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八話 「んん? これって、周りの木の枝だよな?」

 ゴブリンツリーの洞窟前を護衛する間も、りあむはゴブリン達の観察を続けていた。

 改良が必要そうな点も、幾つか見つけている。

 その一つは、採集物を運ぶ方法についてだ。

 森で採集活動をするゴブリン達は、日に数回、森とゴブリンツリーの下を往復している。

 その時、荷物を抱えているのは、チームの半分ほどの数だけ。

 残りのゴブリンは、その周囲を守る様に、辺りを警戒する役割についていたのだ。

 りあむは収拾をするゴブリン全てが荷物を抱えているものだと思っていたので、これには少し驚いた。

 ゴブリンツリーの下へ来るゴブリンは皆荷物を抱えていたので、勘違いしていたのだ。

 だが、少し考えてみれば当たり前だろう。

 いくらゴブリンが狙われにくいとはいえ、無防備な状態で歩いているわけにもいかない。

 荷物を運ぶ役と、それを護衛する役に分かれるのは、ある種当然のことだろう。

 問題は、この時の荷物の運び方だ。

 護衛をしている場所からは、森から洞窟に向かい、荒れ地を歩くゴブリン達がよく見えるのだが、そのおかげでいろいろと観察することができる。

 そのおかげで分かったのだが、荒れ地はとにかく足場が悪いらしい。

 普通であればバランスを取りながら歩くことに何ら支障はないのだが、荷物を抱えているゴブリンはそうもいかない。

 両手がふさがり、荷物のせいで足元も見にくいのだ。

 そのせいで、何度か転びそうになったり、実際に転んでいるゴブリンもいた。

 にもかかわらず、一度に運べる量は正直なところさして多いとは言えない。

 何しろ、手で持てる量しか運べないのだ。

 りあむが思いつく限り、これらを一気に解決する方法がある。

 袋か、背負子のようなものを使えば良い。

 それだけで、運搬効率は上がるし、安全性も確保できるはずだ。

 問題は、材料と制作手段である。

 森の中でツタのような植物を手に入れれば、材料の問題はクリアできるだろう。

 制作方法は、りあむの知識で何とかなる。

 学生時代に実習で習ったりしたし、成人してからは仕事柄覚える必要もあったからだ。

 田舎の役場職員というのは、様々な仕事をするものなのである。

 ネックになるのは、それをゴブリンにやって貰わなければならない、というところだろう。

 ゴブリンの指は意外に太く、あまり器用そうには見えない。

 期待が持てるのは、「特別なゴブリン」であるケンタだろうか。

 普通のゴブリンよりも器用だ、という話なので、何とかなるかもしれない。




 あれやこれやと考えているうちに、洞窟の前に沢山のゴブリン達が集まり始めた。

 採集や狩りに行っていたゴブリン達が、戻ってきたのだ。

 狩りに行っていたゴブリン達は、一抱えほどある獣を二匹仕留めて来ていた。

 大型のネズミか、兎かと言った外見の獣で、よくゴブリン達が狩ってくる獲物だ。

 名前は、「じゃっか」というらしい。

 これもやはり、ゴブリン達が手で運んでいた。

 どうやら、運搬のために道具を使うことはないらしい。

 もし道具を用意できれば、ゴブリン達は使ってくれるだろうか。

 武器を使うことはあるという話なので、説明次第かもしれない。

 そのあたりは、やはり試してみるしかないだろう。

 今後の課題の一つである。

 ちなみに、今回の狩りで死んだり怪我をしたゴブリンは、居ない様子だった。

 獲物を得られ、怪我をする者はいないという、最高の結果だ。


 全てのゴブリンが揃った所で、それぞれのチームのリーダーが集まった。

 どうやら、打ち合わせを始めるようである。

 りあむはケンタに頼み、それが聞こえる位置まで近づいてもらう。


「かりは、うまくいった。ぶきもぶじだ。うまくつかってくれ」


「ぶき、だいじ。なくさないよう、きをつける」


 狩りをしていたチームが、使っていた武器を、次に狩りをするチームに渡しているようだ。

 太く重そうなこん棒に、先が鋭くとがった槍のような木材が、それぞれ数本ずつ。

 どれも手を加えて加工したようには見えず、そのままの形で使っているように見える。

