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三十七話 「鉄材でもあればなぁ。釘とかそういう工業製品が手に入れば便利なんだけど」

 戻ってきたパラパタから受け取った書類を見て、クードは頭を抱えた。

 ヴェローレも、僅かに眉をしかめ、呆然としている。

 書類には、暴食アリ退治に参加する冒険者の名前が書き出されていた。


「最低でもB級って。アンタこれ、あんな行って帰ってくる間に集められるメンツじゃないでしょ」


 眉間に皺を寄せているヴェローレに言われ、パラパタは静かに何度もうなずく。

 実際その通りなので、何ともいうことができないのだ。

 クードとヴェローレの気持ちは、パラパタにも理解ができた。

 パラパタでも、何も知らずにこれを見せられたら、喜ぶというより呆れるか怒るかするだろう。

 冒険者というのは、どういうわけか癖が強いものほど実力があるという傾向にあった。

 癖が強すぎて真っ当な仕事に就けない様な連中がなるのが冒険者だ、というのが、理由の一つだろう。

 なので、通常はよほどのことがない限り、高位冒険者を大量に雇う、ということはしないというのが常だった。

 互いに反目し合ったり、最悪殺し合いに発展することも珍しくないからだ。


「いやいやいや、ヴェローレ。これ見て見ろって。ボルドレイグのおっさんがいるぞ」


「ウソでしょ。ホントだ、なんであの人こんなところに居たのよ」


「なんか、皆で集まって飲む予定だったんだって。で、そこに俺がたまたま居合わせたわけ」


 パラパタの言葉に、クードとヴェローレは言葉もなく頭を抱えた。

 そんな偶然が起こるものだろうか、と考えているのだろう。

 気持ちは、パラパタにも痛いほどわかる。

 パラパタ自身、なぜ自分がこんな目に合うのか、と嘆いたものだ。


「なら、まぁ、何んとかなる、かな?」


「切り替えて考えましょう。これだけ集まっても、あの人がいれば多分制御可能でしょ。なら、ついてると思った方が建設的よ」


「それもそうだねぇ。で、バッフさんは何て?」


「これだけいれば十分だろう、って。自分が出なくても大丈夫そうだって喜んでたよ」


 ハイ・エルフであり、力の加減ができないというバッフが出張ることになれば、大事になるだろう。

 それを避けられるなら、クード達にとっても朗報だ。

 巻き添えで吹き飛ばされる危険が減るなら、これに越したことはない。

 バッフとしても、見学に回れるなら、その方が気が楽だろう。

 なにより、彼の本職は研究者である。

 観察に専念できるなら、それに越したことはないはずだ。


「まぁ、唸ってても仕方ないかぁ。こっちはこっちで一つずつ仕事を片付けていきますかね。やらにゃならんこともいろいろあるし」


 バッフの観察の補佐や、拠点維持のための整備補修。

 オード大森林の中で拠点を維持するためには、やらねばならないことはいくらでもあるのだ。

 また、暴食アリ退治に参加する冒険者達の、待機する場所を選定する必要もある。

 下手な場所にキャンプを張られると、ゴブリン達が無駄に警戒してしまう恐れがあるからだ。

 給金はいいものの、色々と気にしなければならないことが多い仕事である。

 面倒ではあるが、仕方がない。


「しょうがない。さっさと役割分担始めようか」


 クードの言葉を聞き、パラパタは内心でホッと胸をなでおろした。

 もしパラパタがクードの立場だったら、もっと責め立てていただろう。

 それだけ、集まったメンツが強烈過ぎたのだ。

 詮無いことだとわかっていても、「もっとやりようがあっただろう」と文句を言ったはずである。

 それを、二人は割とあっさり諦めてくれた。

 有難い話である。

 同時に、自分のさもしさを突き付けられたような気持ちになった。


「二人ってさ。案外優しいよね」


「案外じゃなくて普通にやさしいと思うよ?」


「何急に。気色悪い」


 こういうところなんだよなぁ、と、苦笑いするパラパタだった。




 こういう事というのは、驚くほど突然にやってくるのだな。

 呆然としながら、りあむはゴブリン達が粛々と動くのを見守っていた。

 特別なゴブリン二匹が完熟し、それぞれの班に割り振られ。

