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おじいちゃんにあいたい

作者: 松葉芯

 たけるくんはおじいちゃんが大好きでした。毎日一緒にお出かけをして、色んな事をしていました。自転車の練習をしたり、河原で水切りの投げ方を教えてもらったりしています。他にも、メンコというものを教えてもらったり、ベーゴマのことだって教えてもらいました。おじいちゃんは、昔の遊びを沢山知ってるのです。でも、おじいちゃんは、最近のことにはあまり詳しくないみたい。だから、たけるくんがおじいちゃんに教えることだって沢山あるのです。今、幼稚園でみんながしていることや、人気のテレビの話なんかをすると、おじいちゃんはそうかい、そうかい、とたけるくんの話をよく聞いてくれていました。それに、時には戦うことだってあったのです。実は、悪の組織に入っていたおじいちゃんを、見事に成敗して改心させたのは、他でもないたけるくんなのです。

 両親が共働きのたけるくんにとって、おじいちゃんは一番一緒に居る時間の長い人でした。だから、たけるくんはちっとも寂しいとは思いません。

 そんなある日、おじいちゃんが言いました。

「たける、じいちゃんのことが好きか」

「うん。だいすきだよ」

 たけるくんは、嬉しそうな顔で元気に言いました。

「じいちゃんな、もうすぐ遠いところにいかにゃならんのだ」

「どこにいっちゃうの?」

 たけるくんは、とても不安になってしまいました。

「じいちゃんはばあさんに会いに行くんじゃ」

 たけるくんは黙ってしまいました。

「じゃがな。たけるが良い子にしてればまた会える。それにな、たけるが大きくなった時には、じいちゃんは笑ってるはずなんじゃ。だから、悲しむ必要はないんじゃよ」

 じいちゃんはニコニコしながら話していますが、たけるくんは悲しい気持ちでいっぱいでした。

「いついっちゃうの?」

「それはわからん。じゃが、じいちゃんはいつでも傍におることは忘れんでおくれよ。たとえ見えなくなっても、じいちゃんはずっとたけるを見てるからな」

「へんなの。ぼくはみえないのに、じいちゃんにはみえるの?」

「そうじゃとも。じいちゃんだけじゃないぞ、ばあさんもたけるのことを見ておる。じいちゃんには見えとるよ」

「え、ほんとに? どこどこ?」

「ほっほっほ、それは、たけるが大きくならんと見えんもんなんじゃ。だから、その時まで楽しみに待ってくれるか」

「うーん……いいよ」

 たけるくんはよくわかりませんでしたが、大好きなおじいちゃんが言うのだから、きちんと指切りをして約束しました。

 それから何日か経つと、おじいちゃんは動かなくなっていました。お父さんとお母さんは、悲しい顔をしています。

「おじいちゃん、ほんとにいっちゃったんだ」

 たけるくんがそう言うと、両親は驚いた顔をしています。

「たける、急にどうしたの?」

「まえに、おばあちゃんにあいにいくっていってたよ。でも、またあえるって」

 たけるくんは、寂しい気持ちはありましたが、そんなことは全然平気でした。おじいちゃんと交わした約束を、たけるくんはきちんと守っているのです。

「じいちゃんそんなこと言ってたのか。たけるが頑張ってるのに、父さん達が悲しんでちゃダメだな」

 たけるくんは、おじいちゃんとまた会える日を、とても楽しみにしていました。ですが、公園に行っても、河原に行っても、おじいちゃんはもう居ません。そんな日が続くと、たけるくんは少しずつ我慢できなくなってしまいました。そして、いよいよ限界が近づいた時、たけるくんのおうちに、キラキラと光る箱がやってきました。

「これは何?」

たけるくんは、お母さんに聞きました。

「これは、仏壇って言って、おじいちゃんが眠っている場所よ」

 お母さんは答えました。でも、たけるくんには、おじいちゃんの姿は見えませんでした。

「ほんとうにおじいちゃんがいるの?」

「そうよ。たけるにはまだ見えないかな。もう少し大きくなったら見えるようになるわ」

 お母さんもおじいちゃんと同じことを言っています。

 たけるくんは、早く大きくなりたくて仕方ありませんでした。毎日、おじいちゃんが見えるようになっているかどうか、とても楽しみにしています。しかし、いつまで経ってもおじいちゃんは見えません。それどころか、一人で公園に行ったり、河原に行くようになって、おじいちゃんが居ないことばかりが気になってしまいます。そして、どんどん寂し気持ちが大きくなってしまいました。