 なかなかに凶悪そうな形のものもあるが、天然自然にそういった形状の植物が生えているのかもしれない。

 ゴブリンがなる木があるのだから、槍のような枝の付く木があっても文句は言えないだろう。

 もっとも「槍のような」とはいっても、そこまで完全な槍の形ではない。

 見た目的に言うと、竹やりが近いだろうか。

 それでも、何かを突き刺すには十分そうではあるのだが。


 武器は、ゴブリン達にとって貴重なモノらしい。

 受け渡しも慎重で、破損個所が無いかなどもざっくりと確認しているようだ。

 全員が持つには数が足りておらず、持つことができるのは限られたゴブリンだけのようである。

 事前にりあむが聞いた話では、武器は作るものではなく、たまたま拾うものらしい。

 武器として使えそうな形の自然物を見つけ出し、それを使うというのだ。

 ただ、ゴブリン達は狩りや採集などに忙しく、武器探しにばかり時間を取ることは出来ない。

 なので、入手率はかなり低いのだという。


「自分達で武器が作れれば、一番いいんだろうけどなぁ」


 りあむは悩むように呟きながら、ケンタの頭に顎を載せた。

 特に触った感覚はないが、何かの上に体を置くというのはなんとなく楽になった気がするのだ。

 どうもゴブリン達には、自分達で武器を作るという概念があまりないらしい。

 方法を知らないのか、あるいはそもそもそこまで器用ではないのか。

 実際に武器を作って見てもらって、試すのが一番だろう。

 上手くいけば儲けものだ。

 りあむがそんなことを考えている間にも、リーダー達による打ち合わせは続いている。


「りあむ、わたしのちーむにいる。ついてくる」


「つぎは、さいしゅうだったな。きをつけてくれ」


「ごぶりんたべるもの、みていない。だけど、きをつけて」


 どうやら、りあむが外に出たことについて話しているらしい。

 森の中にいる敵についても、話題に出ている。

 ゴブリンは基本的に恐ろしく不味く、食べる生き物はほとんどいない。

 だが、それはあくまでほとんどであって、ゴブリンを狙う生き物もいるのだとか。

 蓼食う虫も好き好き、という奴だろう。


「わたしたちは、どうくつをまもる。かりと、さいしゅう、きをつけて」


 打ち合わせが終わり、それぞれのチームへとリーダーが戻っていく。

 これから、それぞれの仕事へと向かうようだ。

 りあむ達の所へ戻ってきたリーダーは、早速指示を出し始めた。


「もりへ、むかう。こんかいは、えだをあつめる。じめんに、おちているものを、みつける」


 リーダーの指示を受け、ケンタを含めたチームのゴブリン達は「わかった」と返事をする。

 それを確認し、リーダーは森の方へと向けて歩き出した。

 ほかのゴブリン達も、その後に続く。

 りあむは、森へ向かう筈のもう一つのチーム、狩りをするゴブリン達の方へと目を向けた。

 やはり森へ向かって歩き出しているが、りあむ達とは違うルートで向かうようだ。

 狩りと採集とで、場所が違うのだろう。

 どうやら、リーダー達は先ほどの打ち合わせで、それぞれのチームが向かう場所につても話し合っていたらしい。

 りあむが武器について、考察している間のことだ。

 一応りあむも意識の片隅で話を聞いていたのだが、飛び出してくる単語が分からず、聞き流していた。

 どうやら土地の名前、あるいは目印の名前らしいのだが、それが何なのか分からなかったのだ。

 突然「でかいき」とか「かっくんざか」などと言われても、どんな場所なのかの想像は出来ても、位置などについて分かろうはずもない。

 とりあえず、今回ケンタがいるチームが向かうのは、その「でかいき」とやらがある場所なのだという。


「あの、リーダー。デカい木って、どのぐらいの大きさなんです?」


「ままより、ずっとでかい」


 りあむの質問に、リーダーが身振りを交えてこたえる。

 ママというのは、ゴブリンツリーのことだ。

 ゴブリン達にとっては確かに「ママ」的な存在なので、何も間違ってはいない。

 先日まで「き」とだけ呼ばれていたゴブリンツリーだが、呼び名が変わってきっと満足していることだろうと、りあむは思っている。

 まあ、当のゴブリンツリー自身は「ゴブリンツリー」と呼ばれたがっていたわけだが。

