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四話 「ホントにね。俺が記憶に耐えられればお前のことぶん投げられたのにな」

 とりあえず、ざっくりとした質問から入ろう。

 その答えを聞きつつ、必要なことを掘り下げていけばよい。

 りあむはそう結論を出すと、自分がいま最も必要としているであろう前提知識について質問した。


「この木における、精霊の、つまり俺の役割を教えて」


 ページが輝き、りあむはそこをめくる。


 精霊の役割は、ゴブリン達に指示を出すことです。

 ゴブリン達を指揮し、よりよく木を生育することが精霊の勤めなのです。

 精霊とは、その目的の為に木が作り出した、一種の魔法的な存在なのです。

 あなたとゴブリンは、共に木がよりよく成長するために生み出された、一種の仲間。

 肉体労働担当のゴブリン、頭脳労働担当の精霊、と言った感じのものなのです。

 もちろん、例外はありますが。

 あと、どうでもいいことですが、私のことを、木、木、と呼ぶのはちょっとアレです。

 きちんと、ゴブリンツリーという立派な名前があるので、ゴブリン達にもそう呼ぶように言ってください。

 それをゴブリン達に徹底させることも、あなたが作り出された理由の一つです。


「しょうもなっ!! 作り出された理由しょうもなっ!! っていうかゴブリンツリーって直球かよ!!」


 とりあえず、木の幹、ゴブリンツリーの幹にツッコみを入れてから、りあむは「木の知識」を抱え直した。

 ゴブリン達は、集団行動やある程度の言語によるコミュニケーションが可能な知能があり。

 武器などを持つことも出来る器用さもある、かなりハイスペックな存在なのだろう。

 だが、その知能はあくまで「ある程度」でしかない。

 それを補うために、指示を出すなどの頭脳労働担当が必要になる。


「それが、精霊ってことね。じゃあ、俺の役目は木がより成長できるように、ゴブリンに指示を出すことって訳だ。道理でゴブリン達が良く話を聞いてくれるわけだよ」


 目が合ってすぐに受け入れられたことを考えると、恐らく本能的な反応だったのだろう。

 ゴブリン達は何も言わなくても、りあむの指示に従ってくれるということだ。

 非常に助かるが、なんとなく恐ろしくも感じる。

 ゴブリン達とゴブリンツリーを生かすも殺すも、りあむの指示にかかってくるということだ。


「でも、ゴブリン達は勝手に狩りに行ったよな。ってことは、ある程度のことは彼らだけで問題ないってことだろ。俺が作られたってことは、やっぱり作られるだけの事情があったってことか?」


