白雪と氷の境2
それからおっかなびっくりしつつも不気味さ満点のタンスの協力を得て、装備といった諸々を整えたアメリアは、ベッドに腰を落ち着かせて時が過ぎるのをじっと待っていた。
普段装備の「シャーマンドレス上下」ではあまりにも防寒性に欠けるので、頭にロシア帽のような外観の「雪国の帽子」と、首元に「火トカゲのマフラー」を装備。
外装に「レッサーコート」と靴に「長靴」、そして指輪として「コモンマジックブースター」を一つ着用している。
背中には、先端が翼を広げた鳥のように見える木で出来た杖の「エレメントスタッフ」を背負う。
姿見を確認すると、杖を背負っているという点を除けば北海道あたりに観光に訪れた外国人の少女のようにも見えた。
余談だが、下着とシャーマンドレスは既に新しいものに取り替えてある。
「……ふぅん」
姿見に映る己の姿を観察していたアメリアは、ぽつりと呟く。
「……かわいいじゃん、俺」
元は三十代童貞の男とはいえ、今のアメリアは極上の美少女である。
ターンしてあざといポーズを浮かべてみたり。招き猫のような手招きする格好をすると、姿見には爆発的な可愛さの美少女が映った。
「やべっ、変な笑いが出そうだ…………ええっと、きらりんっ」
なんてピースと共にウインクを決めてみたりする。いい年した大人が何やってんだかと思わなくもないが、可愛いから仕方なかった。
「うわ、ハマりそう。ナルシストの気持ちが言葉じゃなく心で理解できたかもしんない」
アメリアは男だった時は鏡が嫌いだった。全く持ってモテる気配のない不細工な面を見ると気が滅入るからだ。
しかし今となっては完全に真逆。何時まででも見ていたいぐらい、鏡の中の少女は美しかった。
「……今のうちに写真撮っておきたいな、SS機能とかって使えるのか?」
SSとはスクリーンショットの略。簡単に言えば「クロニクル」でいうゲーム画面を撮影するという意味になる。
ゲーム時代ではキー入力一つで手軽に撮影が行えたが、今はどうなのだろうか。
「御剣さんなら知ってるかもしれないな」
そのあたりも御剣のことだ、既に調べ上げているかもしれないので、後で追々聞いてみる事にする。
それからアメリアはグラビアアイドルのような過激なポーズをとってみたりして楽しんでいたが、それも長々と続けば飽きてくるし、少し虚しくなってきていた。
たしかに美少女の肉体を活かし好き放題するのは楽しかったが、やはりアメリアは元男。こういうのは自分がするのではなくて、可愛い女の子が演じてくれるのを観賞する方が正しいのである。
最早する事もないので雑談でもしようかとアメリアが思ったその時。
飛家がスピードを下げたのか、微かな衝撃が飛家に広がった。
「っとと……、そろそろか?」
それから暫し待つ事数分。
ぴんぽん。と気の抜けた音が鳴る。飛家が目的地に到着した事を知らせるためのものだ。
「(どうやら到着したようだな。装備は整えたか? アイテムの準備は万全か? 小便は済ませたか? )」
御剣がやや興奮気味に言った。
「(……オッケーです。対冷装備、消費アイテムもばっちりです)」
「(……俺も大丈夫です)」
元男二人が御剣の小便と言う単語に反応し、若干間を置いて反応した。
その一致は偶然ではない。何故なら二人は既に小便を済ませていたからだし、その時の記憶を思い出したが故に赤面したからである。
数十秒では語りきれぬ一悶着が、実は二人にはあった。
「<ウィスパー トゥ 田中ドライバーZ>(おい田中、お前トイレどうしたんだよ)」
「<ウィスパー トゥ アメリア>(聞くなよそんな事……恥ずかしいだろ……)」
「(男が恥ずかしがるなよ気持ち悪い。言っちゃえよ)」
「(今は女だろ!)」
「(そうだけどさ、んな事言って隠さなくてもいいって、お前も女体の神秘ってやつが気になった口だろ?)」
