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クエスト・真名の契約書と魂のインク2

「―――えーと、スピルさんでいいのか? その、シャロミーって人はどんな人なんだ?」

「そうですね、この地に眠る無数の書物の中でも、特に歴史に関する書物を蒐集されている歴史家であります。歳若い身でありながらも歴史研究における功績は著しい所があり、学会でも注目を浴びる期待の新星と呼ばれております。非常に素晴らしいお方です」

「ふぅーん」


 一行がライブリラの門前でスピルと名乗るフクロウが出会ってから、少し時は過ぎる。

 一行はスピルと名乗った喋るフクロウ(シャロミーのペット兼執事であると自己紹介した)の案内に従い、ライブリラの上層を歩んでいた。

 なぜスピルと共にいるのかといえば、御剣がスピルの頼みであるシャロミーという人物の元まで追従する事を即座に許可したからである。

 ―――ちょっと待って下さい、僕の改名はどうするんですか。

 と苦言を呈したのは他ならない田中以下略であったが、御剣の

 ―――心配するな、彼がクエストのスタート地点だ。

 との言葉を受け、なるほどそれで、とスピルの頼みを聞き入れたのだった。


「つまり、偉くて凄い人だと」

「そう、その通りで御座います。……ああ、シャロミー様は私のような下賎なフクロウめにも慈悲を下さる心の広いお方。主から受けた多大な恩と寵愛の返礼の為には、この身を投げ打ったとて本望なのです」


 アメリアとしては物珍しい喋るフクロウ相手に世間話をするつもりで話かけていたのだが、どうにもこのスピルとやら、主人に抱く崇拝の念がいささか強いらしく語る言葉に力が入っている。

 その熱に押されてしまい、アメリアは少し身を引いた。


「そ、そう」

「忠犬ハチかよ」


 黙って聞いていた田中以下略も顔を引きつらせている。


「卑しい犬と比べられるのはあまり良い気分ではありませんが、お褒めの言葉であると解釈致します」


 犬を引き合いに出された事が不快そうだが、あながち満更でもなさそうなスピルは、胸を膨らませて瞳を閉じた。


「……だそうだ」


 そしてそんなスピルを、御剣がぬいぐるみかなにかのように抱きかかえていた。

 戦乙女の装束の御剣が大きなフクロウを抱きかかえた姿はかなりの人目を集めているが、本人はさして気にした様子も無い。


「今更聞くのもどうかと思いますがあえて聞きます―――御剣さんはどうしてスピルを抱えていらっしゃるのでしょうか」


 アメリアの問いかけに田中以下略も頷く。

 スピルが「では着いて来て頂けますかな」と案内を始めた途端、御剣はスピルを抱きかかえて「案内してくれ」と一言発したきり、今までずっと黙っていたからだ。

 有無を言わさぬ一連の流れに、アメリアと田中以下略はおろか抱き抱えられてしまったスピルですら何も言えなかったのである。


「そうですね。私めも気になります、もしよろしければお答えいただきますでしょうか、『刀姫の御剣』様」


 身動きの取りづらそうなスピルも問いかける。


「……温かそうだったし、可愛かったからな。気がついたら身体が動いていた、許せ。そしてモフらせろ」


 少し恥ずかしそうにスピルの首元に顔をうずめた御剣は、ややくぐもった声でそう答えた。最後の一言は、有無を言わさぬ威圧感があった。


「そ、そうで御座いましたか」


 御剣の放つ雰囲気に怯えたスピルが身をよじらせるが、固く抱きしめられているせいでもぞもぞと動くだけに留まる。

 二次職業のブレイドマスターである御剣の腕力に絡め取られては、所詮図体が大きいだけのフクロウにはどうしようもない。


「御剣さんって……動物が好きなんですか?」

「愛玩動物はな。モンスターは別だが」


 スピルの胸元や羽の付け根をくすぐる御剣が答える。「あっ、あっ、そこはっ、あっ」とスピルが悶えているが、アメリアはその光景を意識の隅に無理やり追いやった。

 御剣が実力行使に出た以上、今更何を言おうが御剣のモフりは止まらないと分かっているからだ。

 ―――しかし、それにしてもスピルを可愛がる御剣は、なんというか可愛かった。


「……なんか可愛いらしいですね」

「スピルがか?」

「いえ、御剣さんがですが……って、あっ」


 思わず口を滑らしてしまい、アメリアは「やべっ」と口を押さえたが遅かった。

 女性相手に可愛いなんて言ったのは一体何時振りだろう。

 女性に喋りかける事自体が相手に不快感を与えてしまっていたアメリアだ。殆ど条件反射的に己の発言を後悔した。


「ご、ごめんなさい! 変な事言いました!」


 アメリアはぺこぺこと頭を下げる。


(でもしょうがなくないか! そりゃあ御剣さんは頭のネジが一本どころか十本くらいは飛んでるフシがあるけど、見た目超美少女なんだぞ? それがあんな風にモフモフしてたら可愛いって思っちゃうだろ言っちゃうだろ!)


