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十三話 「でも、これならかなり打撃力が乗ると思うんですよね」

 りあむとケンタが完熟し、外に出られるようになってから、七日が経っていた。

 この間、りあむはケンタ以外のゴブリン達の手も借り、様々なことを行っている。

 まず、一番実績があったのが水場の確保だ。


 洞窟出入り口付近の水が染み出している場所を掘ったところ、思いのほか水が湧いててきた。

 穴を大きくし、底や周囲に小石などを敷き詰める。

 そうしてしばらく放って置くと、比較的きれいな水が溜まった。

 穴の深さはゴブリンの腰までで、直径はゴブリンの身長と同じぐらいだ。

 水を全部くみ出してしまっても、大体半日ぐらいで再びいっぱいになる。

 試しに一か所作った後、水質に問題が無いのを確認した。

 驚いたことに、ゴブリンには、口に入れたものが、ゴブリンとゴブリンツリーにとって有害か無害かを判別する能力があるのだ。

 採集をより確実に行うための能力なのだろう。

 周辺の湧き水の安全が確認されたところで、早速水場の量産を始めた。

 穴掘りを行うのは、採取を行うゴブリン達だ。

 作業は順調で、水場の数は現在10か所、まだ工事中の場所もあり、今後増えていく予定だ。


 次いで、道具の素材採集。

 狩りや採集の帰りなどに、ちょこちょこと様々な素材を集めている。

 現在ではかなりの種類、量が集まっていた。

 とりあえず道具の試作品を作るのには、十分な量だ。


 他にも様々なことをしていたのだが、こまごまとしたことなので説明は省く。

 とにかく、りあむはようやく、最初の試作品作りに取り掛かれると判断を下したのであった。




 ゴブリンツリーの前には、ケンタを含めて三匹のゴブリンが集まっていた。

 ケンタ以外の三匹は、それぞれ、三つの作業分担チームから一匹ずつ選んだゴブリンだ。

 彼ら四匹は元居たチームから外れて、りあむにつきっきりで活動することになっている。

 本来であれば各チームの手が足りなくなるところだが、水場が確保できた事により、問題なくなっていた。

 水の確保というのは、思いのほかゴブリン達にとって重荷になっていたらしい。

 今までは採集の時、木の葉や枝などに水を含ませることで水分を確保していたのだが、その必要がなくなった。

 そのため、あの「でっかいき」のところまで行く必要がなくなったのだ。

 おかげで採集は森に入った直ぐの場所などでもこと済むようになり、ずいぶんと楽になった。

 全体の仕事量の約二割が削減されたといえば、いかに水の確保が重労働だったかわかるだろう。

 これが軽減されたことにより、ゴブリン達のチームは再編成されることとなった。

 その時に、元々の三チームとは別に抽出されたのが、ここに居る四匹という訳だ。

 ケンタ以外の三匹は、皆比較的古いゴブリンであった。

 経験の多い古いゴブリンは、本来重要な戦力だ。

 だが、集められた三匹は怪我などが多く、十全に力を発揮できなくなったゴブリン達なのである。

 彼らは走ったり戦ったりなど、激しい運動を行うと、少々動きがぎこちなくなったりしてしまう。

 だが、そういったもの以外であれば、特に問題はない。

 他のゴブリン達同様の作業が可能だ。

 また、経験を積んだゴブリンは、完熟したてのゴブリンよりも高い応用力と言語能力を有している。

 知識も豊富であり、りあむの手伝いをするには打ってつけの人材、もとい、ゴブ材と言えるだろう。


 四匹のゴブリン達を前に、りあむは咳払いをする。

 今日はりあむ直轄となったゴブリン達の、初仕事なのだ。


「えー、では、今日から皆さんには私の指示に従って、特別な作業をしてもらいます。まず行ってもらうのは、縄の制作です」


「縄というのは、りあむがよく言っていた道具のことか」


 そういって首をかしげたのは、ケンタだ。

 ケンタの言葉は、たった七日で見違えるように流暢になっていた。

 これも、ケンタがゴブリンツリーが言うところの「特別なゴブリン」だからなのだろう。


「そうだよ。縄は便利だからね。武器にもなるし、モノを運ぶときにも使えるし」