 しかし、ゴブリンツリーよりデカいと言われても、りあむにはどの程度のものなのか想像が付かなかった。

 そもそも、ゴブリンツリー自体がさして巨木という訳でもない。

 あれよりも大きな木は、地球でもたくさんあるだろう。


「ま、実際見てみるしかないか」


 りあむは溜息を吐くと、ひとまず周囲の観察を始めることにした。

 荒れ地とはいえ、岩と土以外何もない訳ではないはずだ。

 危険がありそうなら、それに対応することも出来るかもしれない。

 りあむはケンタに引っ張られながら、きょろきょろとあたりを見回し始めた。




 洞窟から森へ行くまでにある、荒れ地を観察していたりあむだったが、ほとんど何も見つけることができなかった。

 動物や昆虫等もおらず、ところどころ細い草が生えている程度。

 コケなどもまばらで、生き物の気配が恐ろしく希薄だ。

 道中ところどころ湿った地面があり、よく見ればうっすらとだが水が染み出している場所があった。

 普通、そういった場所であれば生き物が寄ってきそうなものだというのに、それすらない。

 理由をゴブリンに聞いてみたが、わからないという返事が返ってくるばかりだ。

 そのあたりの理由の解明も、りあむの今後の課題になるのだろうか。


 荒れ地から一転して地面が土に変化し始め、木々が生え始めたあたりで、ゴブリン達は足を止めた。

 円を描くように集まると、リーダーが全員に指示を与え始める。


「きみと、きみと、きみ。にもつはこぶ。のこりは、ごえい。こえだをあつめたら、もどる」


 指示と言っても、内容は恐ろしくざっくりしたものだ。

 ちなみに、ゴブリン達には固有名詞。

 つまるところ、個人名のようなものはない。

 それでは不便なようにも思えるが、実際はそうでもないようだ。

 リーダーが指示を出し、ほかのゴブリンはそれに従うだけだから、だろうか。

 他にも色々理由があるのだろうが、今はそれよりも採集作業である。

 指示の伝達を終えると、ゴブリン達は森の中へと入っていく。

 森の中は、木々が鬱蒼と茂っており、視界が極端に悪くなった。

 その代わり、生命の気配は荒れ地の比ではない。

 周囲を少し見渡せば、そこかしこに動植物があふれている。

 ゴブリン達は、縦に長い列を作り進んでいく。

 どうやらゴブリンは、かなり身軽な種族らしい。

 障害物をするすると避けながら歩く動きは、実に滑らかだ。

 多少足場が悪くても、地面に手をついて四足歩行の形で切り抜ける。

 普段は二足歩行なのだが、そういった動きも可能なようだ。

 体型も、人間とゴリラ、オランウータンなどの中間と言った感じだからだろうか。

 脚は少々短く、腕が長いその体系は、やはり人間とはバランスが違うらしい。


 森の木々や草などは、りあむの体をすり抜けてしまう。

 おかげで障害物などを気にせず、周囲を観察することができた。

 そのおかげか、一つの疑問が浮かんだ。


「採集って、わざわざ森の中の方へ行かないといけないんです? 入口の辺りでも葉っぱとか木の枝とかありましたけど」


「もり、おくのもの。まりょく、たくさん。えいようになる」


 リーダーから帰ってきた答えに、りあむは思わず納得したようにうなずいた。

 この世界には魔力というものがあり、生物には不可欠な栄養になっている。

 木の枝や葉っぱなどの収集物にも魔力が宿っているのだとすれば、なるほど少しでもそれがたくさんあるものを欲するのは道理だろう。


「でも、どうやって魔力の量なんて調べたんです?」


「けいけんそく。いろんなところで、えだひろってくる。ままのちかくに、うめる。まりょくのりょう、わかる」


 簡単なようだが、実は恐ろしく時間のかかる実証方法だ。

 ゴブリンツリーは、根元に埋められたものに込められた魔力などが、ある程度分かるらしい。

 だが、あくまである程度で在り、それを判別するにもそれなりに時間がかかる。

 分解して栄養を吸収するため、時間が必要なのだ。

 森の中の様々な場所に赴いては、素材を収集して運び、埋めるという作業を、延々繰り返してきたのだろう。

 しかし、それで理由がはっきりした。

 魔力が豊富だというのならば、確かにわざわざ森の奥まで行く理由になる。

 基本的に魔力の補給は、狩りで得た獲物に頼らざるを得ない。