 頭の中で言い訳を並べ立てるが、既に言ってしまったものはどうしようもない。

 せめて御剣が怒ったりせずに、「ははは、褒めるな」とでも気楽に流してくれれば助かるのだが。

 そう思っていたアメリアだったが、頭を下げたまま待てども待てども何の返事もない。

 まさか怒りのあまり言葉を失っているのか。だとするとこれ程恐ろしい事はない。


「み、御剣さん……?」


 土下座をすれば命なら助けてくれるだろうかと思いながら、恐る恐る顔を上げる。


「か…………かわ…………いい?」


 そこにはスピルを抱きかかえたまま、顔をほんのりと赤らめて硬直する御剣の姿があった。

 

「…………こほん。……可愛いらしい、か。そんな事を言われたのは、生まれて初めてかもしれんな」


 ふい、と顔を逸らしつつそう言った御剣は「次はどこだ」とスピルに聞き、何事もなかったかのようにつかつかと先へと進んでしまう。


「……え、えええ?」


 アメリアは困惑した。御剣のあの態度は、怒りのあまり興奮が一定のラインを振り切ってしまい、逆に冷静になってしまったか、あるいは単純に可愛らしいといわれた事が嬉しかったかのどちらかであったからだ。

 そして恐らくは、御剣の反応は後者だった。


(御剣さん……もしかして、かなり照れてた?)


 そう思ってしまう。すると何故だろう、率直に言えばアメリアは御剣に対して萌え(・・)てしまっていた。

 ギャップ萌えだ。

 御剣が到底見せるとは思わなかった、動物を愛でる美少女という見た目相応の愛らしさが生むギャップに萌えたのだ。萌え萌えだった。


「た、たなか、何あれ、やばくね? か、かわいくね?」


 震える声でアメリアは田中以下略に同意を求めた。今この身に駆け巡る萌えという感情を共有したかったのだ。


「……そ、そうだな」


 一方で田中以下略といえば、あまり反応は芳しくなかった。

 微妙そうな顔をしてアメリアを見ていたのだ。


「なんだよ、その顔は」


 お前は今ので萌えなかったのかと不満げに睨む。


「いや別に……ほ、ほら行こうぜ、御剣さんに置いていかれるぞ」


 すると田中以下略は誤魔化すようにして先に行ってしまう。

 実際、御剣は「おっ、おほぉ、つぎはみぎ、で、んほぉ」と壊れかけつつあるスピルを抱えてずんずんと先へ進んでいる。


「……? おう」


 田中以下略の変な態度が気になるアメリアであったが、置いていかれるわけにもいかなかったので小走りで後を追った。



 ライブリラ上層の外観はまさしく氷の城であるが、いざ内部に足を踏み入れてみると全てが氷で出来ているわけではないというのがわかる。

 歩く地面は氷ではなく石畳が敷かれており、店や家屋も木造建築のものが散見される。

 ただ普通の街と比べれば、蒼白の色合いが強く、気温は恐ろしく低い。

 道行く人々は全員防寒着に身を包んでいるし、丁度昼頃ということもあってか、煙突から煙を吐き続ける料理屋は盛況して長い列を作っていた。

 ゲーム画面として見慣れた光景ではあるが、現実と化した世界ではまるで違う世界のようだった。

 そんな街の風景を横目にしながらも腹を鳴らしつつ進んでいた一行は、壊れかけたスピルの案内の元、一軒の家屋の前にたどり着いた。

 中々に大きい家であり、豪邸と言っても通用するギリギリのラインといった規模の大きさだ。


「……こんな家がライブリラにあったんだな」


 アメリアは思ったままを口にする。


「ああ、俺も始めて見る」


 田中以下略も頷いて同意した。

 元々シャロミーという人名にすら覚えのなかったアメリアだ、そのシャロミーが住むという家の存在を知らないのも当然といえば当然だが、それでも少し納得の行かない事があった。


(ライブリラの街はゲーム中に殆ど見回った筈だ。街並みも記憶の中のライブリラと一致してる、でも……この家は始めて見る)


