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四十一話 「ありが、くる」

 洞窟の出入り口の前で集まり、情報交換。

 その後、防衛、採集、狩猟を担当する班を確認し、それぞれの持ち場へ移動。

 ルーティーンを無事にこなし、りあむが新しい防衛方法や対人間戦術に思考を飛ばしかけた、その時だ。

 警備にあたっていたゴブリン達が、にわかに騒がしくなった。

 何があったのかと考えているうちに、一匹のゴブリンが洞窟の中に飛び込んできた。


「ありが、くる」


 この言葉で、全てが理解できた。


「戦闘準備ー!!!」


 りあむがすかさず叫ぶが、誰も聞いていなかった。

 ゴブリン達はさっさと動き始めていたからだ。

 一瞬寂しそうな顔をするりあむだが、それどころではない。

 素早く反応したゴブリン達の動きは、むしろ頼もしいと思ってしかるべきだろう。




 採集と狩猟を担当する班が、森と荒れ地の境に差し掛かった時である。

 最初に気が付いたのは、ウルフ・プラント達だ。

 ついで、すぐにゴブリン達も異変を察知した。

 暴食アリの匂いだ。

 それに気が付いたゴブリン達の動きは、素早かった。

 全員ですぐさま洞窟へ向けて駆け足。

 ウルフ・プラントの一匹を先行させ、洞窟へ状況を報せることとした。

 荷物を背負っていない状態ならば、ウルフ・プラントの足の速さはゴブリン達を上回るのだ。

 知らせを受けたゴブリン達は、すぐさま打ち合わせ通りの行動を開始した。

 まずは武器を引っ張りだして武装。

 完成したバリスタの近くへ矢玉を運び、人員を配置。

 仲間が戻ったら、すぐに入り口を塞ぐ。

 そのための資材も用意してあった。

 りあむは「門」というものを用意したかったようだが、如何せん技術も物資も間に合わない。

 物を積み上げて塞ぐしかないのだ。

 当然その場所はほかよりも弱くなるが、この際仕方ない。

 洞窟の出入り口周囲を覆う石垣は、全ての場所がゴブリン二匹分ほどになっている。

 将来的にはもっと高く積み上げる予定だが、今はこれでやるしかない。

 クロスボウは、その石垣の上にしつらえられている。

 結局、今までに完成したクロスボウは九丁。

 より正確な数を言うならば、クロスボウは六丁、バリスタが三丁である。

 量産を急いだため、完成品のうち三丁は、ゴブリン三匹がかりで運ぶ必要があるほど、大型になってしまったのだ。

 少しでも強力な武器が欲しい今の状況では、嬉しい誤算である。

 ただ、もちろん不利な点もあった。

 あまりにも大きいため、連射が利かない。

 弦を引くのに恐ろしく手間がかかるのだ。

 ゴブリン三匹がかりでも、かなり時間がかかる。

 あるいは、襲われている間には一度しか撃てない、と思っておいた方が良いだろう。

 ではあるのだが、その威力はけた違いである。

 何しろ、普段ゴブリン達が使っている「槍」を、「矢」として撃ち出すのだ。

 その威力たるや、まさに破格である。


 警備にあたっていた班のリーダーが、石垣の上から周囲を見回していた。

 こちらに戻ってくる仲間の姿が見える。

 うっすらとだが、暴食アリの匂いも感じた。

 幸い、距離はまだ遠い。

 ちなみにこの「匂い」だが、りあむに言わせると「いわゆる嗅覚で感じるものではないのではないか」ということだった。

 魔物独自の感覚で、それに近いのが「匂い」という表現になるのではないか、などと言っていたのだが。

 正直リーダーには何を言っているのかよくわからなかったので、特に気にしていなかった。

 りあむのいうことはゴブリン達にとって絶対ではあるが、全ての意味が分かっている必要はないのだ。

 そんなことをしているうちに、洞窟の出入り口からりあむを肩に乗せた、ケンタが現れた。

 りあむは盛んに、リーダーに向かって手を振って、大声を張り上げている。

 内容は「がんばれ」とか「負けるな」とか「力の限りぶちかませ」といったところだ。

 りあむが熱心にリーダーを鼓舞するのには、理由がある。