 最初の仕事を終えて、戻ってくるまでの間のことである。

 作業班を支えていた老ゴブリンの一匹が、息絶えた。

 いつものように森に行くゴブリン達を送り出し、警備につくゴブリン達に作業を教え。

 洞窟の中に入って、引き金の試作を始めて、しばらくのことだった。

 老ゴブリンの一匹が、洞窟の壁面に背中を預け、目を閉じたのである。

 はじめ、りあむは「少し休憩でもするのかな」と思っていた。

 だが、しばらくしてゴブリンはほとんど休憩などしないということを思い出す。

 嫌な予感でこわばる身体を何とか動かし、ケンタに声をかけた。

 ケンタはすぐに眠るように目を閉じているゴブリンに近づくと、体を触ったり、顔に手をやったりする。

 そうして何かを確認すると、周りのゴブリンに声をかけた。


「亡くなったようだ」


 他のゴブリン達も、ケンタと同じように、老ゴブリンに近づき何かを確認し始めた。

 その場にいたゴブリン達全てが確認を取ると、うなずき合ってゴブリン・ツリーの根元を掘り始める。

 どうしていいかわからず、固まっているりあむのところへ、ケンタがやってきた。


「亡くなったゴブリンを、母木の根元に埋める。これは早くしないといけない。早ければ早いほど、魔石に残った記憶がしっかりと木に蓄えられる」


 ゴブリンやウルフ・プラントは、その魔石をゴブリン・プラントに取り込ませることで、記憶や技能を受け継いでいくことができる。

 それは彼らにとって、生きた証を残すということだ。

 実際に動く作業で、りあむにできる事は何もない。

 ただ黙って、穴を掘るのを見守っていた。

 ゴブリン一匹分ほどの穴が出来上がると、老ゴブリンの身体はそこに納められる。

 少しでも早くゴブリン・ツリーに吸収されるよう、体を覆うようなことはない。

 土をかける前に、ゴブリン達は目を閉じ、頭を下げるような姿勢をとった。

 何事かと不思議に思っていたりあむだったが、すぐにそれが黙祷だと気が付き、同じ姿勢をとる。

 それが終わると、ゴブリン達は素早く、穴を土で埋めた。

 ゴブリン達に、人間にとっての墓のようなモノはない。

 それよりもずっと意味のあるものがあるからだ。

 生まれ落ち、死ねば戻る場所。

 ゴブリン・ツリーこそが、ゴブリン達にとっての生まれる場所であり、死ぬ場所なのだ。

 亡くなった老ゴブリンは、幸せだったといえる。

 満足に動くことが出来なくなるまで仲間のために戦い。

 晩年は、物を作ることを覚え、仲間の発展に大きく貢献し。

 最期はその技能と経験を、余すことなく持って、ゴブリン・ツリーへと帰って行ったのだ。

 ゴブリンとして、これほど充実した死を迎えられるものは、ほとんど居ないのではないだろうか。

 老ゴブリンを埋め終えると、ゴブリン達は仕事に戻って行った。

 喪に服している暇など、ゴブリン達にはない。

 常に働き続けていなければ、群れを維持することができないからだ。

 狩りをし、採集をし、道具を作らなければならない。

 りあむにも、やらなければならないことがある。

 引き金の試作に関する、指示を出さなければならないのだ。

 クロスボウを作るうえで、引き金は大事な部品だった。

 これをうまく作ることが出来なければ、クロスボウは完成しない。

 弓矢がうまく扱えないゴブリン達にとって、今のところ有用な飛び道具はボーラ程度しかなかった。

 狩りだけならばそれでもいいのだろうが、人間の存在を考えれば、到底それだけで安心できるものではない。

 射程の長い安定した高火力の遠距離攻撃の確保は、ゴブリンにとって急務だ。

 つまり、どうあってもクロスボウが必要なのである。

 そのクロスボウを作るには、どうしても引き金が必要だ。

 なんとしても、まずは引き金を作らなければならない。

 これは、死んだ老ゴブリンが、最期に手掛けていた仕事の続きでもある。


「まずは、引き金。それと並行して、しっかりとクロスボウに適した弓の構造を研究して。それから、それを大型化して。やることは、まだまだいくらでもあるんだよね」


 泣いている暇も、落ち込んでいる暇もない。

 動き続けて、ゴブリン達のために働き続ける事こそ、老ゴブリンに報いることである。