 ものを結んだり、何かを運んだり。

 とかく縄というのは、便利な道具だ。

 用意できれば、様々なものに使えるのは間違いない。


「まさか役所のイベントでやらされた縄ない体験が、こんなところで役に立つとは」


 感慨深げなりあむを見て、ケンタ達は不思議そうに首を捻った。

 生前役所に勤めていたりあむは、様々なイベントに駆り出されていたのだ。

 その中の一つに、子供達に伝統工芸を体験させる、というものがあった。

 役所の中でも若い職員であったりあむはそれに強制参加させられ、嫌になるほど縄ないをさせられたのである。


「材料はもう集めてあるよ」


 りあむが指さしたのは、事前に集めてあったアシ科と思しき植物だ。

 初めての狩りの時、ネズミ達が齧っていたものである。

 既にしっかりと干してあり、乾燥も十分に済ませてあった。


「まず、これから葉っぱを取り除きます!」


 りあむの指示に合わせて、ゴブリン達は作業を始めた。

 乾燥させたイネ科の植物から、葉っぱなどを取り除いていく。

 茎に巻き付くようになっている葉っぱの根元、葉鞘もきれいに取り除くのがコツだ。

 この程度の作業であれば問題ないらしく、ゴブリン達はすいすいと葉を取り除いていく。

 やはりケンタが一番効率よく作業をしているが、ほかの三匹も中々のものだ。

 取り除いた葉は、ゴブリンツリー近くに掘った穴に投げ入れて置く。

 後で埋めれば、栄養になるだろう。


「次に、軽く湿り気を与えます!」


 一度乾燥させなければならないのだが、乾燥させたままだと加工がし難いのがイネ科の植物の面倒なところだ。

 事前に用意した、一度水を含ませたアリが齧り取った木の葉と枝に水を含ませたもので、イネ科の植物を拭うようにしていく。

 適度な湿り気が移ったところで、次の作業だ。


「叩いて柔らかくしていきまぁーす!」


 運び込んだ石の上に束にしたイネ科の植物を置き、片手で持てるサイズの石で叩く。

 目的は、叩くことでイネ科の植物を柔らかくすることだ。

 叩くことでしなやかで、それでいて加工しやすい藁になる。


「ある程度柔らかくしたら、四本ぐらい手に取ってくださいね」


 やっと、縄をなう前段階に入る。

 手に取った藁を捩って、縄にするのだ。

 この時手にしている本数が、縄の太さを決めることになる。

 今回は試しなので、本数はりあむがテキトウに決めていた。


「もう一度丁寧に葉っぱをとって、さらにもう一回石で叩きます。あ、つかみにくそうだったら、水ももう一度かけてくださいね。びしょびしょにならない程度に」


 りあむの指示通りに、ゴブリン達は作業を進めていく。

 やはりケンタが一番手際がいいが、ほかのゴブリン達も下手というほどではない。

 全員が作業を終えたところを見計らい、りあむは次の指示を出す。


「では、いよいよ縄をなう作業です」


 この作業は、口だけで説明するのが非常に難しい。

 実際にやって見せるのが一番なのだが。

 残念ながらりあむはモノを持つことが出来なかった。

 もちろん、藁も手に持つことが出来ない。

 かといって口頭だけの説明でこの作業が行えるとは思えず、りあむは散々に頭を悩ませた。

 そして、解決策を思いついたのである。

 りあむが振れることができるモノ、つまり自分の体を使っての説明だった。

 木の精霊には、丁度良くながっぽそいものが付いているのだ。

 長い髪の毛である。

 りあむは自分の髪の毛を掴むと、それを藁に見立て説明することにしたのだ。


「まずは、私の手元を見ててください」


 りあむは髪の毛の先の方を掴むと、親指と人差し指の付け根で挟んだ。

 毛の量は、丁度藁二本分ほど。

 それを左右両方の手で持つと、ゴブリン達の前に見せる。


「皆は四本の藁を手に持っていますから、片手二本ずつ持つようにしてください。半分ってことですね」


 ゴブリン達は、大まかではあるが数を数える事が出来る。

 こういった数で指示が出来るというのは、りあむにとってはかなりありがたい。


「右手に持った毛先の端っこを、左の親指で挟みます。左手の端っこも、右の指で挟みます。毛先の方向は、小指側ですね。掌の中で、毛が繋がってる感じになったら、始めます」