「(う、うるせえ!)」
童貞こじらせてン年のアメリアはまるで躊躇う事もなく、「色々と」試していた。
その内容は推して知るべしである。
「(でも色々(・・)知っておいた方がいいと思うけどなぁ)」
「(なんだよ、色々って……)」
「(色々は色々だろ)」
田中以下略は気恥ずかしさの方が勝ったのかいまいち煮え切らない。
いつ性別が変えられるようになるか、そもそも出来るかどうかわからないのだ。
だったらなるべく早い段階で、女の身体に慣れるべく努力をするべきだろうとアメリアは思う。
十中八九不純な考えから来るものだが、その考え自体はある意味で立派だった。
「(さて、では入国手続きを―――二人ともどうした? さっさと降りて来い、この先は徒歩になるんだぞ?)」
「(は、はいっ、すぐ行きますっ!)」
「(ごめんなさい!)」
しょうもない話に興じていた二人は、御剣に急かされた事で慌てた。
御剣を待たせるのはあまり得策とはいえない。殺されかけたアメリアにとっては死活問題ですらある。
「来るのが遅い、死ね」
実際にそうは言わないだろうが、御剣なら言いかねない。そんな感じがするのだ。
「お待たせしましたボス!」
「イエッサー!」
震えそうな寒さを感じつつ、地上に下降用エレベーターで降りた二人はしゃきしゃきと走って既に待機していた御剣の元へ向かう。
「ボス? ……うむ、まあいいか。では行こう、冒険者証を出しておけよ」
御剣の機嫌は良さそうだ。ひとまずアメリアの心配は杞憂に終わる。
戦乙女の装束のままの御剣が、満足そうに頷いたからだ。
そんな彼女の姿を、遠巻きに白雪と氷の境に住む現地住民がかわいそうな人を見るような目で見ていた。
「―――ってちょ~~っと待って下さいよボス!」
「何だ? 忘れ物か?」
「いやいやいやいやいや、その格好寒くないんですか!?」
白雪と氷の境は国境沿いの街とはいえ、いかにも寒そうな街の名が示す通り年中寒い。
今もなおしんしんと雪が降っており、当然の如く気温は氷点下を下回る。
だというのに御剣の格好は「ビキニアーマー」と揶揄された戦乙女の装束のままである。
やっぱりコイツただの頭のおかしい女じゃないか。ついていくの止めて今からアクロニアに帰ろうか。
そんな思いをアメリアと田中以下略が抱くのも無理の無い話だった。
しかし、そんな思いを抱く二人を裏腹に御剣は笑みを浮かべる。
「寒くは無いぞ、ほら、これを見ろ」
御剣が両手を差し出す。
差し出された両手の指の全てに、水色の指輪が嵌っていた。
「全て『レジストコールドリング』だ」
アメリアはそれを所持していないが名前なら知っている。
冷気抵抗力を上昇させる指輪装備の中で最もポピュラーな指輪である。
「これ全部『レジストコールドリング』ってマジですか!? ……って、まさかこれ。全部効果が発動してる!?」
「無論だ。さっきの準備中にちょっと試してみたんだが、上手くいったようだ」
「ひぇ~……」
本来「クロニクル」では指輪の装備可能部位は右手と左手を合わせて二箇所しかなかったはずだが、そのルールもこの世界では通用しないらしい。
指輪を十箇所も装備できるという事はかなりの戦力増強に繋がるという事でもあるが、それは御剣のような一部のプレイヤー以外にはあまり縁のない話だ。
そもそも指輪といったアクセサリーは超貴重品である。現にアメリアと田中以下略も、装備している指輪は一つだけしかない。
「だから私はこんな格好でも平気なんだ。戦乙女の装束を外してパワーダウンしたくないからな、こういう手段を取った」
御剣の全ての指に嵌められた青白い指輪は、両手の指を全部合わせて合計十個になる。
「レジストコールドリング」は一個で冷気抵抗力十%上昇するので、合計で冷気抵抗力が百%もある事になる。