 りあむは己を鼓舞するように「よし!」と声を出して気合を入れると、ゴブリン達に指示を出し始めた。

 狩りや採集にいったゴブリン達が戻ってきたら、仲間の死を伝えなければならない。

 それが終わったら、「木の記憶」と話し合う必要があった。

 今後生まれるゴブリンには、老ゴブリンの記憶と技術を与えることができる。

 どの記憶と技術を与えるのか、相談する必要があるのだ。

 やるべきこと、やらなければならないことは、いくらでもある。

 りあむは何度も大きく息を吸う仕草をして、少しでも気を落ち着かせようとした。

 だが、りあむの体は実体ではないので、あまり効果はないらしい。

 それでも、僅かでも活力は湧いてくる。


「人間め。次くるときは、目にもの見せてやる。でっかいバリスタと、ずらりと並んだクロスボウで、洞窟にすら近づけないようにしてやるからな!」


 鼻息荒く宣言すると、りあむは勢い込んでゴブリン達に指示を飛ばし始めた。




 誤解されがちだが、クロスボウなどに使われる引き金の構造は、木材でも再現可能であった。

 一番簡単なのは、穴と切り込みを使う方法だろう。


 まず、クロスボウの本体となる木材に、弓を取り付ける。

 弦を引き、力の溜まる位置に印をつけて置く。

 そこを中心に、穴をあける。

 穴の中心部分から、直角三角形の形に、木を削る。

 この時、三角の平らな面は弓の側。

 角の部分は、弓の反対側になるように彫り込む。

 すると、その掘り込みに弦が引っ掛かるようになる。

 それを確認したら、あけた穴から弓の側へ、矢が半分ほど収まる溝を掘っていく。

 これで、ほぼ完成だ。

 弓の弦を引き、掘り込んだ場所に引っ掛ける。

 そののち、溝に矢を置く。

 開けた穴の下側から、穴より一回り小さな棒で持って、弦を突き上げてやる。

 すると、弦が引っ掛かりから外れ、矢を打ち出す。


 恐ろしく大雑把に言うと、こんな感じでだ。

 もちろん、実際にはもう少し繊細な細工が必要だし、いろいろ工夫することもできる。

 扱いやすく安定性を上げることも可能だ。

 この方法のほかにも、てこの原理などを使った構造も、りあむは覚えていた。

 りあむが地球で公務員をやっている時代に、CSのディスカバリーチャンネルなどで仕入れた知識である。

 とはいえ、ほとんどが「ながら見」であり、おおよそのところしか覚えていなかった。

 こんなことならもっとまじめに見て置けばよかったと思うりあむだったが、いまさら後悔しても始まらない。

 とりあえず、いくつか試作してみるしかないだろう。

 その中で一番安定しそうなものを選び、量産する。

 技術が円熟しないうちは、かなり大きなものしかできないだろう。

 小型で高性能のものを作るには、色々と技術蓄積が必要なはずだ。

 もっとも、多少大きくなってしまおうが、今の状況では関係ない。

 洞窟出入口の周りに作った石垣の上に据え付けてしまう予定なので、動かすことを考えなくてよいからだ。


「まあ、デカい方が単純に威力は出るだろうしね。まずはとにかく試作、実験を繰り返すしかないし」


 歯がゆいところだが、こればかりはどうしようもない。

 もっとも、急いだところで、弓の部分の生産も間に合わないのだが。


「鉄材でもあればなぁ。釘とかそういう工業製品が手に入れば便利なんだけど」


 実際、釘があるだけで随分状況は変わるだろう。

 丸くて真っ直ぐな鉄の棒が、どれほど便利だったのか。

 人間でなくなってから思い知ることになろうとは、りあむは考えてもいなかった。

 自分達で作るまでもなく、買えば物が手に入るというのは、すさまじいことなのだ。

 とにかく、地道に作業を進めるしかない。

 りあむはテキパキと指示を飛ばしながら、忙しく洞窟の中を飛び回った。




 狩りや採集に出ていたゴブリン達が戻ってきて、担当部署交代のための引継ぎが行われる。

 そこで、りあむはゴブリン全員に、老ゴブリンの一匹が亡くなったことを伝えた。

 ゴブリン達は特に合図もなく、目をつぶり、黙祷の姿勢をとる。

 どうやら、これがゴブリン達にとって最も基本的な哀悼の仕方らしい。

 そういえば、ゴブリン達の死生観というのは、どういうものなのだろう。

 基本的に植物である彼らだから、りあむのものとは違うかもしれない。