 以前ライブリラにゲーム上で訪れた時、アメリアはシャーマン専用クエストを達成する為にライブリラの街を隅々まで駆け回った事があった。

 そのおかげか、ライブリラ上層はマップを見なくても何処に何があるか大体分かる。

 実際にここまで歩いてきた道のりは、ゲーム時代と変わる事のない、何の変哲もないものだった。

 だというのに、いざ到着してみればその建物は未だ見たことの無い建物だったのである。

 ゲームが現実と化した影響で増えた建物なのか、それとも元々あったがアメリアが見逃していただけなのだろうか。


(いや、違う。きっとどちらでも無い、もしかしてこれは……)


 しかし脳内に浮かんだ二つの可能性をアメリアは自ら否定する。更に浮かんだ第三の可能性の方が正しいのではと思えたからだ。

 その根底には御剣の「(スピル)がクエストのスタート地点だ」という発言がある。


「……クエスト専用マップ?」


 おとがいに指を当てて考え込んでいたアメリアはぽつりと言った。


「ご名答」


 恍惚としたまま痙攣するスピルを抱えた御剣が、会心の笑みを浮かべた。

 クエスト専用マップとは、ある特定のクエストを受けた際に侵入可能になる専用エリアの事だ。

 基本的にクエストを受けた本人しか侵入できないその専用エリアには、パーティーを組んだ他の人間も侵入できるという仕様がある。

 もしこの場所がそのクエスト専用マップであるのならば、アメリアにも納得の行く話だった。


「そうか! ライブリラの門でスピルと出会う事で、この家にたどり着けるフラグが立ったってわけだな!」


 田中以下略が指を鳴らした。

 そもそも、クエスト専用マップには対応するクエストを受けていなければ侵入する事も出来ないし、発見することも出来ない。

 「名前の改名」が出来るクエストの存在を始めて知ったアメリアと田中以下略が、シャロミー宅の居場所を知らないのも当然であった。


「理解が早いな、田中ド―――田中よ。より詳細に言えば、クエストを受ける本人が二次職業でレベル五十五以上、かつ冒険者ランクがSS以上のプレイヤーでなければ、このクエストは発生しない。そして私はその条件を満たしている、だからここに来られたというわけだ」

「なるほど……ランクSSなんて殆ど居なかったから、情報が出回ってなかったんですね」

「大抵の連中は必須クエストばかり消化して後は大抵放置していたからな、むしろ私のような酔狂な者でなければ見つけられまいよ。それに、協定もあったからな」

「協定?」


 アメリアは首をかしげた。


「ああ。……ある種の貴重な、多大な利益が得られるであろう情報の類はむやみやたらと公開せず、仲間内でひっそりと共有し秘匿すべしという協定。―――廃人の間ではさして珍しくもない事だ」