つまり、今の御剣は冷気に対して完全な抵抗力があるということだ。
「じゃ、じゃあ今の御剣さんって全く寒さを感じてないってことですか?」
「厳密にはそうではないが……まぁ寒くても平温に感じるような感覚だな」
冷気を完全にシャットアウトしている以上、余った装備スペースで能力の向上を図るのは合理的な考えと言えるだろう。
御剣の常識と言うステータスが全く足りていない点に目を瞑ればだが。
「でも……見てるだけでもこっちが寒いぐらいですよ」
御剣のあんまりな格好を見て寒さが倍増したのか、田中以下略がぶるぶると震える。
「そうか? ……ふむ、では証拠を見せようか」
そんな田中以下略を見かねたのか―――御剣がおもむろに雪面へダイブして転げまわった。
「ははははは! 冷たいが冷たくなく寒くもないというのは中々貴重な体験だな! これでカキ氷を大食いしたらどうなるんだろうな!」
あはははははははと笑いながら転げまわる姿は、まさしく狂人のそれである。普通なら只の自殺行為に他ならない。
「ヒィ~~~~~ッ!」
「寒い寒いこれ絶対寒いって!」
アメリアと田中以下略が絶叫する。
遠巻きに見ていた現地住民はあまりの惨状に目を背け次々に家々に引っ込んでいく。触らぬキチに祟り無し、である。
「どうだ、すごいだろう。私はこれでも平気なんだぞ」
興奮して赤らんだ顔で、はぁはぁと息をしながら雪塗れになった御剣がのたまった。
どうにも、楽しくてたまらないといった感じである。
雪の日の犬みたいだった。
「お願いです御剣さんそんな事止めてください見てるこっちも余計寒いですし勘弁してください」
アメリアの格好よりも重装備の田中以下略が懇願した。
ファー付きのロングコートを装着し、懐からはほんのりとオレンジ色の温かみのある光が溢れている。
「熱塊石」を使用した事によるライトエフェクトが発生しているのだ。
どうやら田中以下略はかなりの寒がりなようである。対冷気抵抗力を上昇させてなお、この環境は彼にとって厳しいらしい。
「……そうか」
ややしょんぼりとした風に見える御剣は大人しく起き上がり、身体の雪を払った。
しかし装備を変える気配は無い為、どうやらこのままノースマジックランドへ直行する気に変わりはないようである。
颯爽と入国管理局へ歩を進める御剣を前に、二人は顔を見合わせる。
「俺本当に付いて来て大丈夫なのかな」
「……『クロニクル』で話してたときは、ここまでおかしな人ってイメージはなかったんだけどな……」
はぁ。と吐いた二人の溜息が白い煙となって、街の中に消えた。
・
街の北の隅っこ。つまり国境とギリギリ近い場所にある入国管理局の前に一行はたどり着いた。
格式の高そうな、いわゆるお役所様らしい建物を前に、流石に御剣をそのままにしても大丈夫なのかとアメリアは不安がるが、御剣はそんな思いも露知らず。我先にと進んでしまう。
戦乙女の装束のレガースが立てる甲高い鉄の音を鳴り響かせて、御剣は入国管理局に入っていってしまう。
半分諦めた風な二人も、遅れて続く。
「ほっ……暖かいって幸せだな……」
建物の中は暖かい空気に満ちていた。奥に据えられた暖炉が熱源だろう。ずっと寒がっていた田中以下略の顔が綻んだ。
御剣は一体何処に行ったのかと周囲を見渡すと、既に受付らしき場所で係員を呼びつけているところだった。
「入国の許可を求む」
「はい、入国の手続きで―――ひっ」
入国管理局の男が悲鳴を上げた。
(そりゃあ半裸の女がこのクッソ寒い中いきなり現れたら俺だって悲鳴上げるわ)
アメリアは係員の男を哀れんだ。
田中以下略も同じような視線を送っている。実際考えている事も一緒だっただろう。
「あんた、さ、寒くないのか……?」
「寒くはないが、それがなにか?」
「い、いや……しかし……その格好は……」
