔い辛そうだね」
「大丈夫大丈夫、ただソエル役長に朝から酒臭いだの民の見本となる生活態度を、とクドクドお説教を受けたのはここだけの話だよ・・・。ところでチヒィロォは今日からどうするか決めたのかい?」
「ご愁傷さま。ああ、一応ギルドに登録することに決めたよ。それでゾジーにギルドについて教えてもらえないかと思って訪ねたんだ」
「ほうほう、ギルドに登録ね。この情報はなかなか高いよ?」
なぬっ!?と大袈裟にリアクションを取り、
「また愚痴を聞くってことでどうだろう?」
少し考えた素振りを見せるゾジー。
ニヤッと笑みを浮かべて「乗った!」と相変わらず馬鹿なやり取りを交わす。
「それでギルドなんだけど幾つか種類があるって話だったよね?冒険者ギルドに商業ギルド、研究ギルドとか教育ギルドなんてのもあるんだっけ?」
「そうそう、でも今のチヒィロォは冒険者ギルドしか登録出来ないよ」
「えっ!そうなの?」
「うん、まずは身分制度が大前提だからね。チヒィロォの場合最低層の五層民と言われているよ。冒険者ギルドは間口を広くしているから受け入れてくれる。でも商業ギルドは四層民から、研究ギルドは三層民、教育ギルドは二層民、一層民と呼ばれる身分は準貴族といった具合だね」
「へぇ、やっぱり貴族とかっているんだ・・・」
「お、おい!チヒィロォ、そんなことを口に出してはいけないよ!はぁ・・・、まだまだ教育が足りなかったようだね・・・また日が暮れる頃においでよ。色々と教えておかないとなぁ」
「ご、ごめんよ。でもありがとう」
「いいさ、チヒィロォは大事な友人だからね。とりあえず冒険者ギルドに登録して簡単な仕事を斡旋してもらうといいよ。頑張ってね」
「分かった!じゃあ報告も兼ねてまた寄らせてもらうよ」
そう告げて役場を立ち去る。
若い女性職員がゾジーに近寄り、
「あの人って昨日奴隷から解放されたんですよね?お金足りるんですか?」
あっ!!
ゾジーは冒険者ギルドに登録する際の料金のことを説明し忘れていたことに気付いたが、そこにはもうチヒロの姿はなかった。
少しの間天を仰ぐが、「ま、なんとかなるさ」とすぐに棚上げして業務に戻っていく。
良くも悪くも、いい性格の持ち主だなぁと女性職員は呆れるのだった。
◇◇◇
一人でギルドへと向かう途中、改めて街並みを見渡す。雰囲気は中世ヨーロッパといった見た目だがその時代に生きていたわけでもないので結局は何となくのイメージだ。
ただ文明的には旧時代と思われる建物が多いように感じるが文化的には意外にも進化している気がする。
例を挙げるなら紙だ。
元の世界のコピー用紙のような均一さはないにしてもある程度の製紙技術があるように思う。
それに街の石畳も中世ヨーロッパのイメージに比べれば凸凹が少なく、歩きやすい。
発展していることと燻っていることが入り交じって地球の歴史を人並みに齧っている俺としては歪に感じた。
そんなことを考えながら冒険者ギルドと思われる建物を見つけた。ゲームやラノベのイメージというか、西洋の酒場というか想定内の佇まい。
中に入ってみると人数は三十人くらいは居そうで、学校の教室二個分程の広さなので割合広々と感じる。
思った通り酒場も併設されており、依頼書が貼られているであろう掲示板も見受けられる。
やはり奥には受付カウンターがあり役場に比べて些かフランクな身だしなみの女の子っといった方が適切なスタッフに声をかける。
「あの、登録に来たんですけど出来ますか?」
「わわっ!めっちゃ丁寧っすねー。出来るっすよ!じゃあこの紙に登録する内容書いてくれっす」
「あ、自分字が書けないんですけど代筆とかってお願い出来ますか?」
「えっ?そんな丁寧な喋りなのに字書けないんすか?ぷぷ。良いっすよ、ウチが代わりに書くんで身分証見せてもらっていいっすか?」
若干の気まずさと苛立ちはあったもののここでトラブルを起こしても宜しくないので言う通りに身分プレートを出した。
「ふむふむ、チヒィロォさん、二十歳、と。意外と年取ってるっすねー。はい、あとは登録料銀貨2枚で完了っすよ」
なぬっ!?銀貨2枚も取られるの!?えっ?俺この五日間でやっと銀貨一枚集めたってのに・・・
ショックを受けている俺の顔を見て焦るように追加説明をしてくれた。
「あ、大丈夫っすよ!この登録料は依頼をこなせば初回報酬としてお返しするっすから」
おお!親切設計やん!って違う!問題なのは今俺がそんな大金を持っていないってこと。
仕方なくそれを説明する為に硬貨の入った小袋を開ける。
ん?あれ?なんでこんなに銀貨が入ってるんだろう?
えっ?
もしかしてゾジー?
マジで?
どうしよう、あのぽっちゃりイケおじ!
惚れてまうやろー!!!
と、酔っていた為ミッションの報酬に気付かなかったチヒロは壮大な勘違いをするのだった。
このお金はいつかゾジーに色付けて返すとして、今は登録料を支払う。
「はい、確かに銀貨二枚受け取ったっす」
少し待つように言われて数分。
カウンターから呼ばれて行くと身分証のプレートに鉄で囲うような額縁が取り付けられていた。
「これが身分証兼冒険者登録証になるっす。大事な物なんで無くさないようにするっす」
「はい、ありがとうございます!」
「あと冒険者の活動をする時はあんま丁寧な言葉は控えるっすよ。舐められて依頼拒否なんてことも中にはあるっすから。ランクが低いうちは関係ないっすけどね」
そう笑ってアドバイスをしてくれる。
軽くて雑な接客態度にも思うが立場的にはこっちがお金をもらう側だ。それに冒険者という粗雑な者たちを相手にするにはこれくらいの肝が据わってないとやっていけないのかもしれない。
「ああ、ありがとう。とりあえず何か簡単な仕事を紹介してもらえるかな?」
「いっすよー、じゃあ初心者向けの依頼ってことで薬草採取に、いってらーっす!」
『ミッション達成』
『鑑定LV1を獲得しました』
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