再び訪れるもの。
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。
私に起きた出来事は、まさしく奇。
恋愛相談を聞いてもらっていた親友と、一線を越えてしまった。
(....決して嫌な気分ではない)
そう感じていることそのものが嫌な気分にした。
落雷。破壊音のような落雷の音。
再び逃げるように、喫茶店に入る。
「なぁ、大次郎」
目の前の男が切り出す。
「なんだよ、速人」
「なんで....俺と付き合ってくれたんだ?」
「そんなこと...わからないよ」
「ふぅん、そうかよ」
「俺は、少女漫画が昔から大好きだった」
「うん?」
「ヒロインがカッコイイ王子様に救われ、恋に落ち、徐々に近づく距離....。そんなのが憧れだった」
速人は黙っていたが、気にせず続ける。
「魅了されたよ。その世界に引き込まれた。少女漫画は、俺もヒロインになれるんじゃないかって思わせてくれた」
「でもダメなんだ....」
「大好きだった少女漫画のヒロインに......俺はもうなれないんだよ!」
「....俺はウンコまみれの女装男だからな!」
店内が静まり返る。
真隣の客がコーヒーをこぼした。
目の前にいる速人は完全に顔を伏せて、黙る。
「俺は、俺達はもう普通の世界には居られない!」
「変態糞まみれホモカップル同士の恋愛少女漫画がいったいどこにあるんだ!?えっ!?」
速人は重たい唇を開き言った。
「ま、まぁでも昨今の女性誌のヒロインは男だぞ」
「は? えっ!? そうなの?!」
「そうだぞ。王子様も男だ」
「そうだな! ん?! おかしいぞ....でも確かにそう。その通りだ」
(少女漫画ではなく、女性誌と広い視点でみると男同士はおかしくないのかも....)
「じゃあ、俺達はおかしくないってことだよな!?」
「かもな」
「でもウンコはないな」
「..........それな」
隣の客はコーヒーを吹き出した。
「つーかお前は何に悩んでるんだよ?」
「いや、速人にされた行為を振り返ると人間には戻れないなぁって悩んでた」
「ふぅん、って、俺にされた? 俺は悪くねーよ! お前が受けただけだろ?」
「えっ? 俺のせいにするのか?! 受け身が悪いって言い張るのか!?」
「欲しがったのはお前だろ!! このウンコ野郎!」
「そうだよ! 俺はウンコ野郎なんだよ!!!!」
「....すまん。言いすぎた。お前はウンコじゃねーけどよ....面倒なんだよ....悩まず普通に付き合おうぜ....」
「でも!このままじゃあ幸せなんて....手に入らないじゃない!」
その言葉を言い出した時、視界に入る何か。
見慣れた顔。嗅ぎ慣れた香り。喫茶店の端の席。私達から見て真隣。
そこにいたのは、私の元彼女だった。
「全部きいたよ。」
「まさか演技だったなんてね。」
「でもそれが今や君らはウンコホモの真髄!!!」
店員は再度静まり返る。