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ヴァンパイア受けするとはなんでしょう?

「……ルーク様、本当にこの格好で仕事しなきゃだめなんですか?」


「当たり前だろ。あんなダッセェ服を俺の専属に着せてたら俺のセンスが疑われるだろ」


「……………」



あの破壊騒動の次の日。私はルーク様の部屋で専属として仕事をすることになった。


どうやらあの騒動のあとルーク様とノエル様で話し合い(?)をしたらしく、専属の仕事を一日ずつ交互にすることになったらしい。


まずは長男のルーク様からで、いつも通り部屋へ行くと早速ルーク様によって服装のダメ出しが始まったのだ。


ルーク様はダサいっていうけど、スカート丈の長いごく普通のメイド服で、正直どこがダサいのか全くわからない。

私個人としては、ここで何年も働いてずっとこの格好だったから、無駄に装飾やらがあるわけでもなく機能面も良く仕事しやすい服装で気に入って入るのだけど。


そして差し出された服を手に取り現在、私は現実から目を逸らしたくて仕方がない。

一瞬見ると同じようなメイド服なんだけど、丈がだいぶ違うのと肩が結構出ていて、なんというかセクシーな感じなのだ。


なにこれ、何かのプレイですか……?

センスがどうのっていうけど、これ着せる方がセンス疑いますよルーク様!!



「なんか不満そうだな」


「…………」


むしろこれ喜んで着る人の方が考えられないんですけど……

服を持って固まっていると、ルーク様は大きくため息をつく。



「仕方ねぇな、それじゃお前に選ばせてやるよ。これかそれどっちかさっさと着てこい。先が詰まってんだからもたもたすんなよ」



そう意地の悪い笑みを浮かべられ、私は確信する。

ルーク様は完全にわざと人の嫌がる服を渡して反応見て楽しんでる。



「ああ、場所はその部屋を使わせてやるから早く着替えろよ3分以内。できなかったらペナルティーだからな」


そういうとルーク様は側にあった砂時計をひっくり返した。


「わかりました着替えますよ!」


それを見て慌てて手渡された紙袋とメイド服を抱きかかえて隣の部屋に駆け込んだ。


とりあえず選択肢として受け取った袋の中身を広げてみる。


「…………………」


これは無理。

もうーー!!そういうのが好きならそういう店に行ってくださいよ!!

思わず投げてしまったけど、無駄に時間は浪費できない。消去法で仕方がなくメイド服を広げるしかなかった。


そして何分経ったかは正直わからないけど、こんなに早く着替えたことがないくらい早く着替え終えた私は座り込み物陰からルーク様の様子を伺った。

先程いた窓辺に背を預け本を読んでるようだ。


砂時計はまだ砂が落ちているのを確認し、まだ時間は大丈夫なようだ。

時間は大丈夫なんだろうけど、心が全然大丈夫じゃない。


膝より上の短い丈のスカートにガーターベルトにオフショルダーのようにざっくりと開いた肩部分でメイド服ときたものだ。


こんな格好で人前に出られるはずがない。



「さっきのもだけど、こんなのが趣味なんてルーク様は変態ですよ、絶対、完全に!!」


「へぇ、変態ねぇ」



気が付けば目の前にルーク様が何やら楽しそうに笑みを浮かべ、同じように私の視線に合わせて座り込む。


さっきまであそこで本を読んでたはずなのに一体いつからここに……

この言動から察するに、さっきの悪口が聞こえてたようだ。


恐怖で冷や汗が流れる。



「そんな襲ってくださいって言ってるような服を()()()()()()着るお前は本物のドヘンタイだよな?」


「……ごめんなさい」



ああこれは完全にさっきの仕返しにきてる。

余計なことを言った数分前に戻れるものなら戻りたい。なんでこういう時はやり直しができないの……。

そしてもうこの流れは何を言っても言い負かされる気しかしない。



「それに時間も守れない、この変態にはお仕置きが必要だな」


「ま、待ってください!時間はちゃんとまだ残ってます!」



なけなしの勇気を出してまだ砂が流れ落ちている砂時計を指差し反論を試みる。



「ああ、あれはもう三回目な。三回ねぇ、お前そんなにお仕置きされたかったのか。本当にとんだドヘンタイだな」



そういうとまたも意地悪な笑みを浮かべ、何かを考える素振りを見せる。


絶対そんなにかかってない!と言いたいけれど、着なれない服の着方に戸惑ったせいもあってそのくらい時間がかかったと言われたらそんな気もするのだ。


諦めてルーク様を見やると、わざとらしく手でひらひらと仰ぐ。

そして楽しそうに口を開いた。



「あーあ、暑いし喉が乾いた。今日は冷たいものが飲みたい気分だから、すぐ厨房から冷えた飲み物持ってこい」


「すぐに持ってきます!だけどその前に着……」



そう言いかけると素晴らしく楽しそうな笑顔を向けられた。



「なんでもないです、行ってきます……」


「従順な下僕は後でちゃんと可愛がってやるよ」



そんなルーク様の一言を背に私は絶望の覚悟を決めるのだった。





とにかく人に会わなければいいのだ。ルーク様の部屋を出て私は思い直す。

どんな格好してようが人に見られなきゃ何も問題はならない。


ふふっ見てるがいい!これまでで習得した隠れて行動する私の技術を!