 毛を持った両掌を、少しずらして合わせる。

 下に来ている方の手を、上へこすり合わせる様にして移動させていく。

 この時、親指を少しだけ緩ませるのがポイントだ。

 それが分かる様に、りあむはゴブリン達によく動きを見せている。

 手が上まで行き切ったところで、親指で毛をしっかりと固定し、手のひらを元の位置に戻す。

 再び先ほどと同じように、手のひらをこすり合わせる。

 すると、手の中で髪の毛がどんどんよじれていくのが分かった。

 ゴブリン達はそれを見て、感心したように声を上げる。

 りあむはある程度まで髪の毛をよじった後、手を離した。

 流石に全部やる訳にはいかないからだ。

 引っ張られた上によじられた髪の毛は多少傷んでいるように見えるが、尊い犠牲である。


「大体、今見せたような感じです。じゃあ、始めてみましょう。わからないことがあったら、すぐに聞いてくださいね」


 ゴブリン達はすぐに、作業に取り掛かった。

 りあむが髪の毛でやっていたことを、藁に置き換えて試していく。

 始めは四匹とも、悪戦苦闘していた。

 上手くねじる事が出来ず、縄がまとまらないのだ。

 それでも、最初に大まかにでもりあむが手本を見せたのが効いたようで、どのゴブリンも徐々に縄らしき形を作ることが出来るようになっていく。

 最初にそれなりに使えそうな縄を編んだのは、ケンタ以外のゴブリンだった。


「おお、すごい! きちんと縄になってる!」


「うまく、できた」


 感動の声を上げるりあむに、そのゴブリンもどこか満足そうにうなずいた。

 完成した縄は、ゴブリンの親指程度の太さで、ゴブリンの脚の先から胸のあたりぐらいまでの長さだ。

 使用したイネ科の植物がやたらデカかったので、完成した縄も長くなったのである。

 それでいてあまり太くならなかったのは、一本の太さがそれほどでもなかったおかげだ。

 代わりに茎はかなり固く、柔らかくするのに苦労したのだが、その甲斐はあったといっていいだろう。


「さて、この縄、ロープでもいいけど、これは実はいろいろな使い方があります」


 りあむは完成した一本を使い、縄、ロープの便利さを説明することにした。

 先に説明すればよさそうなところだが、残念ながら説明するのに必要な道具がなかったのである。

 言葉だけで説明しても、内容を伝えるのは難しいだろう。

 代用品で説明することも考えたのだが、程よいツタなどがなかったのだ。

 ちょうどよい太さのツタは案外切れやすく、丈夫なものは太すぎて使えなかった。

 藁で編んだ綱、ロープの偉大さを知るいい機会になったと思えば、試してみた甲斐はあったといっていいかもしれない。

 それに、ちょっとした副産物もあった。

 ツタの丈夫さを確認する過程で、りあむはケンタにヒモの結び方を教えていたのだ。

 ものを結ぶというのは、指先の器用さを求められる作業である。

 特別なゴブリンとはいえ、出来るかは五分五分だとりあむは思っていたのだが、結果は上々だった。

 ケンタはもちろん、簡単な結び方ならば、他のゴブリン達も可能だったのだ。


「ロープの使い方の一つを説明しまーす」


 すぐに行えてゴブリン達に有用そうな縄、ロープの使い方としてりあむが思いついたのは、獲物の運搬であった。

 さっそく、一匹のゴブリンにあおむけに寝転がってもらう。

 その両脚を、ロープで縛る。

