イケメン
小噺を一つ
昔10年くらい名古屋に住んでたことがあるんだ。
あれは二十歳くらいのことだったかな。
知らない人もいるかもしれないけど、名古屋には地下鉄があるんだ。
その日俺は東山線って地下鉄に乗ってたんだ。
で、その頃の俺って彼女もいなくて、いたこともなくて、モテたい盛りで
髪型とか服装とか変な方向にキメちゃっててさ、
挙句の果てに席空いてんのに、座るのダサいとかいって立って乗ってたの。
俺が乗って次かその次の駅だったかな、
でけっこうきれいなお姉さんが二人乗ってきたのさ。
意識しながらも、見てることバレないように視界の端にたまに捉える
みたいな感じ、男子なら誰でも分かるんじゃないかな。
で、しばらくバレないように意識しながら、会話とかも聞こえる分だけ聞いてたの
そしたら、そのお姉さん二人、身体は全然違う明後日の方向むいてたんだけど、
首だけ回して、明らかに俺の方を見てる?気がするの。視界の端だからなんとなく
更に意識を集中すると、どうやら二人して顔を俺の方向に向けながら
「イケメン」
「イケメン」
って囁き合ってんのさ。
ついに俺の時代って思ったね。
一つだけ言っておくと俺は全くイケメンの真逆だ。
そんなこと、分かってたつもりだけど舞い上がっちゃってさ。
バッ!ってお姉さんたちの方を、どうだと言わんばかりに向いたさ。
そしたら、目が……合わない。
お姉さんたちの視線はこちらの方を向いているのに合わないんだ。
焦点がもっと上に合ってる。
なんだなんだ、と視線の先を追跡すると、俺の右手で掴んでいたつり革の先に
『イケメン http~ikemen.jp』みたいな広告が載ってたのさ。
何の広告か知らんけど紛らわしすぎんだろ!!