 それから何日も経ったある夏の日、たけるくんは知らない場所に来てました。そこには、綺麗な石が沢山並んでいます。そして、その中の一つの石の前で、お母さんが手を合わせていました。

「なにをしているの?」

 たけるくんはお母さんに聞きました。

「おじいちゃんに挨拶しているのよ」

 お母さんは答えました。でも、やっぱりたけるくんには、おじいちゃんの姿が見えません。

「おじいちゃんいないよ?」

「ふふふ、大きくなったらわかるわよ。たけるは本当におじいちゃんが大好きね」

 やっぱり、たけるくんにはおじいちゃんの姿は見えませんでした。でも、その日の夜、たけるくんがいつものように眠っていると、おじいちゃんの声が聞こえてきたのです。

「たけるよ。良い子にしておるか」

 たけるくんはびっくりして飛び起きます。すると、そこには大好きなおじいちゃんが立っていました。

「たけるはちゃんと良い子にしとったようじゃの。じいちゃんは嬉しいぞ」

 そう言って、おじいちゃんはたけるくんの頭を撫でてくれました。

「へへへ。おじいちゃんのいったとおりだ。またあえるんだね」

 本当は寂しくて仕方なかったのですが、おじいちゃんとの約束が、たけるくんを強くしてくれたのです。

「そうじゃとも、いつでもたけるのことを見ておるぞ。ちゃんと一人で自転車に乗れるようになったことも、コマを回せるようになったことも、全部見ておる」

 居なくなったと思っていたおじいちゃんが、ちゃんと傍に居てくれたことを知って、たけるくんは嬉しい気持ちでいっぱいでした。

「じゃがな。好き嫌いはよくないぞ。嫌いな食べ物を残してることだって見ておる」

 残念ながら、嬉しいことだけではありませんでした。たけるくんは知らんぷりしていますが、おじいちゃんは許してくれないようです。

「好き嫌いはいかんぞ。そんなんじゃ正義の味方にはなれん」

 そっぽを向いていたたけるくんですが、正義の味方と言われれば、話は別です。

「……わかったよ。ちゃんとたべるよ」

 たけるくんは口を尖らせて言いましたが、それを見たおじいちゃんは安心したようです。

 それからたけるくんは、溜め込んでいた気持ちを伝えて、おじいちゃんとの時間をめいっぱい楽しみました。

「そろそろわしは戻らねばならんのぉ」

 おじいちゃんは言いました。

「おじいちゃん、もういっちゃうの?」

「また良い子にしてれば会える日も来る。そう悲しい顔をするもんではないぞ」

 おじいちゃんの笑顔を見ていると、なんだかたけるくんも嬉しくなってきました。

「また、ぜったいきてね」

「もちろんじゃとも」

 おじいちゃんとさよならをすると、たけるくんは布団の中に居ました。

「あれれ、おじいちゃんといっしょだったのに……」

 たけるくんが眠たい目を擦っていると、ちょうどお母さんがやってきました。

「あら、たける。今日は早起きだね」

「おかあさん、あのね。さっきまでおじいちゃんといっしょに……」 

 たけるくんはおじいちゃんと会ったことを、一生懸命説明しました。すると、お母さんはニコリと笑ってこう言いました。

「それなら、お母さんも会ったわよ。おじいちゃんだけじゃなくて、おばあちゃんにも会ったのよ」

「へぇ、おばあちゃんも来てたんだ」

「そうよ。でも、たけるは会ったことないのよね。今度写真見せてあげよっか」

「おばあちゃんにもあいたいな。こんどはいっしょにきてくれるかな」

「きっと来てくれるわ。だから、ちゃんと忘れないで居てあげてね」

「うん! ぼく、ずっとおぼえてるよ」

 たけるくんは、本当におじいちゃんに会うことが出来ました。一人の時間は寂しいけれど、いつでもおじいちゃんが見ていてくれると思うと、とても勇気が湧いてきます。それに、たけるくんにはおじいちゃんとの約束があります。だから、次に会えるその日まで、笑顔で居ることが出来るのです。

 そんなたけるくんを遠くから見ている二人も、とても幸せそうです。

「やれやれ、まだばぁさんとゆっくり出来そうにないのう」

「ふふふ。今度は一緒に会いに行きましょうね」

初めて「死」をテーマにして作品です。出来るだけ悲しくはないんだということを書きたかったのですが、上手く伝えることが出来てるでしょうか。よければ感想や評価などお待ちしております。

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