剣道三倍段
剣道三倍段という言葉を使って文章を作りました。練習。
遡ること数十年前。
廃れ行く日本武道を憂いた日本武術協会は世界経済の一角を担う九頭竜財団と共同し、極秘裏に武術の興行化に踏み切った。
日本列島の南西に位置する名もなき無人島、そこを舞台に日本古来の古武術から始まり、亜細亜、印度、欧州等大陸に伝わる秘伝武術の使い手が一同に集い、競い、戦うトーナメント式武術大会、天下無双大会が開催された。
この大会はルール無用、殺し合いに近いその大会は血と娯楽に餓えた各国富豪たちに好まれた。また、武術家にとっては己の武術の威光を知らしめ、かつ大会優勝者には九頭竜財団からの巨額の報酬が与えられる絶好のチャンスでもあった。
そして20××年、数十回目に開催された大会決勝戦にて、二人の少女が鎬を削っていた。
鞍馬 水雲。
齢17歳。九州南部に伝来する鞍馬流古武術の第24代目。
剣術、柔術、居合、棒術等を含め様々な武具を取り扱う流派で、中でも彼女の得意とする獲物は槍。
相対するは白衣白袴の刀使いである九頭竜尊。
九頭竜財閥総裁の娘であり、黒く長い髪、整った顔立ちはまさに深窓の令嬢といった出で立ちであるが、その実、九頭竜抜刀術の使い手であり、齢15歳にして前回大会の優勝者であった。
水雲とて大会においては尊に次ぐ最年少であり、決勝に至るまでの尊の試合を見、尊には勝てると踏んでいた。
試合開始の合図とともに、水雲は大きく一歩踏み込んだ。
先手必勝、リーチを生かした槍の一突き。
ふすま槍の切っ先が尊の胸を貫く寸前、水雲は、地を蹴り、後方へ飛んだ。
尊は正眼の構えから動いてはいない。
ただまっすぐに水雲を見据えている。
水雲は確かに己が手から槍が巻き取られる、その感覚を覚え、恐怖していた。
―強い
剣道三倍段という言葉がある。槍や薙刀など長物に対して剣術で戦う場合、段位で言うなら三倍の技量が必要という意味だ。
つまり、槍は刀より有利であり、水雲は武術界でも鬼才と呼ばれた実力者である。
その水雲が間合いに入ることすらできない、すなわち尊の実力は少なく見積もっても水雲の3倍以上あるということを瞬時に悟った。
―負けるか
2度目の交戦。
再び水雲が先を取る。リーチでは水雲が勝っているため、相手を懐に入れなければ一方的に水雲が攻めることができる。
槍を下段に構え、尊の眼めがけ、突き上げるように刺す。尊は後ろに下がり避けるも、
突き上げた槍がそのまま振り下ろされた。
―決まった
水雲の思いとは裏腹に、手ごたえは宙を描く。
槍の刃が宙を飛び、槍の切り口が尊の鼻先をかすめ、むなしく空振りとなった。
水雲の一撃目をよけた尊は下段に構え、二撃目の上からの攻撃に対し下から切り上げたのだった。
尊は切り上げた刃を反転し、上段から水雲を切りにかかる。
刹那、水雲は槍を回転させ、尊の刃をはじこうとするも、
体制が崩れた状態では勢いが足りず、右肩に太刀を浴びてしまう。
金属が打ち合う鈍い音が響く。
水雲は黒色のスーツ型プロテクターを身に纏っており、肩の部分の装備が割れた音だった。
―切れてないが、骨が折れた。
水雲は再び尊との間合いを取りながら、半身で尊に相対する。槍の切っ先は切り落とされてしまったが、試合は続行される。気絶、敗北宣言、もしくは死亡。それ以外に試合が止まることはない。
幸い、鞍馬流において棒術の心得がある水雲にとっては十分に戦える余地があり、リーチの差でいえばまだ水雲が有利。
尊が上段に構え、水雲は下段。次の打ち合いで勝敗が決まるかに思えた。
「参りました」
そう一言延べ、尊は構えを解いた。
会場は騒然となった。
前回優勝候補の敗北の瞬間、それはあまりにもあっけなく宣言された。
歓声も聞こえるが、怒号や野次も多い。当然だ、決着はついていない。
「ふざけるな! 私と戦え!」
尊は答えない。刀を収め、水雲に背を向ける。
「尊、何で!」
水雲は尊を追いかけようとするも、審判に阻まれる。
「待って! 待ってよ!」
※
眼を開けると見知った天井があった。
―また、あの時のこと
目覚めはあまりよくないけれど、朝の準備をしなくてはならない。
カーテンを開けると朝日が差し込む。
今日も一日が始まる。
練習で書いたので続きません。その後の話はあらすじに書いた感じまで思いつきました。