 りあむの感性は、人間だった頃とあまり変わっていなかった。

 なので、ゴブリン達が老ゴブリンの死に対して抱いている感情は、りあむが思っているものとは違う種類のものなのではないか。

 ふと、そんなことに気が付いたりあむだったが、ゴブリン達に直接それを聞くのはためらわれた。

 りあむにゴブリン達の感覚が察せられないように、ゴブリン達にもりあむの感覚を察することは難しいだろうと考えたのだ。

 幸いなことに、りあむの感覚も、ゴブリンの感覚も、どちらも把握しているものがいる。

「木の記憶」である。

 りあむが転生したとき、りあむの記憶を丸ごと取り込んでいるという話だった。

 ということは、「木の記憶」に尋ねれば、りあむに分かりやすい形で、答えを返してくれるだろう。

 あとでこっそり確認してみることにしよう。

 そう心に決めるりあむだったが、それは当分後のことになりそうだった。

 何しろまだまだやらなければならないことが、いくらでもあるのだ。

 幸か不幸か、りあむは木の精霊であり、その立場はゴブリン達と少々感性が違う程度では、揺らぐことはない。

 今りあむが気にしているようなことは、あくまで緊急性がない興味関心に分類される話なのである。

 残念なことに、今のりあむにはそういったことに時間を割くという贅沢は出来なかった。

 本当にまだまだ、やらなければならないことが山積みになっているのだ。




 弓にしてもクロスボウにしても、撃ち出すものは矢である。

 この矢というのが曲者で、作るのにはそれなりに技術が必要であった。

 只真っ直ぐな木を用意すればいいだけではないのか。

 そう思うものもいるかもしれないが、これが案外ハードルが高いのだ。

 矢の本体というのは、まっすぐなほうが正確に飛ぶ。

 だが、矢の材料として使われる植物素材というのは、案外変形しやすい。

 乾燥したり湿気を含んだだけで、曲がってしまったりすることはよくある。

 また、そもそも材料を削りだすという行為そのものに、正確で扱いやすい道具が必要だ。

 いいナイフが一本あればどうにかなるのでは、などとりあむも思っていたのだが。

 そもそもそのナイフ自体がないし、あったとしても石や骨を叩いて作ったものなのである。

 地球で手に入るような、金属製で良質なもののような性能など、望めるはずもない。

 フェザードラゴンからもらった素材から、ある程度のナイフを作ることには成功しているものの。

 それでも「まぁまぁ使える」程度のものであり、残念ながら「大満足できる品質」とはいかなかった。

 矢というのは、細くありながらも、少しでも空気抵抗なく作ることが要求されるため、凹凸などが付くことを避けなければならない。

 細くしなやかでありながら、滑らかでまっすぐな造りが求められるのだ。

 それを骨や石のナイフで作ろうというのだから、簡単なはずがない。

 弓、クロスボウ作りに並行して、こちらも始めることにする。

 これを担当するのは、片足のゴブリンだ。

 作業班のゴブリン達の中で一番ナイフの使い方がうまいのは、ケンタであった。

 そして、その次が片足のゴブリンである。

 老ゴブリン二匹も当然うまいのだが、この二匹はクロスボウの方に専念してもらっていた。

 そして。

 新たに作業班に加わった年配のゴブリン二匹には、仕事と道具に慣れるため、槍やボーラなどの、改良の仕事をしてもらっている。

 この二匹が加わったのは、少し前のことだ。

 新しく「特別なゴブリン」二匹が完熟したので、槍、斧、ボーラの三班体制から外れて、こちらに移ってもらったのである。

 元々作業班にいた老ゴブリン達ほどではないが、この二匹も経験豊富で長生きをしているゴブリン達だ。

 その経験は、道具を作るうえで大きな役に立ってくれるに違いないだろう。

 今はまだこちらに来てもらったばかりなので、慣らすために日常的な仕事に携わってもらっている。

 もう少ししたら、矢の量産を手伝ってもらう予定だ。

 何しろ、矢というのは消耗品であり、いくらあってもいいものである。

 大量に作って、備蓄しておきたかった。

 何しろ、クロスボウが完成したら、まずは練習をする必要がある。

 作るのも初めてなら、当然扱うのだって初めてだ。

