第二話 始まりの森2
ジリリリリリリリリリリリ
森の中には似合わない機械的なブザー音が鳴り響く、小田が素早く反応する。俺たちはこのブザー音に聞き覚えがあった。
武羅苦栖湾は基本的に来るものを拒まず、その活動方針に共感を覚えるものなら誰でも武羅苦栖湾の一員になることができた。けれども規模も大きくなり、その名前が有名になると「武羅苦栖湾の一人を倒した」という称号欲しさだけに武羅苦栖湾が狙われることが多くなった。
副総長のミハエルをはじめ小田を含めた初期メンバー以外に喧嘩が強くない者には爆音の鳴るブザーが配布された。
「俺ら以外にもやっぱりこっちに来てるやつがいるみてェだなァ」
「総長、急ぐッスよ。あのブザーが鳴るってことはウチのもんが……」
「おゥ」
バイクを木のそばに止めて、ブザー音の鳴るほうへと急ぐ。しばらく走ると木々がなくて少し拓けた場所に出た。そこに一軒の小屋が建っていて、ブザー音の発生源もどうやら小屋の中からだったらしい。
「おーゥ、幸か不幸かまだわからないけどよゥ。とりあえずこの森にも、この世界にも人間はいるみてェだなァ」
俺は小屋の扉のサイズに注目していた、それは一般的なサイズの扉で、まさに人間用と言ったところ。脳裏には森の中で見かけた巨大な足跡が思い浮かぶ、ブザーが鳴っている直接的な原因に巨大足跡の主が絡んでいなければ、まだ俺たちにもやりようがある。
俺らは音を殺して小屋に忍び寄る。
小屋の中に入るとそこにはお茶を飲みながら休んでるガリメガネと長身の男がいた。
「あ、あ、そ、総長さんと、こ、小山さんじゃないですか」
ブザーは本当に危機が迫った時に鳴らすことになっているものだから、小屋の中でくつろいでるガリメガネを見て、緊張との落差から思わず眉間に皺が寄る。
このガリメガネの名前は栗林と言って、武羅苦栖湾の後期メンバーの一人だ。運動やバイクでの走りが生まれつき体力がないから苦手にもかかわらず、バイクが三度の飯より好きでバイクの整備や部品いじりでバイクにもっと触りたいという理由で暴走族になりたいという変人だ。勢力拡大の手段として喧嘩を用いないという比較的温厚なうちの運営方針に惹かれたらしい。
「栗林ィ、おめェなに茶ァしばいてんだよ。おめェブザーはどうしたァ?そして隣にいる男、こいつはァ誰なんだよゥ、敵と仲良くお茶してるわけじゃないんだろうなァ?」
ちらっと長身の男を見ると、軽く会釈をしてきた。どうやら敵性はないらしい。
小田も俺と同じ理由でむかついたらしく、殴るような素振りを見せた。するとガリメガネこと栗林は慌てふためいて口早に言い訳をはじめた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ぶ、ブザーを鳴らしたのにはちゃんとわけがあるんでしゅ」
栗林が言うには、自分も俺らと同様にあのトンネル事故に遭遇して意識を失っていた後にこの森で目覚めたらしい。広い森の中で迷子になっているところを大型の猛獣に襲われたらしい。
「く、熊みたいなやつが襲ってきたんでしゅよね、そ、それで逃げるので必死でその時はブザーを鳴らすこともできなくて。そ、そしたらこの人が助けてくれたんでしゅ」
「なるほど、でもそれってブザーを鳴らした理由はなくないッスか?」
「い、いや、初対面の人と二人きりなんて、ちょ、ちょっと気まずくて」
「はあ、しょうもない理由ッスね」
「まあよゥ、ここはもしかしたら日本じゃねェ可能性もあるんだァ。できるだけ武羅苦栖湾のメンバーは集まるべきだからよゥ、危機管理的な意味でもよゥ、いいんじゃねェか」
「あ、ありがとうございます、そ、総長」
「それからそっちにいるお兄さん、うちの仲間を助けてくれたありがとうなァ」
「いやいや、狩りの最中にそちらの方がこまってるようでしたからね。もし迷子になってるようでしたら山のふもとの城下町までお送り致しましょうか?」
「総長、どうするッスか?」
「俺らだけでこの森から出るのは厳しそうだしなァ、ここは甘えるべきだろゥなァ。行くぞ、栗林」
こうして俺と小田、栗林の三人は長身の男の誘いで森から出ることをてつだってもらうことになった。




