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ミッション3 身分証を手に入れよう



『ミッション発生 身分証を手に入れよう』



朝の目覚め一発目に美しい声が頭に響く。

それだけで異世界3日目が始まったことが分かり小さく溜息を溢す。


若干のわだかまりを胸の内に押し込めて起き上がり、凡そ30センチ四方の木窓を外に押し開けると澄んだ空気のおかげか環境の変化による嫌気が幾分か軽くなった気がした。



「身分証を手に入れよう・・・か」



そう独り言ちて、昨晩のミッション達成の成果を思い出す。


『言語理解LV1』


LV1ということは何かのきっかけでLVが上がっていくと考えていいだろう。

それがミッションの報酬でしか上げられないのか、または熟練度的な使えば使うだけ上がっていくのか、はたまたモンスターがいて倒すことで経験値を積むとかスキルポイントの振り分けとか・・・


今の段階で答えが得られないことに苦悩するのも馬鹿らしいと思い、宿部屋を片して(と言っても片付ける程の荷物も設備もアメニティもないので布一枚を畳んでベッドに置くだけだが)出入口へと向かった。



外に出るとゾジーが待っていた。


「チヒィロォ、オハヨウ。キョウモヨロシクネ」


おお!言語理解っ!!


片言でぎこちない感じに聞こえるけど確かに話している言葉を理解できる。

これだけで涙が零れそうなほどの安堵を覚えた。

急に泣き出してもおかしな奴だと思われるのでぐっと堪え、


「ゾジー、おはよう!今日もヨロシク!」


俺の言葉を受けたゾジーは目を見開いて驚いた。



「チヒィロォ、コトバガワカルノカイ?」


「ああ、少しだけ分かるようになった」


ゾジーは大袈裟に感動して元気いっぱいの笑顔で役所へと案内してくれる。

多分年上だし見た目も小奇麗とは言えないが愛嬌のある小太りのおっさんは意気揚々と進んでいく。



「ホラ、チヒィロォハヤクイクヨ!」



◇◇◇



軽犯奴隷として5日が経った。


奴隷歴5日、俺は現地人との会話にも少しずつ慣れてきて若干の違和感や無知は感じるものの不自由さは解消されていた。



役所(正式には国営総合役場という)へ着き、早速ゾジーに声を掛ける。


「おはようゾジー。今日の仕事は何かな?」


「チヒィロォ、何度も言うけどあくまでもこれはホウシカツドウだよ。まぁいいさ、今日は少し大変かもしれないけどその分援助金が出るからガンバッテ!そろそろ入街税も払えるンジャナイ?」


「そうだった、奉仕活動頑張るよ。入街税まであと小銀貨2枚だからね。無駄遣いしなければ今日にでも解放されそうだよ」


「そうかい、じゃあ奴隷解放祝いで晩御飯でもゴチソウしようジャナイか!ってことで今日の活動内容ナンダケド・・・」



****



「ぐあぁぁぁー、疲れたあああぁぁ」


役場に戻り受付カウンターに居たゾジーに完了届けを渡す。



「オツカレサマ、チヒィロォ。じゃあ報酬を渡すね」



カウンターの上に置かれたトレーには見たことのない硬貨1枚と小銀貨5枚が並べられた。


「ゾジー、この硬貨は?」


「それが銀貨ダヨ。それ1枚で入街税を払えるヨ」


「え?じゃあ初日に今日の奉仕活動していればこんなに長く奴隷やらなくても良かったんじゃ・・・」


ゾジーはニコニコと笑顔を崩さずに言った。


「それはそうなんだけどね。チヒィロォの場合言葉が通じなかったコトモあるし、どうにも常識に疎くてお金も持ってナカッタ。1日だけで野放しにしてしまうのは得策じゃないってことにナッタンダ」


「な、なるほど」


「ボクとしてはチヒィロォみたいな真面目なイイ奴と知り合えて楽しかったけどネ。それにチヒィロォにとっても小銀貨数枚でもあれば数日で野垂れ死ぬってことはナイダロウ?」


確かにゾジーが言う通り、異世界に来て訳の分からないまますぐに解放されていれば軽犯奴隷どころか正式に前科がついてもおかしくなかった。それに無一文で全裸(葉っぱのみ)ではどちらにしても楽しい未来図は描けなかっただろう。

この街の衛兵やゾジー達のおかげで人並みの生活を目指せるだけのスタートラインに立つことが出来たのだ。感謝こそすれ、文句を言うなんてもっての外だ。


「ありがとう、ゾジー。俺はゾジーやこの街の人達に救われたよ」


「ははは、いいのさ。それよりもこれからが大事だ。チヒィロォは変わってて面白いけど真面目だから大丈夫だ。でも困ったことがあればいつでも頼っておいでヨ」


「変わってるかな?ははは・・・」


乾いた笑いとは裏腹に目元はいつの間にか潤んでいて一滴も溢すまいと耐えていると目の周りの筋肉が悲鳴を上げて痛くなってくる。

その表情がおかしな造形だったのかゾジーは声を出して笑っている。



一頻り笑った後にゾジーは「さぁ、未来のチヒィロォを祝いにいこう!」と大きな声を出していたら上司のような女性が鬼の表情を浮かべてゾジーの後ろに立っていた。


「ゾジーさん、仕事を投げ出して酒場にでも行くつもりかしら?随分と良いご身分ね」


ギギギ・・・と音が出そうな動きでぎこちなく振り向くゾジーは青い顔をして汗をかいている。


「ははは、ま、まさかそんなことするわけないじゃないですかー」


「そう、それならいいわ。チヒィロ君、報告は受けているわ。お勤めご苦労様ね。入街税の支払いはこの役場でできるからそのままゾジーに渡して頂戴。あ、それと早めに身分証も発行してもらうといいわ。それもゾジーにやってもらって。ゾジーさん、会計報告書も本日中に提出しなさい。あと入街調査の記録と傾向も遅れているわ。よ・ろ・し・く・ね(ニコッ)」



見ていただけの俺ですら背筋にゾゾっと冷えた感覚を覚えたが、言われた張本人は背筋を伸ばして冷や汗をかいたまま心ここにあらず。放心状態となっていた。


しばらくして現実に戻ってきたゾジーに入街税の銀貨1枚を支払い、身分証発行手数料小銀貨2枚を渡して手続きを進めてくれた。


身分証は簡素なもので名前と年齢、性別が書かれたプレートに役場の発行印がついただけだった。


渡された身分証を確認してみると、



========

チヒィロォ

20才 男

========



うん、とてもシンプル。それはいい。


くそっ、ゾジーめ。そんな気はしていたけどやっぱり表記上もチヒィロォにしやがったな。


言語理解LV1だと日常会話はある程度理解することができるけど読み書きに関しては未だ簡単な単語や数字しか分からないままだ。




しかし、異世界に来て5日経ち、やっと身分を証明する物を手に入れることが出来た。これは俺にとってこの世界で初めて手に入れた俺だけの所有物。



こうして俺は異世界奴隷生活に幕を閉じることが出来たのだった。黒い腕輪も外されて完全な自由の身となったのだ。

めでたしめでたし。





その晩ゾジーとお祝いという名の愚痴を聞き、夜が更けていった・・・





『ミッション達成』


『報酬として銀貨10枚を獲得』



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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