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そのあと4


「やはりここに居たか! こちらはライブリラ魔法研究総会である! 今すぐ扉を開けよ! さもなくば無理やりにでもこじあけるぞ!」


 玄関から多数の怒鳴り声が聞こえてくる。

 アメリアを狙う学者達と衛兵であろう事は明白だ。


「やっべえ、早すぎんだろ!」


 想定以上の速さで隠れ場所がバレてしまい、皆一様にうろたえた。


「忘れ物はないか!? 裏口に急げ! ……シャロミー氏よ、世話になった!」


 どたばたとしながらも、御剣がシャロミーに綺麗なお辞儀をし、裏口に向かう。


「あっ! シャロミーさん、その、本当にありがとうございました! このお礼はいつか必ずしますんで! じゃあまた!」


 ターナも御剣に習い頭を下げて、裏口へ。


「シャロミーさん、私の事を一週間もかくまってくれて、本当にありがとうございました!」


 アメリアも、シャロミーとスピルの前でぺこりと頭を下げた。

 彼女と一匹にはたいそうな借りが出来てしまった。


「いいえ……でもアメリアさん、その……身体のほうは、本当に大丈夫なの? 今更いう事じゃないかもしれないけど」

「大丈夫です、こう見えて私は結構丈夫ですから」


 ゲームキャラクターとして高いステータスを持つアメリアは、一週間寝たきりだった後でも、少しリハビリをしただけで身体がしっかり動くようになっていた。

 普通の人間だったらこうはいかなかっただろう。


「でも……ううん、アメリアさんがそう仰るならこれ以上何も言いません、けれど」

「はい?」


 シャロミーがアメリアの両手をそっと握る。


「……気をつけて」

「……はい」


 アメリアは力強く頷き、最後にもう一度頭を下げて裏口へと回る。


「急げ!」


 御剣の鋭い声が聞こえアメリアは顔をしかめたが、すぐに考え直し表情を引き締めた。

 何時までも子供のように拗ねている場合ではないからだ。


「―――シャロミーさん! またいつか!」

「はい!」

「皆様御達者で!」


 裏口から二人の姿は見えないが、アメリアの声に二人は大きな声で返事をしてくれた。


「突入!」

「きゃあっ!」


 裏手から路地に入り、目深いフードを被ると同時に、シャロミーの家から破壊音と鋭い悲鳴があがる。

 思わずアメリアは踵を返そうとするが、それは御剣の手で遮られた。


「アメリア! シャロミー氏なら大丈夫だ。私達に脅されて無理やり匿わされた……という話にすると決めただろう!」

「……そうでしたね、すみません」


 これで間違いなくアメリアらの評判は悪くなり、ライブリラはおろかノースマジックランド一帯において、指名手配される事になるだろう。

 けれども、アメリアはそんな事はもう気にならなかった。

 自分を助けてくれたシャロミーに報いる為ならば、指名手配ぐらい安いものだ。

 それに、三人で居れば、どんな困難にだって立ち向かえる。

 そんな根拠のない自信がアメリアにはあった。


「結局騒ぎになってしまったから、プランはAからプランBに変更だ、いいな?」

「はい!」

「はい! ……って御剣さん、プランBなんてあったんですか? 何時の間に?」


 作戦会議中にはまるでそんな話が出なかったので、ターナが疑問符を浮かべる。

 すると御剣は、にやりと笑みを浮かべて言った。


「ああ、プランBはな―――実はそんな物は、ない」

「はあっ!?」

「言ってみただけだ」


 流石に戦乙女の装束とは違い簡単な変装をしていた御剣だったのだが、その変装をあっさりと解いてしまう。

 そしていつものスタイル(まるで痴女)になった御剣は、楽しげに続けた。


「まぁそうだな―――男らしく正面突破と行こうじゃないか、なぁ?」


 立ち昇る朝日を一身に受け、御剣が仁王立ちする。

 御剣の両足にはベルトが巻かれ、それぞれ煙幕玉とスタミナポーションが既にセットされてあった。

 まるでこうなる事を予想していたかのような準備のよさに、他の二人は思わず呆れてしまう。


「男らしくって……俺達一応女ですよ? でもまぁ、遅かれ早かれこうなるだろうって思ってましたし、もういいです、いっちょやっちゃいますか!」


 ターナはどこか諦めた風な様子で苦笑する。

 御剣と同じように変装を解き、装備を整え始める。

 だが、どことなく楽しそうだ。


「ほんとに、御剣さんは……どうなっても知りませんからね、私」


 アメリアは未だに御剣を見ると、どうして元男だと教えてくれなかったのか、とむかむかしてくる。

 それでも、まだ見ぬ遠くの敵を見据え獰猛な笑みを浮かべている御剣を見ていると、そんな気持ちも湧いてこなくなる。


(本当にこの人は、しょうがない人だなぁ)


 アメリアは溜息を一つついて、道具袋を開いた。

 その中に保存していた一つの消費アイテムを探り出して、使用する。

 ヘルメスの羽――― 一時的にプレイヤーの移動スピードを上昇させる消費アイテムだ。

 白い羽がアメリアの頭上でひらひらと舞い踊る。

 その後、アメリアの足が比喩でもなんでもなく、軽くなった。

 この足ならば、どこまでもひとっとびで駆けていけそうな感じだ。

 これで氷獄図書館のような二の舞にならずに済むだろう。


「ターナ、アメリア」


 準備を整えた二人に向けて、御剣が背中越しに言う。

 そして「邪刀ムラマサ」を抜き放ち、叫んだ。


「行くぞ! 突貫だ!」

「イエスボス!」

「ラジャー!」



 姦しい三人は、正門に向けて真っ直ぐに突撃していく。

 所々から待ち構えていたのか、衛兵や学者達が姿を現し、武器を構え、魔法を唱え始めた。

 だが、最早放たれてしまった矢のような彼女達は、その程度の妨害では止まらない。

 一本だけならば、どうにかできただろう。

 しかし彼女達は三本の矢だ。

 いつぞやの武将が言い放った名言のように。

 三本の矢は一度に折ろうとしても、折れないのだ。


 これから彼女達はどうなっていくのだろう。

 現実と化した「クロニクル」の世界で、冒険を続けるのだろうか?

 それとも、案外落ち着いた生活を手に入れるのかもしれない。

 いずれにせよ。

 未来がどうなるのかは、今はまだわからない。


             ―――"元"男共の狂想曲

                  ……終わり?

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