 どれだけ練習したとしても、し過ぎるということはない。

 となれば、それだけ矢を消耗することになるだろう。

 今のところ矢の材料にしているのは、森で拾ってきた枝であった。

 これを、石などで押さえたり、押し曲げたりして、まっすぐな形に仕立てている。

 表面の凹凸は、表面のざらざらした石にこすりつけて削ったり、ナイフで削いだりして加工。

 なんとか、それらしく仕上げていた。

 とはいっても、まだ実際に矢として使用したことはなく、うまく飛ぶかどうかもわからない。

 なら、弓を先に作ったほうが、とも思ったのだが。

 よく考えてみれば、打ち出すための矢がなければ、弓がうまくできているのかどうか確かめることもできないのだ。

 痛し痒し、なんともままならない状況である。

 亡くなった老ゴブリンに報いるためにも、少しでも早く防衛戦力を整えたい。

 イラついてしまいそうになるりあむだったが、頭を振って考えを落ち着ける。

 焦ったところでどうしようもないし、それで失敗をしてしまったら、元も子もない。

 ふと、亡くなった老ゴブリンのことを思い出す。

 あの老ゴブリンはいつも慎重で、確実に仕事をこなす種類の性格であった。

 槍を作るときなど、握りの太さや柄の長さなどにひと工夫を加え、使いやすいものを作っていたものである。

 基本的には個性のふり幅がほとんどないゴブリン達だが、長く生きていくうち、わずかずつ行動に違いが出てくるらしかった。

 あの老ゴブリンがその一生で獲得した個性は、他のゴブリン達より幾分丁寧な仕事ぶり、であったのだ。

 そんな老ゴブリンに報いようと思うのであれば。

 むしろ、焦ってはならない。

 確実に良いものを、しっかりと作っていくこと。

 それが、何よりではないだろうか。

 りあむはそう思いなおすと、改めてゴブリン達の周りを漂いながら、作業に指示をして回る。

 そんなりあむの思いが伝わっているのか、ゴブリン達も幾分か仕事に気合が入っているように見えた。




 森の中を進んでいたウルフ・プラントの一匹が、足を止めた。

 漂ってくる臭いをしっかりと確認し、低いうなり声をあげる。


「リーダー殿。これは、聊か面倒なことになるやもしれませぬぞ」


「そうかもしれない」


 班のリーダーであるゴブリンも、同じ臭いを感じ取っていたらしい。

 警戒すべき、敵の臭い。

 直接相対したことはないが、木から与えられた記憶にある、「明確な敵」の臭いだ。


「ぼうしょくあり、だな。まだとおいようだが、こちらにくるだろう」


「然り。すぐにりあむ様にお知らせせねばなりますまい。母木の守りを固めねば」


 この班は、ちょうど狩りを終えたところであった。

 今いるのは、ふだんより少し足を延ばした、狩場として使う範囲では一番奥まった場所。

 ここまで来たからこそ、暴食アリの臭いに気が付くことができた。

 気が付いたのは、ちょうど獲物をしとめ、運び出そうという矢先のことである。


「もどって、しじをあおぐ。えものも、しっかりとはこぶが、なるだけ、いそぐ」


「それがよろしいかと。皆、急ぎつつも、警戒を怠らぬように頼む」


 急いで戻りたいところだが、獲物を放り出していくこともできない。

 狩りで得た獲物は、ゴブリン達にとって必要不可欠なものなのだ。

 ゴブリンとウルフ・プラント達は、獲物をしっかりと確保しながらも、慎重に、急いでゴブリン・プラントの元へと向かうのであった。

よく消耗品として扱われがちですが、矢って実はすげぇ高いんですよね

ネットとかで弓道用のものやクロスボウに使うものを調べると「うせやろ アニメや漫画ではこんな高級品乱射しとるんけ」ってなります

そりゃあれだけのもの、作る労力考えたら相応の値段になるんでしょうけどもね

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと前までは武士の家には大体矢竹が植えられてましたね。
[一言] 更新お疲れ様です。 ???「ここにな、適当な長さに切って先を整えるだけの矢竹っちゅうモンがあってな?」 なお植生。異世界に矢竹はあるのだろうか...
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