 作業をするのはケンタで、説明をするのはりあむだ。

 縛られているゴブリンにはかなり申し訳ないが、これも必要な犠牲だと思ってもらうしかない。

 幸いなことに、縛られているゴブリンは気にした様子がないのが救いだ。

 うまく縛り終えたところで、長くて太い木の枝を持ってきてもらう。

 長いし太いしで、槍などにも使えない木材だ。

 普段は大きすぎて無視される素材だが、りあむが指示して用意させたのである。


「じゃあ、脚と足の間に木材を通して。本当は手も縛っておきたいんだけど、縄がないから手でしがみついてくださいね」


 縛られ役のゴブリンは、りあむの指示通りに動く。

 なかなか間抜けな格好だが、仕方ない。


「肩に担いで、持ち上げてみましょうか。まずは、肩に乗せて、屈んだ状態で待機」


 りあむの指示で、ケンタ以外の二体のゴブリンが木材を肩にかける。

 そのままだと肩に食い込んで痛いだろうという事で、大きめの木の葉を数枚、肩の上に敷いていた。

 気休めの類だが、何もないよりはましだろう。

 肩の木材を乗せて、屈んだ状態で待つゴブリン達。


「よし、せーので持ち上げてみましょー。せーの!」


 二匹のゴブリンは、りあむの声に合わせて立ち上がる。

 バランスを崩しそうになるものの、声を掛け合って立て直した。


「じゃあ、少し歩いてみましょう」


 歩き始めたゴブリン二匹の口から、感嘆が漏れた。

 吊るされているゴブリンは、不思議そうに二匹の顔を見回す。


「これ、すごくらくにはこべる」


「ゴブリンより、すこしおおきいぐらいなら、らくにはこべる」


 二匹のゴブリンはそういいながら、少し早足で進み始めた。

 ここにきて、縛られているゴブリンとケンタも、感心の声を上げる。


「えものをはこびながら、はしれるのか」


「すごいな。移動がずいぶん楽になるぞ」


 獲物を運ぶというのは、ゴブリン達にとって重労働であった。

 大きなものを手だけを頼りに運ぶというのは、相当に苦労するものなのだ。

 そこに、今のようなロープを駆使した方法が加われば、かなりの労力が削減されることは間違いない。

 もちろん、それだけではない。

 獲物を運んでいるゴブリン達は、どうしても無防備になるものだった。

 両手はふさがっているし、身体は運んでいる獲物の方を向くことになる。

 そうなると、移動速度は遅いものにならざるを得ない。

 足元もおぼつかないし、かなりの危険が伴うことになる。

 対して、ロープと木材を使った方法であれば、そういった危険を劇的に削減する事が出来るのだ。


「三匹ではこぶものぐらいなら、二匹ではこべそうだ」


「ベテランのゴブリン以外でも運び役が任せられるようになるんじゃないか?」


「そうだな。わかいごぶりんが、はこびやくになれる。ごえいのせいども、ずいぶんかわってくるだろう」


 流石現場が長かっただけあって、ゴブリン達はすぐに有用性に気が付いたようだ。

 りあむが説明するまでもなく、好い点をどんどんあげてくれる。

 そんな様子を見やりながら、りあむは満足そうにうなずいた。


 縛られていたゴブリンをほどき、今度は別の使い方を説明することになった。

 次に持ってきたのは、ゴブリンの身長より、低い程度の棒だ。

 形は歪だが、へし折れ難い。