「何でもいい、さっさと手続きをしてくれないか」
「……あ、ああ」
男は御剣を純粋に心配していた風だったが、やがて押されるがままにしぶしぶと従う。
「……ノースマジックランドの魔法学校入学届け、あるいは入国許可証、または冒険者証を見せてくれ」
「どうぞ。……おい、二人とも? 冒険者証を出すんだ」
「二人?」
「私の連れだ。ほら、さっさと来ないか」
「……はい」
「……はい」
ここまできて他人のフリをするわけにもいかないので、アメリアと田中以下略も受付まで進み、冒険者証を提出する。
合計三枚の冒険者証を受け取った男はそれらに真剣なまなざしで目を通す。
一枚二枚と目を通していた男は、最後の三枚目でその目を大きく見開いた。
「ク、クラスSS冒険者『刀姫の御剣』……!」
それは相当な衝撃だったのか、手に持った冒険者証がぶるぶると震えて、今にも取り落としそうなほど。
「うん? ……ああ、なるほど」
何やら大層な通り名付きで呼ばれた御剣は最初首をかしげ、続けて何かを理解したのか納得した風な様子だ。
「かたなひめ?」
「何のことさ?」
蚊帳の外である二人には、何の事か全くわからず顔を見合わせる。
「ほ、本物っ……!?」
男は冒険者証と御剣の顔とを七度も往復して見た。
その後、「嘘だろ……」と呟いた後、更に三度往復して見た。
「間違いはなかったかな?」
御剣がそう言うと、男は背中に鉄棒でも差し込まれたかのように背筋を伸ばし、びしりと右手を差し出して叫んだ。
「あ、握手して頂けますか!『刀姫の御剣』殿!」
「……? 別にかまわんが、それが入国の為に必要なのか?」
「いいえ違います! 私が個人的にして欲しいだけでありますでしゅ!」
男の語尾がやや怪しくなったが、御剣はそれを気にせず、そうか、とだけ呟いた。
そして、淡々と男の手を握った。
「あああありがとうございます! この手は一生洗いません!」
「いや、それは洗ったほうがいいな。汚いのは嫌いだ」
「毎日石鹸で磨き上げますっ!」
「うむ」
対して握られた男の方は感動に打ち震えている様子。目にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。
「……何アレ」
「……さあ、わからん」
呆れる二人を尻目に、御剣と男の会話が一言二言と続く。
やがてそれも終わったのか、御剣が男から三枚の冒険者証と三枚のプレートを受け取り、待っていた二人にそれぞれ手渡す。
御剣の後方から、「今日は人生で最高の一日だ!」と叫ぶ男の声が聞こえる。
「大リーガーと」
「野球少年ってとこか」
うんうんと二人は頷く。
「何の話だ? ……まぁいい、入国許可証だ。出国の時に返却する義務がある、紛失すると罰金五百Kゴールドだそうだ」
御剣から受け取ったプレートには、ノースマジックランドの大まかな地図と、誰かは知らないが恐らくノースマジックランドの偉人だと思われる老人の肖像画が、精巧な細工で掘り込まれてあった。
「―――また新しい情報が増えたな、いい事だ」
御剣が何処からともなく取り出したメモ帳に何事かを記入する。
許可証の返却義務に、紛失による罰金。そんなシステムはゲーム時代にはなかった。
入国許可証は条件を満たしていれば、NPCとの会話で消費アイテムとして発行され、国境のゲートを潜る時に自動で消費されていた。
「クロニクル」が現実と化した影響だろうか。こういったゲーム的システムのある程度は、現実的なものに置き換わっているようだ。
「ありがとうございます。……にしても五百Kですか、俺とアメリアからすると結構な大金ですね、気をつけないと」
田中以下略が受け取ったプレートを懐に大事そうに仕舞う。アメリアは道具袋の中へ。
「どもです……御剣さん、さっきのアレ。なんだったんですか?」