 息を呑みながら、りあむは「木の知識」に質問をする。

 もしかして、差し迫った危険を回避するために生み出されたのではないか。

 そんな考えが、りあむの頭をよぎる。


 あなたが作り出されたのは、ゴブリンツリーがあなたを作り出すのに必要な力を蓄えたからです。

 一定程度成長したゴブリンツリーは、より成長するために精霊を作り出すのです。

 精霊を作り出すには、かなりの力を必要とします。

 それが可能な程度力を蓄えているということは、ゴブリンツリーは比較的安定して生育をしているということだと思ってください。

 つまり、このゴブリンツリーは安定して成長できる環境にあり。

 すぐにでもどうにかしなければならない危険にさらされているわけでは、無いのです。

 ですが、油断してはいけません。

 成長した、ということは、維持のために必要な栄養や魔力も多くなる、ということです。

 半年や一年は、今のゴブリン達のやり方でも問題ないでしょう。

 しかし、近い将来、それでは成り立たなくなってしまう恐れがあります。

 だからこそ、ゴブリンツリーは精霊であるあなたを作りだしたのです。

 よりよいゴブリンツリーの発展の為に。

 あなたがあなたの全力を尽くすことを、ゴブリンツリーは期待しています。


「ディストピアの宣伝文句かよ」


 悪態をつきながらも、りあむはひとまずほっと胸を撫で下ろした。

 差し迫った危機というのは、無いらしい。

 だが、将来的にゴブリンツリーが立ち行かなくなる恐れはある様だ。

 植物というのは、一度成長すると小さくなることは出来ない。

 必要な栄養分などは、常に少しずつ増えていくものである。

 どうやらゴブリンツリーにとっても、それは同じらしい。

 それを確保していくためには、司令塔が必要で、それがりあむの役目ということだ。

 やはり、責任は重大である。

 りあむ自身の命だけでなく、ゴブリン達やゴブリンツリーの命も預かるということなのだ。


「いや、ゴブリンはゴブリンツリーの一部なのか? まあ、いいや」


 兎に角、今必要なのはゴブリン達について知ることだろう。

 普段どんなことをして、どんな風に作業しているのか。

 それを知らなければ、指示の出しようもないし、改善のし様もない。


「っていうか、俺ってゴブリンツリーからどのぐらい離れられるの?」


 りあむの質問に、木の知識はすぐにこたえてくれる。


 離れられるのは、精々洞窟内程度の距離です。

 ゴブリン達の活動の様子を確認する様な距離まで離れることは、不可能でしょう。

 ですが、方法はあります。

 それは、特別なゴブリンを作ることです。

 通常のゴブリンよりもたくさんの魔力を込めることで、あなたが取り付くことが出来る特別なゴブリンを作ることが出来ます。

 ただ、そのゴブリンは通常よりちょっと指先が器用で力が強く、賢くなる程度で、ほかのスペックは通常のゴブリンと変わりません。

 にもかかわらず、作るために必要な栄養と魔力は、普通の三倍以上にもなります。

 たくさん作るのはちょっとアレですが、一匹ぐらいは作って置いてもいいかもしれませんね。


「っていうかお前、ゴブリンの事一匹二匹で数えるの止めろよ。いや、それしか数え方ないのか? 一人二人? だと違和感があるのか? うーん」


 そこで、りあむははたとある事に気が付いた。


「木の記憶って、俺の知識はもってるよな? そうじゃないとおかしい説明があったぞ」


 直ぐに、答えが返ってくる。


 その通りです。

 ゴブリンツリーは、あなたと記憶を共有しています。

 それは、ゴブリンツリーは、あなたの記憶に対応することが出来るからです。

 ですが、あなたの頭にゴブリンツリーの知識を詰めると、死にます。

 世の中世知辛いですね。


「ホントにね。俺が記憶に耐えられればお前のことぶん投げられたのにな」


 釈然としない怒りを感じながらも、りあむはぐっと怒りを飲み込んだ。

 怒ったところで何も解決しない。

 それよりも、今後の対策を立てる方が大切なのだ。


「で、その特別なゴブリンっていうのは、今いるの? いないなら、どうやったら作れるんだよ」


 ページが光り、りあむはそこを開く。


 残念ながら、今いるゴブリンの中に、特別なゴブリンはいません。

 ですが、現在あるゴブリンの実に余分に魔力を注ぎこめば、生み出すことが出来ます。

 ちょうどあと三日ほどで完熟する実があるので、そこに魔力を注ぎこめば、三日後には特別なゴブリンの完成です。


 どうやら、タイミング的には丁度良かったらしい。

 りあむが「じゃあ、早速よろしく」と声をかけると、「木の記憶」の一部分が輝いた。

 開いてみると、そこには大きく「まかせろ」と見開きで書いてある。

 変な笑いが漏れるりあむだったが、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

「木の記憶」に煽られていちいち怒っていたら、負けたような気がしたからだ。

 兎に角。

 外の様子を見に行くには、もう少し時間がかかりそうだ。

 その間に、何かしておくことはないかと考えを巡らせる。


「やっぱり、ゴブリンのことについて知らないとどうにもならんけど。性能、っていうか、能力的な面について調べるのがいいのか。木の記憶、ゴブリンの基本的な知識がほしいんだけど。実になってからゴブリンになって役目を終えて死ぬまでの、大雑把な過程みたいなのを教えてもらえる?」