 ただ、妙にしなりが強いため、槍などにはしにくいとされていた木材だ。

 りあむはまず、これの先の方にロープを結びつけるようにと指示した。

 丁度枝が折れた後の出っ張った部分があったので、そこを巻き込む形でロープを結んでいく。

 わざわざそういう形の枝を探しておいたのだ。

 結び終わると、やたら糸が太い釣竿のような形になる。

 本来ハリが付くであろうヒモの先には、拳二つ分ほどの石を括り付けた。

 完成したのは、長い棒に、ゴブリンの肘から指先ほどの長さのロープが伸び、その先に石が括り付けたもの、である。


「いわゆる、フットマンズフレイル、あるいはモーニングスターってやつなんだけど。まぁ、名前はいいや。とにかく、フレイルっていう武器の一種だよ」


 フレイルというのは、棒と、ヒモなどで構成される継手と呼ばれる部分、穀物と呼ばれる重たい何かで構成された、打撃武器の一種だ。

 棒を手で持ち、振りまわすことで打撃を与える武器である。

 持ち手である棒を振り回すと、継手の部分の働きにより、穀物部分が加速。

 それにより、強力な打撃力を産み出すのだ。


「使いどころは槍なんかよりも限られるけど、けっこう強力な武器だよ」


 森には、ゴブリン達が手が出せない生き物が、何種類か居た。

 その中の一つが、やたらと固くて重い生き物である。

 大型の虫や、カメ、あるいはりあむも分類がよくわからない生き物達だ。

 これらは非常に堅牢で、ゴブリンの主力である牙や爪が役に立たない。

 槍でも歯が立たず、ゴブリン達が現在使っているハンマーでも、倒すには相当な労力が必要だった。


「でも、これならかなり打撃力が乗ると思うんですよね」


 先ほどまで縛られていたゴブリンに、完成したてのフレイルを使ってみるように促した。

 嫌な役をやってもらったお詫び的な意味合いである。

 ゴブリンはフレイルを持つと、不思議そうな顔で振り回し始めた。

 ハンマーと同じようなものだと聞き、とりあえず的に向かって振り下ろしてみる。

 的にしたのは、運び込んだ一抱えほどある木材だ。

 へし折られて転がっていたのを、拾ってきたものである。

 試すように振り下ろされたフレイルの穀物部分は、十全にその機能を発揮した。

「ごん!!」という大きな音を上げ、木材を叩き割ったのだ。

 これを見たゴブリン達からは、歓声に近い声が上がった。


「すごい、いりょくだ!」


「これなら十分狩りに使えるぞ」


「自分たちでつくれるのか、これが」


「みんなに、ぶきをもたせられるかもしれん」


 ゴブリン達が喜んだのは、フレイルの威力に関してだけではない。

 それを自分達で作る事が出来るようになったというのが、最も大きな喜びであったのだ。

 今までは偶然に拾うしかなかったものを、自分達で安定して作る事が出来るようになった。

 それも、比較的簡単な方法でだ。

 必要な材料も、作る過程においても、一般的なゴブリンで作業を行う事が出来る。

 特別なゴブリンであるケンタでなくても、武器が作れるのだ。

 ゴブリン達の狩りが一気に楽になるのは、間違いない。

 よろこぶゴブリン達を見て、りあむは苦笑をもらす。


「縄やロープは、他にもいろいろな武器に応用が利くんだけど。とりあえずこれは、このままで使うことにしましょうか。使うのに練習が必要だから、次の護衛を担当するチームに渡しましょう」