 ほかのものから得られる魔力は微々たるものだが、それでもないよりはましだろう。

 少しでも含有量が多いものを求めるのは、当然のことと言っていい。


「森の奥の方が魔力が多い。ってことは、逆に森の外は魔力が少ないってことか? あ、荒れ地に生き物が少ないのって、それが原因?」


 荒れ地に何故生き物がいないのかわからなかったが、魔力が理由なのだろうか。

 何らかの理由で魔力が少なく、生き物が住めないのかもしれない。

 そう考えたりあむだったが、それではゴブリン達も荒れ地を横切ることができないだろう。

 だが、考え方としてはいい線を行っている気がする。


「うーん。なんだろう。まだ考えるための材料が少なすぎる」


 推論は立てられるにしても、あまりにも大雑把になってしまう。

 他にも取りこぼしている情報が無いか、と、りあむが頭をひねっていると、ゴブリン達の動きが止まった。

 どうやら、目的の場所に着いたらしい。

 見れば、いつの間にか開けた場所にやって来ている。

 それまで周りにあった木々が無く、草なども生えていない。

 一体どういうことかと周りを見回したりあむの目に、巨大な物体が飛び込んできた。

 最初は壁かに見えたが、実際にはそうではない。

 恐ろしく巨大な木の幹だということに気が付くのに、りあむは数秒の時間を要した。

 横幅にして、両手を広げたゴブリン六匹分以上はあるだろう。

 十八匹のゴブリンが手をつなげても、周囲を囲むのに足りないかもしれない。

 どうやら、これが件の「デカい木」であるようだ。


「なるほど、こりゃでかい」


 半笑いしながら、りあむは上の方へと顔を向ける。

 頭上は、「デカい木」の枝葉が覆っていた。

 木や草が育たないのは、どうやら「デカい木」によって光が遮られているからのようだ。

 ここで、りあむは違和感を感じた。

 木の幹が太ければ、通常は枝葉の位置も上の方へと上がっていく。

 全体の縮尺が大きくなれば、自然そうなるはずなのだが。

 この木は、周りのほかの木とあまり変わらない位置に枝葉が生えているように見える。

 そもそもこれだけ大きな木であれば、遠くから見ても頭一つ飛び出ているはずだ。

 森に入る前に存在に気が付きそうなものだが、そういったものは全く見受けられなかった。

 そこで、りあむはある可能性に気が付く。


「あの、リーダー。この木ってすごく太いけど、実はあんまり高さは無かったりするんですかね?」


「でかいき、ふとい。でも、たかくない。よこに、ひろい。のぼってみたから、わかる」


 どうやら、りあむの想像通りであったらしい。

 木は横に広く枝葉を伸ばしており、上にはそれほど高くないようだ。

 枝葉が邪魔で下からは確認できないが、ゴブリン達は木を登って確認したらしい。

 りあむが感心しながら木を見上げている間に、ゴブリン達は木の枝を拾い集め始めた。

 地面を見てみると、沢山の枝葉が落ちているのが分かる。

 大きな木のものか、と思ったりあむだったが、どうもそうではないらしい。


「んん? これって、周りの木の枝だよな?」


 大きな木の枝や葉も、時々は落ちてはいるのだが、ほとんどが周囲の木の枝葉である。

 少し不自然に感じたりあむは、周囲の木へと目を凝らした。

 すると、思いがけないものを見つける。

 巨木の枝と、それ以外の木の枝が接触している場所に、小さな虫が集っていたのだ。

 かなり頭上の高い位置での出来事なのだが、どうやら木の精霊の体になったりあむの目は、相当に高性能らしい。

 おかげで、離れた場所もよく観察することができた。

 集っている虫は、りあむの見たことが無い形をしている。

 一番近いものでいえば、アリだろうか。

 大きな顎を持っており、内側だけではなく、外側にまでとげとげがついている。

 虫達はそれを器用に使い、枝葉を切断しているのだ。


「なんだこれ」


 困惑するりあむに気が付いたのか、リーダーが近くに寄ってきた。


「でかいき、むしすんでる。でかいき、むしに、みつやる。むし、でかいき、まもる」


 どうやらあの虫と「デカい木」は、共生関係にあるらしい。

 木は虫に栄養を提供し、虫は木を守る。

 リーダーに促され、りあむとケンタは「デカい木」を見上げる。