 少し漠然とし過ぎた質問だったかな、と思ったりあむだったが、「木の記憶」は言わんとするところをくみ取ってくれたらしい。


 ゴブリンは木の一部であり、決まった「収穫時期」のようなものはありません。

 一年を通して、必要な時にゴブリンツリー、あるいは木の精霊の指示によって準備がなされ、作られるのです。

 このあたりは通年を通して温暖で、比較的気候が安定しています。

 日本のような明確な四季は、ほとんどないものと思ってください。

 代わりに、雨季と乾季があります。

 もっとも、これもあまり顕著ではありません。

 この気候の影響により、ゴブリンを作り初めてから完熟するまでの期間は、多少前後します。

 早くて四か月、遅くて五か月と言った所でしょうか。

 ですが、これ以上前後することはそうそうありません。

 ゴブリンは完熟すると、実ごと地面に落ち、それが割れてゴブリンが現れます。

 この時、ゴブリンは既にゴブリン語を理解し、しゃべり、通常の活動を行うことが出来ます。

 実になっている段階で、木がある程度の知識を提供しているからです。

 一種の睡眠学習と思って頂ければ、遠からずと言った感じでしょうか。

 活動を開始したゴブリンは、先輩ゴブリン達に交じり働き始めます。

 この時、睡眠学習で習わなかったことを学習していきます。

 武器の扱い方や、連携の仕方。

 狩りの時に使う合図や、周囲の地形に関する情報などが、これに含まれます。

 こうしてゴブリンは仕事を覚え、危険な狩りなどを行っていくわけです。

 ゴブリンの寿命は、一年半から二年です。

 死を迎える一か月ぐらい前から活動能力が落ち始め、静かにその一生を終えます。

 ですが、寿命が尽きるまで無事でいられるゴブリンは、非常にまれです。

 その前に、狩りに失敗し、あるいはほかのモンスターに襲われ、命を落とすからです。


「モンスター、か。やっぱりいるんだな、モンスター」


 ゴブリンがいるということは、ほかにも恐ろし気な生物がいたとしてもおかしくない。

 かなり強力に思えるゴブリンにとってすら、この場所は危険だというようなことを、「木の記憶」は書いていたはずだ。

 剣と魔法の世界だと、神様的な男性も言っていた。

 ゴブリンツリーが木の精霊を作り出したのも、魔法が関係あるらしい。

 となれば、魔法を使う野生動物、モンスターのような存在だって、居たところでおかしくない。

「木の記憶」に書かれているなら、実際に居るのだと考えた方がいいだろう。

 ゴブリン達は、そういったものと戦っているのだ。

 りあむは寒気を覚え、身震いした。

 洞窟の外は、そういったものが歩き回っている世界なのだろう。

 ゴブリンツリーがこういった場所で育つように進化して行った理由が、なんとなくわかる気がした。

 まあ、この世界に「進化」というものがあればの話だが。

 文章は、さらに続いている。


 次に、ゴブリンの能力についてです。

 ゴブリンは、生まれながらにある程度能力が決まっています。

 これは遺伝的に決まっているとか、そういうことではありません。

 ゴブリンの身体的絶頂は、生まれた直後なのです。

 そこからは、緩やかに能力が減退していきます。

 なぜなら、彼らはあくまで「ゴブリンツリーの一部」であり。

 完熟した彼らは、木から離れてしまっているからです。

 彼らは知識を得たり、技術を習得することは出来ます。

 ですが、身体能力の向上は見込めません。

 鍛えたり、訓練したりしても、それは同じです。

 むしろ、それらを行うことで、身体の劣化は早まっていきます。

 体の動かし方を学ぶという意味においては、訓練は無駄にはなりません。

 効率的な動き方なども、習得できるでしょう。

 ですが、身体の劣化と隣り合わせであるということは、肝に銘じておいてください。

 また、この性質と関係がある事なのですが、ゴブリンはものを食べることがありません。

 摂取するのは、体内の循環を整えるうえで消費する、水のみです。

 極わずかに、緑色の皮膚で光合成なども行いますが、本当に極わずかであり、殆ど役には立っていません。

 それ以外の栄養は、自分の体から消費していきます。

 また、魔力もこれと同様です、

 ゴブリンは完熟し、木から離れた瞬間、外部から魔力を取り込むことが出来なくなり、体内での精製も出来なくなります。

 つまり、完熟した瞬間にある魔力が、一生分の魔力となる訳です。

 魔力はこの世界の生物にとって不可欠で、栄養と同じようなものと考えてください。

 そのどちらも、枯渇すれば待っているのは、死、ということです。

 ゴブリンは、ある程度の怪我をしても元の形状に戻ります。

 ですが、それは「治った」というより、「元の形になる様にエネルギーを消費した」ということです。

 その分、寿命は縮みます。

 ゴブリンは、魔法を習得し、使うことが出来ます。

 ですが、失った魔力は戻ることが無く、一生分の魔力をすり減らして魔法を発動させるわけです。

 その分、寿命は縮みます。

 ゴブリン達の活動は、ゴブリンツリーを維持、成長せるためのものです。

 我々は、そういう生態の生物です。

 ですからどうか、ゴブリン達のすべてを無駄にしないで上げてください。


「プレッシャー掛けすぎだろ」


 りあむは苦笑を漏らしながら、ゴブリンツリーの幹に手を置いた。

 正直、何かできるかはわからない。

 やれるだけのことは、やらなければならないだろう。


「特別なゴブリンの実って、どれなの?」


 光るページを開くと、一番下の実だと書かれている。

 近づいてみると、ほかのものと同じような実が生っていた。

 それに、ゆっくりと慎重に手を当てる。


「ま、三日後からよろしく頼むよ」


 それまでに、どんな場所を見たいのか、考えておいた方がいいだろう。

 ゴブリン達の活動を邪魔しないようにしつつ、彼らの活動を確認する方法。

 そして、今のうちに「木の記憶」で確認しておかなければならない知識が、ほかにないかどうか。

 じっくりと考える必要がある。

 期限は、特別なゴブリンが完熟する三日後まで、と言った所だろうか。


 正直なところ、りあむにはまだ状況がしっかりと飲み込めているわけではない。

 強い責任感とか、使命感とかが芽生えているわけでもない。

 だが、何とかしなければならないという感覚だけはあった。

 それがりあむ本来の性格的なものなのか、木の精霊として与えられたものなのかは、わからない。

 わからないが、とにかく、やれるだけのことをやるしかないのだ。


「ほんと、よろしくな」


 りあむは苦笑しながらそういうと、もう一度ゴブリンの実を撫でるのであった。

特別なゴブリンの完熟が待たれますね!


一応、ストックは五話までで、今六話を書いています

がんばって書けば、六話まで毎日更新できればいいな、っていう希望を胸に秘めて生きていこうと思います


っていうか、思ったよりも多くの方に楽しんで頂けているようで、驚いています

やっぱりみんな好きなんですね

ゴブリンがなる木!

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