 フレイルは強力な武器だが、扱うのに少々コツが必要だ。

 護衛をしている間に、その練習をしてもらおうというわけである。


「ただ、それにしても数が必要でしょうからね。とりあえず材料もありますし、まだ縄ないの練習も必要ですから、これと同じのを十個目標で作りましょう」


 りあむの指示で、四匹のゴブリン達は再び縄をなう作業へと戻った。

 相変わらずゴブリン達の表情はりあむにはよくわからなかったが、先ほどまでよりも覇気が感じられるような気がする。

 これを作っているのだ、という明確なものが見えたのが、大きな理由だろう。

 ましていつも欲していた武器を作るのだと思えば、尚更のはずだ。

 りあむはそんなゴブリン達を見て、満足げにうなずいた。

 短めの縄が上手く作れるようになったら、次はわらを継ぎ足して長い縄を作れるようになってもらう予定だ。

 それが出来るようになったら、次は石器作りをするのがいいだろうか。


「黒曜石みたいなのは見つからなかったのが、残念といえば残念なんだよなぁ」


 打製石器などの材料になる黒曜石は、残念ながら見つける事が出来なかった。

 もっとも、産出される場所が限られた石なので、ほとんど期待はしていなかったのだが。

 縄はなったことがあったりあむだったが、流石に石器は作ったことがない。

 石についての詳しい知識もないので、石器作りはかなり難航するだろうと思われた。

 それでも、作る事が出来れば、ゴブリン達の役に立つのは間違いない。

 実際に石器を作ったことはないが、以前にネイチャー系番組で、作っているのを見たことはあった。

 興味が出て、インターネットなどで調べてみたこともある。

 それらの知識をフル動員して、何とかそれらしいものを作るしかない。


「打製石器、磨製石器。どっちも試してみるか。今ある材料で考えると、磨製石器の方が作りやすいのかなぁ? 試してみるしかないかぁ。槍は急ぐとして、斧もほしいし。うーん」


「りあむ、できた」


「お! 本当だ! よく見せて!」


 ゴブリンの一匹に呼ばれ、りあむはあわててそちらへと漂っていった。

 新たにできた縄の出来栄えは、中々に良いようだ。


 この後、ゴブリン達は無事にフレイル十本を完成させた。

 さっそく配られたこの十本は、ひとまず警備の時間に全員にまわすこととなる。

 そこで、りあむから直接、使い方の注意や、使い勝手の確認などが行われた。

 結果は上々なようで、すぐにでも武器として使えそうだ。

 フレイルは癖の強い武器なだけに、使いこなせるかは微妙だと思っていたのだが、これにはりあむも一応ほっとした。

 だが、実際に狩りに成功するまでは、何とも言えないというのが正直なところだろう。

 武器ではあるものの、フレイルというのは狩りの道具として使い勝手のいいものとは言えない。

 動きが遅く、頑丈な相手に打撃を加えるものだから、仕方のないところだろう。

 それでも、無いよりは確実にましなはずだ。


「やっぱり、縄の次は石器だな」


 石器作りは急ぎたいが、縄は縄で間違いなく便利な道具なのだ。

 作った石器を棒などに括り付けるのにも使えるし、獲物を運ぶのに使う分も確保したい。

 せっかく藁があるんだから、ムシロもあった方がいいだろう。

 それを細い縄で縫えば、袋だって作れる。

 袋と縄があれば、採集は俄然楽になるはずだ。

 ただ、袋を作るためには針のようなものが必要で、それを加工するためには石器の類も必要になってくる。

 縄で縫うための大振りの針ぐらいなら、石器で加工できるはずだ。

 そうなるとやはり石器が必要になってくるわけで。


「あああ、手が足りないなぁ!」


 あれこれと考えながら、りあむは頭を抱えた。

 とにかく、一つ一つやっていくしかない。

 縄の次は、石器。

 徐々に段階を踏んでいくしかない以上、焦りは禁物だ。

 地道にコツコツやるしかない。


「なんか人間時代の仕事とやってること変わんないなぁ」


 それどころか、二十四時間働きっぱなしな分、それよりも過酷な労働をしていると言えるかもしれない。

 なんとなく悲哀を感じながらも、りあむは次の作業のための準備を始めるのであった。

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