 見れば、「デカい木」の枝の一部が、こぶ状になっているのが分かった。

 そこに空いた穴から、先ほどの虫がひっきりなしに出入りしている。

 さらによく見れば、「デカい木」の葉の裏に、水滴のようなものがたまっているのが分かった。

 どうやら、樹液か何かのようだ。


「もしかして、アリ植物みたいなもんなのか?」


 アリ植物というのは、アリと共生関係にある植物のことだ。

 植物内部にアリを住まわせ、食料まで提供する種もある。

 その代わり、アリに身を守らせるのだ。

 アリは獰猛な昆虫で、多くの虫、あるいは動物すらも、アリを嫌う傾向にある。

 また、アリは自分達の巣を攻撃するものを、徹底的に排除しようとするもだ。

 植物は、そういった習性を利用しているのである。

 巣を提供し、餌まで用意したとしても、アリによる防衛力はそれに見合う魅力があるものなのだろう。

 ちなみに、なぜりあむにそんな知識があるかと言えば。

 よく、CSチャンネルの自然関係番組を見ていたから、であった。

 田舎というのは、とにかく娯楽が少ない。

 そういうものでも見ていないと、ひまを紛らわせられなかったのだ。


「まさか、デカい木の邪魔になりそうな植物、全部あの虫が切ってるってことか?」


 驚いたように呟きながら、りあむは上を見上げた。

 虫達は「デカい木」の枝からほかの木の枝に渡り、切り落とそうと盛んに動いている。

 どうやら、「デカい木」が枝葉を広げるのに邪魔なものを、排除しているらしい。

 よく地面を見てみれば、種のようなものを咥えている虫もいる。

 ただ、虫は種を運んでいるわけではなく、粉々に切断しているようなのだ。


「上では枝を、下では種や芽を潰してるんだ。すごい執念」


 ゴブリン達は、この虫達が落とした枝葉を拾い集めているわけだ。


「あたらしい、えだ、はっぱ。えいよう、まりょく、たくさん。まま、おおきくなる」


 普通に地面に落ちている枝葉よりも、生えていたものの方が栄養や魔力が多い、ということだろうか。

 経験則だと言っていたので、確かなことなのだろう。

 ゴブリン達はそれを求めて、ここに来たわけだ。


「ここで、えだひろう。みずば、ちかい。べんり」


 しかも、水場まで近くにあるらしい。

 自分達で木を伐る必要もなく、水場まで近いとなれば、なるほどここまでくる理由としては十分かもしれない。


「色々考えてるんですねぇ。しかし、あのアリっぽい虫。なんとなく親近感があるなぁ」


 種類は違うし、多少形態は異なるとはいえ、お互い木の為に働いている身の上である。

 全くの他人とは思えなかった。

 まさか、アリっぽい虫にこんな感情を抱く日が来ようとは。

 りあむは、何となく乾いた笑いを響かせた。

 ひとしきり説明を終えたところで、リーダーとケンタは、枝を拾い集める作業を始める。

 その間、りあむはじっくりと周囲の観察をすることにした。

 木の周りには、動物の気配はない。

 おそらくではあるが、あのアリっぽい虫のせいだろう。

 地球でも多くの虫や動物は、アリを嫌うものである。

 この森でも、アリを嫌う動物が多いのかもしれない。

 では、なぜゴブリンはアリっぽい虫を気にしないのだろうか。


「あの虫って、ゴブリンに攻撃してこないんですか?」


「してくる。でも、ふつうはへいき。でかいきに、ちかづきすぎる。むし、かみつく。それいがい、よってこない。ごぶりんかむ、むし、くるしむ」


 どうやらゴブリンのクソまずさ加減は、虫に対しても有効らしい。

 近づきすぎなければ攻撃してこないとなれば、ゴブリンにとってここは安全地帯だ。

 採集にはもってこいの場所と言っていい。


 作業はしばらく続き、それなりの量の枝が集まった。

 ゴブリン達はリーダーの指示の通り、枝を運ぶものと、護衛するものに分かれる。

 運ぶものの準備が整った所で、次の目的地へと足を向けた。

 向かうのは、森の中にあるという水場である。

 一体どんな場所なのだろう。

 りあむは緊張と、わくわく感を感じながら、枝を抱えているケンタに引っ張られていくのであった。

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