 事前の取り決めで、暴食アリの接近が確認されたとき警備に上がっている班のリーダーが、迎撃指揮の指揮を執ることになっているからだ。

 各班のリーダーの間に、上下はない。

 ゴブリン特有の理由から、能力差もほぼなかった。

 だから、状況を一番冷静に見続けることができる位置にいるリーダーが、全体の指揮を執ることとなったのだ。

 毎度のことだか、こういったときの指揮はりあむは行わない。

 実戦経験はゴブリン達の方がはるかに上だし、土壇場の判断力も上だ。

 りあむはゴブリン全体がどの方向へ行くか、どんなものを作るか、どんな行動をすべきか、といった判断をするのが役割なのだ。

 そういった仕事であれば、りあむは間違いなく「ゴブリン・ツリーを守るもの」の中で最も優れている。

 適材適所。

 もっとも適切なものが、適切な場所で力を発揮する。

 それが出来なければ、この地でゴブリン・ツリーを守ることなど不可能だ。


 元々襲撃があることはわかっていたので、準備はほとんど整っていた。

 といっても、武器も物資もかなり不足している。

 それをまさに今しがたまで、急ピッチで用意しているところだった。

 完成した武器や道具は、りあむが「最低限」ほしいと言っていた数の八割程度。

 ただ、それはりあむが思い描いていた理想の「最低限」であり、実際の「最低限」ではない。

 現時点で、全てのゴブリンが準備としては十分であり、暴食アリの迎撃は可能だと思っていた。

 といっても、安全に迎撃できるとは思っていない。

 多少なりとも犠牲は出るだろう。

 それも織り込み済みで、ゴブリン達は「準備としては十分」と考えているのだ。

 自分の身の安全など、端から勘定に入れていない。

 それがゴブリン達の戦いであり、これまでの戦いであった。

 ただ。

 あるいは今回は、死者を出さずにどうにかなるかもしれない。

 流石に、「ケガをするゴブリンだって一人だって出すな」という、りあむの願いを叶えるのは、少々難しいかもしれないが。


 粛々と準備が整えられ、外にいた採集、狩猟班が石垣の中に駆け込んできた。

 迎撃の指揮を担当するリーダーの合図で、出入り口に石材と木材が積み上げられていく。

 駆け込んできたゴブリン達には、待ち受けていたほかのゴブリン達が水を配り始める。

 ゴブリンに疲れなどはないが、身体は摩耗する。

 それを少しでも癒しておこうという考えからだ。

 幸い、今は日が昇っている。

 光合成もしやすいはずだ。

 襲撃を待ち構えている状態であるが、いや、だからこそ。

 まだ敵も見えない今は、少しでも体を休め、修復に努めたほうがいい。


 石垣の上に上っているゴブリン達は、じっと森の方に注視していた。

 敵である暴食アリは、必ず森の方からやってくる。

 そして、遮るものの無いこの荒れ地では、必ずその姿が発見できるのだ。

 何しろこの場所には、遮るものも隠れる場所もない。

 そういう意味では、守るに易い場所と言えるかもしれなかった。


「みえた」


 最初にそう言ったのは、迎撃を指揮するリーダーであった。

 視線の先には、森からすさまじい勢いで飛び出してきた巨大な何か。

 アリをそのまま巨大化させたもの、としか言いようがないものが、荒野へと走り出てくる。

 最初の一匹が這い出た後、二匹三匹と続いて姿を現した。

 周囲にあるものとの比較で、おおよその大きさは把握できる。

 アクジキほどではないが、ゴブリンよりも大きい。

 大きいというのは、単純にそれだけで強さを表す。

 デカいものは強いのだ。

 だから、あのアリは間違いなく強いだろう。

 暴食アリたちは一塊になって、一直線に洞窟に向かって走ってきている。

 おかげで、数の確認がしやすい。

 暴食アリの数は二十。

 何とかできない数字ではない。

 はずだ。

 石垣の上に、ケンタが昇ってくる。

 もちろん、りあむも一緒だ。


「うわぁ、あれかぁ。遠めに見てもキモいなぁ。ええっと、とりあえず、クロスボウ用のボルトは八発ずつは用意できたよ。バリスタのは各三発」


 わざわざりあむまで登ってきたのは、リーダーに装備の準備状況を説明するためだ。