スルーしていてもよかったのだがとりあえず気になったアメリアが問いかけると、やれやれといった感じに眉根を寄せた御剣が言う。
「私のファン、だそうだ」
御剣が己の冒険者証を二人に見せる。
アメリアが持つ鉄製のと御剣のとでは、見た目がかなり違っていた。
御剣の冒険者証は虹色の色彩を宿しており、見る方向によって多彩な色に変わる。
若干見づらくもあるが、冒険者証には大きくランクSSと文字が刻印されてあった。
「これは想像だが、恐らく私の名声値が関係しているのだろう。冒険者ランクをSSにするためにかなり名声値を稼いだ覚えがある、それが影響しているのかもしれんな」
「あ~~~。なるほど」
「それでですか」
アメリアと田中以下略は御剣の説明に納得がいった。
名声値とは冒険者―――プレイヤーが他者の悩みを解決する、つまりクエストを達成すると得られる数値の事。
それが高いとNPCからの評判が良くなり、物品の売買時に商品が安く買えたり高く売れたり、名声値の高さが特定クエストの受諾フラグになったり、冒険者のランクを上昇させる為には一定の名声値が必要であったりと、名声値の影響する箇所は多岐に渡る。
名声値が高すぎるとある種崇拝レベルの待遇を受ける場合もあるらしいが、二人が目にした先ほどの光景は多少なりともそれに近いものを感じさせた。
「おかげで殆ど顔パス状態で入国審査が終わったようだな」
ふふん、と得意げに御剣が笑う。
「ってことは、俺達も名声値を上げれば御剣さんみたいにファンが付いたりするんですかね?」
「恐らくだがな。―――そうか。だからか」
「御剣さん?」
急に御剣が真剣な顔つきになった。
「アクロニアの街でお前たちと合流するのが遅れたと言ったろう。あの時は私の格好の物珍しさに人が集まったのかと思っていたが……。もしかしたら、集まった人達は私の事を知る者達だったのかもしれんな」
そういえば。とアメリアにも思い当たるフシがあった。
御剣と共に焼き菓子と茶葉を買い歩いていた時、やたらと視線を感じていたのだ。
アメリアはかつて日本の街で美少女を見かけた時は、努めてバレないようにチラチラと観察し心の画像フォルダの中に保存していたから、てっきり自分たちを見ている皆もそうなのだと思っていた。
だが、アクロニアで感じた視線は今にして思えば、憧れだとか尊敬だとか、そういったプラスの感情がかなり混じっていた……ような気がする。
きっとその視線の全てが、御剣に向けられていたものだったのだろう。
未だかつてそんな風に憧れられるような人物になれた事のないアメリアは、御剣がうらやましくなった。
「なんか、そういうのいいですね。俺もちやほやされてみたい…………かも、しれないです」
「ふむ、ならばアメリアもランクSSまでランクをあげればいい。簡単だぞ? 三ヶ月くらい毎日八時間往復系クエストを消化し続ければランクSまではいける」
「どこも簡単そうには聞こえないんですけど」
「それが出来るのは御剣さんくらいですって……。ていうかそこまでやってまだランクSなんですね」
田中以下略が苦笑しつつ、つっこみをいれた。
「まあ何はともあれこうして許可も下りた、行くぞ」
「うっ……またクソ寒い外へ行かないといけないのか……はぁ……」
「諦めろ田中。後で俺の『火トカゲのマフラー』貸してやるから」
がっしと二人は抱き合った。
「おお、友よ。君はなんて優しいんだ」
「おお、友よ。何を言う、お前と俺との仲じゃあないか」
美しい男の友情がそこにあった。女だが。
「い、く。と言っているだろう」
しかしそれも上司の一声で露と消える。
「イエスボス! すぐ行きます!」
「イエッサー!」
二人が御剣の後を追い走る。
入国管理局の外で降りしきる雪は、まだまだ止みそうにもなかった。