第十八幕 守りたいものを守るため
「杏雛!?」
私の頭の中は真っ白になっていた。
ただ胸の辺りから大きな本のような物が出ているのは薄れていく意識の中で確認した。
「まずいわ・・・」
「・・・アレはあの時に神から授かった本・・・ぐっ」
「零・・・あなたは頑張ったわ・・・休みなさい・・・」
アインジュは零の体に手を当てると光を放つ。
「すまない・・・私がいながらも杏雛を守れなかった・・・アインジュも無理をするな・・・賢者の石が発動すればお前から魔力が消費されていくのだ・・・だいぶ魔力が尽きてきているだろ・・・」
アインジュは続けて治癒魔法を発動しながら杏雛の方へ顔を向ける。
「ディミュルギア・・・まさか貴方様が・・・」
「ディ・・・ディミュルギア!?」
ディミュルギア・・・その名を聞いて大きな反応を見せたのはカナリアだった。
「ディミュルギアってあの?」
「ディミュルギア・・・って・・・あっ!!」
アンジュも思い出したようだった。
それを確認したからかアインジュは話を続けた。
「あの杏雛から出てる大きな本・・・あれは創造の本と呼ばれていて創造神がこの世界を創り出す為に使ったと言われている本で・・・それを私と零アークバビロン家として守るようにって言われたのよ」
守るように言われたのを理解したがまだ理解していない事があった。
なぜその本は杏雛の中にしまっているのか・・・
「あの大きさの本をしまうにはかなりの大きさの本棚が必要・・・杏雛には生まれながらに才能があったのかも知れないは・・・あの本を一冊入れるくらいの本棚があったのよ・・・生まれてすぐに・・・」
「あの本をしまう程の本棚?」
「大体だけど普通の魔法の書なら100冊は入るんじゃないかしら・・・」
「100冊!?それ程の大きさの本棚を生まれて持っていたと!?ありえない・・・」
カナリアはかなり驚いていた。
それもそうだ・・・魔法の書100冊を持とうと思い魔法学を勉強すれば並の魔法使いなら3年くらいは掛かるのだから・・・
「アレと杏雛を守るために賢者の石を作ったわ・・・魔術を勉強してて本当に良かったわ・・・」
アインジュは立ち上がると杏雛の方へ歩む。
「杏雛・・・その力に支配されては駄目よ・・・」
「ゴホッゴホッ・・・私達の娘だ・・・あの娘は強い・・・大丈夫だ・・・だが少々時間稼ぎはしないといけないと思うが・・・」
そう言って零は立ち上がる。
「杏雛が戻ってくるまで私が相手だアーサー王」
「・・・ディミュルギアにまで手を出していたとはな・・・アークバビロン・・・」
「今は佐々村だがね・・・さぁ手加減はせぬぞアーサー王」
「貴様の名なんぞ知らぬ・・・だが・・・エクスカリバーに勝てる自信でもあるのかな?」
零は拳を握り構える。
「・・・ディミュルギアを扱うということがどういうことか分かっておるのか?人間・・・失敗すればこの世の全てが覆る・・・いやこの世そのものが書き換えられる・・・それはつまり崩壊と再生・・・」
「・・・この先崩壊するのだとしても私は私の守りたいものを守るために戦うとするよ・・・一度も後悔せぬ・・・一々後悔してる男がこんなこと出来ると思うか?アーサー王・・・」
アーサーは笑う。
「貴様の思っていることに我は理解出来ん・・・自ら崩壊へ進んで行くなんぞ無謀よ・・・」
「無謀・・・か・・・ならばアーサー王に挑むのもまた無謀な行為なのだろうな!!」
零はものすごいスピードでアーサーとの距離を詰める。
「無謀と分かっていて向かってくるか・・・」
「それが人間だアーサー王・・・お前もこういう時があったはずだがね」
零の拳はエクスカリバーに当たる。
衝撃でアーサーは後ろへと飛ばされるが両足をついて止まる。
「下らん・・・」
エクスカリバーを振り刃を飛ばす。
それを零は避ける。
「さっきのケガのせいで体が言うことを聞いてくれないな・・・」
零の服が所々切れる。
「動きが遅くなってきたぞ人間!!」
アーサーはエクスカリバーの振る速度を早めた。
「容赦のない奴だ・・・が・・・」
零以外の時が止まる。
「私も手加減はせぬぞアーサー王」
アーサーの前へ行きアーサーへ一撃与える。
それと同時に時は動き出す。
「ちっ・・・小癪な真似よ・・・」
「私の動きを捉えられるかな・・・アーサー王よ」
「杏雛・・・頑張って・・・」
お母さんの声が聞こえる・・・
ここはどこなの?お母さんは?みんなは?お父さんは?どうなったの?