 全ての物資の制作や製造は、りあむが一手に管理している。

 当然、細かな数なども把握していた。

 今のままで、全てのゴブリンが暴食アリ対策のため、準備をし続けていた状況である。

 武器や物資の状況を把握しているのは、唯一りあむだけなのだ。

 ゴブリン達にとって、これまでそういった情報はどうでもいいものであった。

 武器というのは手に持っている分しかなく、壊れたらそれまで。

 だが、今はそうではない。

 武器が壊れたら替わりがあり、作り直すこともできる。

 ボーラの様に、使い捨てにできる武器さえあるのだ。

 りあむが思っている以上に、これはゴブリン達に大きな変化をもたらしていた。

 もちろん、今この時そんなことに考えを飛ばしているものは居なかったが。

 りあむの説明を、リーダーは黙って聞いている。

 周りにいるゴブリン達も、話を聞いていた。

 この後、リーダー以外のゴブリン達は各部署に走り、必要な情報を伝えることになっている。

 全ての説明を終えたところで、連絡役のゴブリン達が動き始めた。


「いい?! 全員ぜったいに怪我なんてしないようにしてよ! あんなでっかいアリなんかにどうこうされてたら、この先生き残れないんだからね!!」


 りあむが叫ぶが、ゴブリン達は振り返りもせずに動き回っている。

 別に無視しているわけではない。

 ゴブリンは基本的に効率を尊ぶので、こういう時一々返事をしたりしないのだ。

 りあむもすでにそれを心得ているようで、特に気にした様子はない。

 むしろ、頼もしそうに見守っている。

 ここまで来たら、後は戦うだけだ。

 幸い、こういった待ち伏せの形は、ゴブリン達にとってなじみ深いものである。

 狩りをしているときなどは、待ち伏せの形になることが少なくない。

 ある意味、今回の暴食アリとの戦いは、いつもやっていることの延長線上といってもいいだろう。

 同じことを繰り返すのは、ゴブリンの得意としているところである。

 早々に準備を整えたゴブリン達は、微動だにせず静かに襲撃を待ち構えていた。

 他のゴブリン達も、粛々と準備を進めている。

 全ての準備が整ったころ、暴食アリは洞窟まで半分ほどの距離まで来ていた。

 思った以上に足が速い。

 だが、準備は済んだ。

 ゴブリン達は身じろぎもせずに、襲撃の時を待っている。

 あのりあむですら、呼吸も忘れたような様子で固まっていた。

 ちなみに、りあむはゴブリン達の表情を未だに理解できていなかったが。

 ゴブリン達の方は、りあむの表情を手に取るように読んでいた。

 そのことはりあむに聞かれていないので、誰も伝えていない。

 まあ、気が付かない方もどうなんだと、ゴブリン達は思っているのだが。




 暴食アリの襲撃に備え、りあむはいくつかの策を用意していた。

 それらの全ての用意をしたかったが、物資と人手と時間がそれを許してくれない。

 何しろ物資もなければ、技術も足りない。

 人手も足りない、ないない尽くしなのだ。

 一応用意が出来そうなものでも、ゴブリン達に却下された策もある。

 たとえば、ウルフ・プラントに騎乗したゴブリンを、荒野に伏兵させて置くというもの。

 暴食アリの背後を突き、数を減らす良い手だ、とりあむは思っていた。

 だが、暴食アリはとにかく「人型」のものに襲い掛かる習性があるのだ。

 荒野にポツンとウルフ・プラントに乗ったゴブリンが居たら、そちらが真っ先に襲われる。

 そもそも、荒野は潜んでいられるような場所がない。

 言われてみればその通りで、すぐに廃案となった。

 ならばと次にりあむが言い出したのは、ウルフ・プラントに大型の槍を取り付けての突撃攻撃だ。

 ウルフ・プラントと槍をつなぐ部品を壊れやすくすることで、攻撃後の離脱も可能だろうというのだが。

 そんな細かい仕掛けなど、作るのも試すのも余裕がない。

 ただ、ウルフ・プラントに石垣の外で動いてもらう、というのは有用な案として、採用されることとなった。

 暴食アリは、基本的に人型のものを襲う。

 何もない場所でならともかく、目の前にゴブリンという標的がいる状態では、ウルフ・プラントには手は出さない。