まあ見られても困るんだけど。


すっと壁により辺りの気配に集中する。

人気も無し足音も無し。よし、行ける!

順調に厨房まで行けそうだ。

思い切って角を曲がろうとしたところだった。



「お前何してんの?」



急に背後から聞き覚えのある声に呼び止められた。

このタイミングで!?

というかなんでこうなっちゃうの!?


恐る恐る振り返ると、そこにはよりにもよってルキ様が不思議そうな表情でこちらを見つめていた。

そして、私の格好に気付くとみるみる顔を赤らめていった。



「あぁ、のルキ様、……おはようございます」



窓から差し込む月明かりを横目に何事もないように平常心で朝の挨拶をする。

ヴァンパイア達の行動時間は基本的に夜なので、挨拶としてはこれで間違ってはいない。



「お、お前なんて格好してんの!そんな格好で屋敷内をうろうろするとか変態なの!?」


「違います誤解です!!これはルーク様から着ろって言われた渡された服で」



急いで否定するとルキ様は何かを察したようにため息をついた。



「そういうことか、お前がそういう趣味のヤツじゃなくてよかった。まあ確かにヴァンパイア受けする服だしね。……だからってこんな格好の専属を一人外に出すなんて危険だと思うんだけど」


最後の方は声が小さくて聞こえなかったけど、どうやらルーク様のご趣味だと分かってくれたようで一安心する。それにしてもヴァンパイア受けするってどういうことだろう。小さく首を傾げる。



「どっちの意味でも安心しろよ。衣装に関してはこいつが自分でこの服を選んでんだからな」


「ひぁ!ルーク様!?」



声のした方を見れば口の端を上げたルーク様が面白そうに口の端を持ち上げ私の肩に手を乗せた。ルーク様の手がひんやりしているせいで余計に肩を震わせてしまう。


いつの間にそこにいたんだろう。そう言えばヴァンパイアは身体能力が高かったんだっけ。それにしたって早すぎる気がするのだけど。



「私がこれを選んだって言うと、ルキ様が誤解してしまうじゃないですか!」


「誤解も何も事実だろ。他にも選択肢をやったのに自分でそれを選んだ変態だもんな?」



そう笑みを濃くするルーク様。

そう言われたらルキ様には、私が自分で好んでこういう服を着るような変態みたいな印象になっちゃうじゃないですか!



「そ、それは!もう一つのがもっと酷いのだったからで!!ルキ様、本当なんです勘違いしないでください……」



泣きたくなるのを必死で堪えてルキ様の手を掴む。

すると小さくため息をついたと思うと私の手をすっと離した。



「ああもう分かったよ。ってかオレの専属でもないし、人の専属の扱いをどうこう言うつもりもないから」



そう言ってルキ様はさっさとその場を後にしたのだった。



「ルーク様のせいでルキ様に変なやつだって思われたかもしれないじゃないです、っ……!」



残された私はルーク様を睨むと、そのまま腕を引かれて壁を背に、ルーク様の両手で逃げ場を塞がれる形になり動けなくなる。


「そんなの別に構わねぇだろ、お前は俺の専属なんだから他のヤツにどう思われようが。俺からどう思われるかだけ考えておけばいいんだよ」


ギラリと赤く光る強い瞳に動けなくなる。



「ルーク様だけを考えて尽くします、ほら言えよ」


「……ルーク様だけを考えて、尽くします」



機嫌が悪いのか凄みのある声色に大人しく従うと、ルーク様はひと息つき私の腕を掴むとそのまま逆方向に歩き出した。



「今回のところはこれで許してやる。さっさと部屋に戻るぞ」



引きずられるようにルーク様についていく。

厨房まではもう角を曲がった先にあるのにと首を傾げる。


「ルーク様、喉が乾いたんじゃないんですか?飲み物持ってきますよ?せっかくここまで来たのに……」


「んなもんいらねぇよ。部屋に戻ったらお前が気失うまで飲んでやるんだしな。可愛がってやるって言っただろ」


ニヤリと笑うルーク様に私は顔面蒼白になる。

すごく根に持っていたらしい。

一生懸命首を振るが何も伝わらないようで。


「二度と他の奴の名前言えねぇようにお前の身体に教え込んでやるよ」


この時心に誓った。

ルーク様の前では他の人を過剰に気にしちゃダメなことを。

そのままずるずるルーク引きずられるように部屋へ連れ戻されるのであった。







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