ドブネズミは美しいのか。
喫茶店の閉店時間が刻一刻と迫る。それはこの物語の終わりを比喩しているようだった。
灰皿に置いた煙草が燃え尽きる。
「大次郎、速人さん、あなた方は終わりよ」
「何故?」
「ただのホモカップルなら良いのかもしれないけれど、あなた方はウンコホモカップルだから」
「ウンコホモって......」
「間違ってないでしょ?」
「じゃあ....何故、カトリーヌお前は、何でも許容できたのに、ウンコホモだけ許容できない?」
カトリーヌは溜息を吐いた後、語る。
「二重は無理。汚いのは苦手だから、ね」
「誰もがドブネズミに触れて、許容できるわけではないんです」
カトリーヌは続ける。
「そもそも大次郎。あなたは子を授かれない。男だから」
「でも彼女役になったお前なら子どもの欲しさはわかるでしょ? でもその身に宿すことはない」
「頑張っても、流れ産まれるのは肛門からの血液と痔」
「ホモ同士は....」
「枯れ木にテープで実を着けているようなもの」
不自然極まりない。実らない、実のならない木。
「そのテープを私はカッターで切るの」
カトリーヌはカバンからカッターを取り出し、そう言った。
「........」
喫茶店のマスターが近付き、
お客様、まもなく閉店ですのでそろそろお引き取りを....と言った。
カトリーヌに何も言い返せない。そして誰も話さない。重苦しい空気。息苦しくて窒息してしまいそうだ。
その空気を速人は切り開いた。
「じゃあ何故お前は、ウンコのみは許容できたんだ?」
彼女は答える。
「お漏らしは、胃腸が弱くて共感できたってのもあるけど、一番は本当に愛していたから」
「その愛を私は........裏切られた」
「今でも愛してるのに....僕達、ホモです。ってひどいよ....」
カトリーヌは泣き出してしまった。
喫茶店のマスターは、そろそろお引き取りを。と言わんばかりに此方を見つめている。
私はこの話を終わりに、展開させるため、
唇を開いた。
「 カトリーヌ。君は何故ウンコは許容したのに....ドブネズミが汚いと言い張るんだ?!」
「ホモカップルが....ドブネズミが美しくないなんて誰が決めた!?」
私は、テーブルの上に置かれていたカッターを取り、叫ぶ。
「ドブネズミは美しいんだ!」
カトリーヌは驚いていた。
マスターの表情も、先刻迄と大きく違い、驚き、慌てていた。
速人は....
「もう、やめとけ」
隣に立った速人は、私に言った。
私の持っていたカッターは、速人の手で抑えられていた。
血液が滴る。
速人は言う。
「もう終わりにしよう」
「大次郎と彼女さん。よりを戻せ。お前らお似合いだぜ? 」
カトリーヌは動揺している。先刻の動揺が収まっていないのか。
喫茶店のマスターは少し落ち着いた表情に戻っていた。
「何を言い出すんだ速人?! お前のために、やっていたのに」
「ウンコホモ以外なんでも許容してくれるなんて良い彼女じゃねーか。しかも今でも愛してるんだろ?」
「ま、まぁそれはそうかもしれないけど。」
「彼女さん、カトリーヌさんのことは嫌いではないんだろ? 本当は別れたくなかったんだろ?」
「そんなこと....」
「カトリーヌさん、胃腸が弱いみたいだから、お漏らししても許容してやれよ?」
「......速人....わかった。お前の意見を飲もう。カトリーヌ、よりを戻そう」
カトリーヌの方に目をやると、まだ緊張していた。
喫茶店のマスターは、やっと終わったと、安堵していた。
「カトリーヌさん、あんたはどうなんだ? 告白の返事をしてやれよ」
「そ、そりゃよりを戻すよ......」
「で、でも....あ!」
ぷりぷりぷり
緊張も度を越したのか、彼女はウンコを漏らしてしまう。
「は? えっ......うわぁ....」
速人は言う。
「くっせぇ、汚ねぇ!」
喫茶店のマスターは叫んだ。
肛門からの切ない音色が鳴り止むと、閉店時間を過ぎた喫茶店の店内は静まり返った。
私は口を開く。
「気持ち悪っ、別れよ」