 このことは「木の記憶」なども知っていることで、常識の範囲だ。

 数匹のウルフ・プラントが外で待機し、石垣の上にいるゴブリンの指示で動く。

 そこから直接暴食アリを攻撃する、といったことはしない予定だ。

 体が大きいのでわかりにくいが、案外ウルフ・プラントは頑丈ではない。

 力も見た目ほどではなく、武器も持てないため、暴食アリとの戦いには向かないのだ。

 吠えれば怯み、血を流せば力を失うような、普通の動物ならばともかく、暴食アリは昆虫を素体として造られた生物兵器である。

 恐れも痛みも感じず襲ってくるのだ。

 ウルフ・プラントとは決定的に相性が悪い。

 それでも、ゴブリン達の援護であれば、出来ることは多いのだ。

 他にもいくつも案を出し、あるものは採用され、あるものは却下され。

 りあむとゴブリン達は、暴食アリ対策をしてきた。

 その成果が、どうなるか。

 まさに今、その答えが出ようとしている。


 ゴブリン達が作った石垣から一定距離のところに、立て看板のようなモノがいくつも並んでいた。

 上空から見れば、石垣の周囲を取り囲む様な、三重円のようになっていることが分かる。

 これは、城壁の上からバリスタやクロスボウを撃つ時の目印だ。

 良くも悪くも、洞窟周辺は目印や隠れるものが何もない。

 大きな岩などはある程度あったのだが、それらはすべて石垣にするのに使ってしまった。

 その弊害で、洞窟と石垣周辺はとにかく「距離感がつかみにくい」場所になってしまったのだ。

 同じゴブリンや、普段見かけている動物や魔獣魔物ならばともかく、初見の相手ではなおさら。

 距離感というのは存外、周辺のものに左右される。

 何かしらの目印は必要なのだ。

 その目印、一番外側の立て看板の内側に、暴食アリが足を踏み入れた。

 一番外側の立て看板は、バリスタもクロスボウも射程外だ。

 おおよその距離を掴み、射程に入るタイミングを計るために用意されている。

 ここに入った瞬間に、迎撃指揮を任されたリーダーが手を上げながら声を上げた。


「ねらえ」


 バリスタとクロスボウに配置されたゴブリン達は、一言も発さず狙いを定める。

 暴食アリたちはさらに進み、その先頭が中央の立て看板に近づく。


「ばりすた」


 声を発するのは、リーダーのみ。

 他のゴブリン達は、その息遣いすら押し殺しているかのように静かである。

 一番前を走る暴食アリが、中央の立て看板に差し掛かった。


「いちばん」


 中央の立て看板の内側に入った瞬間、一直線に飛んだ槍が暴食アリの頭、そのど真ん中を撃ち抜いた。

 強固なはずの外骨格を砕き、衝撃で暴食アリの頭が爆ぜる。

 暴食アリは、足がもげようが体に穴が開こうが、まるで意に返さず突き進む生物兵器だ。

 しかし、頭部を破壊されてはひとたまりもない。

 一番最初の暴食アリの足が止まるが、続く暴食アリがその両脇をすり抜け突き進む。


「にばん、さんばん」


 ゴブリンの共感能力、情報共有能力は、人間の比ではない。

 その点だけで言うならば、人間はゴブリンの足元にも及ばないといってよいだろう。

 リーダーの指示が出たとほぼ同時にバリスタから放たれた槍は、それぞれ別々の暴食アリを襲った。

 狙い違わず。

 暴食アリは正確に頭部を破壊され、絶命。

 都合三匹の暴食アリを倒すことができた。

 無論、最初の打ち合わせ通りである。

 ゴブリン特有の精密作業能力と共感力があればこそ、可能なことだ。


「ばりすた、そうてん。くろすぼう、ねらえ」


 暴食アリの群れは中央の立て看板を通り過ぎ、最後の立て看板に差し掛かる。


「はなて」


 一匹につき、二本ずつ。

 クロスボウから放たれた矢が、正確に暴食アリの頭に突き刺さった。

 バリスタのものよりも小さな投射物は、それでも流石に二本が正確に頭部に命中すれば、暴食アリの動きを鈍らせる。

 流石に即死ではないものの、ふらふらと左右にその体が揺れた。

 それが邪魔となり、暴食アリたちの動きが鈍る。

 小さなアリならこれを乗り越えて、というところだろうが、身体が大きくなるとそうもいかないらしい。

