ミッション1 プロローグ
異世界に来て数日が経ちました。
どうも、現在奴隷の今井千尋です。
何故奴隷なのかって?では回想からどうぞ。
◇◇◇
右も左も前も後ろも知らないアナザーワールドに放り出された俺は人里求めて始まりの地(森の端っこ)から街道を見つけてとにかく歩きました。
馬車が走るのを見ては隠れ、装備を身に付けた集団を見つけては身を潜め、そんな後ろ姿をヒントに街まで辿り着くことが出来ました。
話しかければいいのでは?
当然の疑問ですね。勿論俺だってそこまで馬鹿じゃないです。
やりました。いの一番に、それこそ第一村人に声をかけましたよ…。
勇気を出して声をかけた俺を、まるで汚物でも見るかの様に悲鳴を上げてトンズラされたのです。
更に不愉快なのは少し離れたところで振り返り、親指と人差し指で「小さい」とでも示しているのか嘲笑の表情を浮かべてキャハハと声を出して走り去って行ったのです。
あのクソ女、許すまじ!
失礼、言葉が汚くなってしまいました。
そんな苦い経験値を得たことで俺の小っぽけな勇気ってやつは脆く砕け散ってしまったことをお察しください。
そんなこんなでとにかく街まではたどり着いたのです。しかし何故でしょう。
あれよあれよという間に衛兵のような人達が俺を囲み、槍を向けて無理やり頭を地面に押さえつけてくるのです。
そんな物理的なストレスから「助けてください!ヘルプミー!SOS!」と、語彙力に乏しいながらも必死で困っていることを訴えても聞き入れてはくれません。
明らかに「何だこいつ」と困惑の表情を浮かべる衛兵たち。
このままでは平行線だと肩を竦め首を振り、俺の唯一の装備品である大きな葉っぱを取られた時に気まずい沈黙と噴き出すような嘲りと憐れむ優しい目を三者三様、十人十色に周囲の視線が俺へと向けられました。
そこで1人の衛兵が優しい顔をして肩に手を乗せ、「こっちに来い」と街の中へと連れ出してくれました。
出来れば大きな葉っぱは返して欲しいのですが?
街の中は中世ヨーロッパよろしく、剣や盾を身に付けた冒険者風の人達や見るからに薄地の服を来て闊歩する街人たちが往来しています。
何やら犬猫のようなそうでないような小動物も我が物顔で健気に歩いています。
ぐぃっと首根っこを掴まれたのは小動物ではなく俺の方で、振り向くと強面の巨漢が後ろに立っていました。その貫禄に震え上がり、どこがとは言いませんが縮み上がってしまったはいい思い出ですね。
そんな俺を見た大男は目線を下にやりながら優しい表情を浮かべました。
妙に柔和な優しい対応を受けつつも連れられた先は取り調べ室のような小部屋で、強面改め優面の巨漢に作務衣のような安っぽい布と紐を渡してくれました。
相変わらず何を言ってるのか分からずもボディランゲージのみのコミュニケーションで服をくれたことは理解したのですが、そこから両者とも頭を抱えてしまいました。
向こうも何か伝えようと必死に言葉を吐き出すのですが一向に理解出来ません。対してこちらも母国語である日本語を駆使して「助けてください、困っています」と訴えるも分かってもらえません。
小一時間ほどの取り調べは終わり、その日は柵付きの一室に泊めていただきましたよ。もしかしなくてもこれって牢屋かな?と内心不安を抱えていましたが、少しですがご飯にもありつけました。
味の薄い汁と石かと思うほど固い黒い塊。所謂黒パンってやつでしょう。
森から街までの徒歩と慣れない環境や劇的な変化に疲れていたのか、冷たい石の床でもすぐに微睡みへと落ちていきました。
眠りから覚めた時に頭の中に響くのです。
『ミッション発生 お金を手に入れよう』
ははーん!やっぱりな!こんな異常はなろう系で良くある異世界転生ってやつだな!
夢から覚めて現実に戻ったって良かったんですよ?
チクショウ!
マジかよ、マジで異世界転生したのかよ!?
転生開始で持ち物なしの全裸で言葉が通じないってどんだけ不親切設計だよ!!
許さねぇ!俺(主に下半身)を見て笑ったやつらもこの世界に送り込んできた天上人だろうと絶対に許してなるものか。
俺はこの世界を誰よりも笑って生きてやる!!!
最後まで読んで頂きありがとうございました。