 リーダーはちらりと、バリスタの方へ目を向けた。

 バリスタは恐ろしく強力な武器だが、如何せん装填に時間がかかる。

 作業工程としては、まだ十分の一も終わっていない様子だ。


「くろすぼう、さがってそうてん」


 クロスボウを持ったゴブリン達は、素早く後ろに下がる。

 石垣の上は、それなりに広さがあった。

 横幅はゴブリン一匹半分はあるだろう。

 クロスボウはゴブリン二匹で運用していて、一匹が膝をついて肩を貸し、その上にもう一匹が持ったクロスボウを置くことで固定して運用している。

 打ち終わった後は、二匹がかりで弦を引いて、矢を装填。

 一匹でも行えることは行えるのだが、二匹で取り掛かったほうが圧倒的に早い。


「なげあみ、はんまー、まえへ」


 クロスボウと入れ替わる形で前に出たのは、大きな網を持ったゴブリン達と、巨大なハンマーを抱えたゴブリンだ。

 複数ある網は大きさが不ぞろいだが、どれもかなり大きく数匹がかりで抱えている。

 ハンマーのほうも巨大なもので、二匹がかりでひと振りを運用していた。

 暴食アリ達は最後の立て看板を越え、石垣へと近づいてくる。

 ゴブリン達がいる場所を目指し、一直線に突き進んできているのだろう。

 バリスタ近くにいるゴブリン達は少々窮屈そうだが、仕方ない。

 大型であるバリスタは、そう簡単に動かすことが出来ず、ほとんど城壁の上に固定して有る形になっている。


「なげあみ、ようい」


 暴食アリ達が、石垣に接近する。

 最初の一匹が、石垣に頭から激突した。

 鈍い音が響く。

 だが、石垣は小動ぎもしない。

 しっかりと分厚く、丈夫に作った成果だ。

 普通のアリなら、この後すぐに石垣を駆けあがってくるところだろう。

 だが、暴食アリはアリではなく、「アリに似た生物兵器」だ。

 昆虫のアリの様に優れた登坂能力はない。

 それでもある程度の崖を上る程度のことはできるのだが。

 石垣を簡単に上らせるわけにはいかない。


「なげろ」


 暴食アリ達に向かって、網が投げられる。

 体に絡みつく網というのは、存外邪魔なものだ。

 動きを阻害された暴食アリは、もがきながら落ちていく。

 下にいたほかの暴食アリを押しつぶすが、ダメージはほとんどないだろう。

 それでも、上ってくる暴食アリもいる。


「たたけ」


 そういったものに対しては、ハンマーで対応する。

 ゴブリンの身長よりも長い柄に、ゴブリンの頭より大きな石で作られたハンマー。

 それを、ゴブリン二匹がかりで振り下ろす。

 上ってきていた数匹のアリに打ち込まれたハンマーは、頭の外骨格を砕き致命傷を負わせた。

 何しろ、ゴブリンは精密作業が得意だ。

 多少動いていようが、壁に張り付いている暴食アリの頭を狙うなど、容易い仕事である。


 最初のバリスタで、三匹。

 続くクロスボウで、さらに三匹。

 先ほどのハンマーで即死したのは、二匹。

 コレで都合、八匹を仕留めたことになる。

 滑り出しとしては、上々だろう。

 だが、楽観はできなかった。

 必殺の威力を持つバリスタとクロスボウが、まだ再装填が終わっていない。

 暴食アリの足を止めた投げ網も、実は今のですべて使い切ってしまった。

 同時に、手札もほとんど使い切ってしまっている。

 もちろんいくつかは残してあるが、バリスタや投げ網ほどの効果が期待できるか、と聞かれると、怪しいと答えるしかない。

 残るアリは、十二匹。

 ここからが正念場である。

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― 新着の感想 ―
[一言] がんばれゴブリン
[一言] 無傷で2/5を倒せたのはでかいな 順当に行けばクロスボウとハンマーで何匹か倒せるだろうし、ウルフプラントによる側面や後方からの攻撃支援も期待できる 圧倒的ではないか我が軍は ほぼ確実に防衛は…
[一言] 続き楽しみにしてます!
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