 御剣が吐き捨てるように言う。表情に影が差したが、それは本当に一瞬の事だった。


「まあそれはいいとして、さっさとクエストを進めてしまおう」

「そ、そうですね」


 田中以下略がシャロミー宅の扉を叩く。

 少し待つとぱたぱたとした足音の後、扉が開き家主であるシャロミーがその姿を現す。

 歳若いというスピルの説明に違わず、彼女は十代後半らしい外見をしていた。

 腰元まで届く長い緑髪の彼女は、紺色の縦縞セーターに身を包み、黒いジーンズを穿き、丸めがねをかけていた。


「<ウィスパー トゥ アメリア>(アメリア、凄いぞ、リアル縦セタJK眼鏡美女だ。つうかおっぱいでかくねえか、胸のラインやばいぞ)」

「<ウィスパー トゥ 田中ドライバーZ>(見ればわかるしそんなの一々報告せんでいいわ! つうかJKってなんだJKってこの世界に学校とかあるのかよ)」

「(そんなもん知らないさ。でも明らかにJKだろう、見た目の年齢的に)」


 人知れず繰り広げられる下賎な話題もつゆ知らず、シャロミーが微笑む。


「皆さんようこそいらっしゃいました。立ち話もなんですから、詳しい話は家の中でも宜しいでしょうか?」

「ああ、是非そうさせてもらおう」

「ではどうぞ、お入り下さい」


 御剣が代表して答え、一行は彼女に誘われるまま家の中へ。

 簡単な泥落としで靴についた汚れを落とす。

 玄関で靴を脱がなくていい事への新鮮さを覚えつつ中に入り、屋内を観察するとシャロミーの家は本の壁と山と柱に埋め尽くされた、混沌とした家だった。

 壁は本棚、山は乱雑に積まれた本の固まり、柱は横積みされた本が天高く伸びている姿の事だ。

 ともかく、本、本、本だらけの家だった。


「こりゃまた、なんとも……」


 本だらけの光景を前に、アメリアがぽかんとする。一歩間違えばゴミ屋敷に見えなくもない有様だ。


「すみません、色々とごちゃごちゃしたままで。なかなか整理整頓ができないんです、お恥ずかしい」


 シャロミーはそういいつつもあまり恥ずかしくなさそうで、むしろこの有様を誇らしげにしている。


「だからってこんな、なぁ?」


 田中以下略が呆れるが、これは仕方のない事だ。

 ライブリラでは書物を沢山所有するという事は、それ即ち知に通ずるというステイタスとなる―――という設定がある―――からだ。


「いっ、よっ、ほっ……歩くのだけでも一苦労だ」


 そこらへんにおいてある本を下手に突っつけば、ドミノ倒しのように連鎖反応を起こし本の大崩落を起こしそうで危なっかしい。

 だというのにシャロミーは本で出来た魔境をひょいひょいと進んでいく。

 一行は慎重にシャロミーの後に続いて進んだ。最早トロ顔と化したスピルを抱えた御剣はより慎重である。

 飼い主を前にしても放さず、今も尚スピルを抱えたままというのは並々ならぬ執念を感じさせるが、その事について飼い主はおろか誰も突っ込まなかった。

 いや、むしろ御剣が堂々としすぎてて突っ込めなかったというべきか。


「こちらにどうぞ、手狭な所で申し訳ありませんが」


 やっとの事で来客用の客間にたどり着く。シャロミーが客間の扉を開けた瞬間、ふわりとおいしそうな香りが広がった。


「―――それと、まだ昼食を終えていない様子でしたから、よければ私と一緒にお昼を食べませんか?」


 香りの発生源は客間の中央にあった。

 大きな木製テーブルの上に置かれた大なべががそれだ。中にはまだくつくつと音を立てる熱そうな具沢山のシチューが入っている。

 それを目にしたアメリアは、口内にどっと唾が溢れるのを自覚した。


「じゅる。……ううむ、これは最早運命か何かか?」

「ごくり。……違いない。まあ何にせよ、俺はもう我慢できないぞ」


 くきゅるる。と腹を鳴らしたアメリアと田中以下略がぎらりと目を光らせる。

 そして「シャロミーさんゴチになります!」「いただきます!」と叫ぶと同時に大なべの前に着席し、置かれていた食器をひったくると我先にとシチューをよそって食べ始めた。


「うまあああああい! あのへたくそ料理の肉とは大違いだ!」

「暖かいシチューが五臓六腑に染み渡る……」


 まるで獣のように貪るその変貌振りに一体どうしたのかとシャロミーが驚くと、御剣がやれやれと溜息をつく。


「はぁ……すまんなシャロミー嬢、こいつらは食欲旺盛でな。―――それこそ()並みに。少々下品かもしれんがどうか許して欲しい」

「そ、そうですか……あはは」


 ぐぁつぐぁつとシチューに食らいつく二人を前に、シャロミーは苦笑いだ。


「ふふ……私も空腹でな、ご好意に与らせていただく」

「ええ、口に合うといいのですが」

「この匂いだ、不味い筈も無いだろうさ、シャロミー嬢よ。……ああ、それと勝手に貴女の執事を独り占めして悪かった。許してくれ」


 御剣が今まで抱きかかえていたスピルを、壊れ物を扱うように優しく床に置いた。


「しゃ、しゃろみーさま。もうしわけありません。わたくしとしたことがしゃろみーさまいがいにはだをゆるしてしまうなど、いやしいふくろうとおしかりください」


 芯が抜けているのか口調がふやけている。そんなスピルに、シャロミーはしゃがんで目線を合わせると、ずり落ちそうなシルクハットを取って頭を優しく撫でた。


「いいのよスピル。あなたは私のペットであるけども、それと同時に誇り高い執事でもあるの。執事がゲストの頼みに答えて差し上げるのは当然の事でしょう? あなたはそれを全うしたの、素晴らしい事よ。だから私はあなたを責めたりはしない、むしろ褒めてあげたいくらい!」


 ひとしきり撫で終わった後、シャロミーはスピルにシルクハットをしっかりとかぶせてやる。


「しゃろみーさま……あ、ありがたきしあわせ……」


 主からお褒めの言葉を頂いたスピルは感激のあまり涙を零し、ふやけた口調ではあったがしっかりと礼をした。


「さあ、ゆっくりお休みなさい」

「は、はひ」


 そしてふらつきながらもぺたぺたと歩き、開いた扉から部屋の外へと出て行った。


「ふふふ、あの子があんなになるのは私以外では始めてです。どんな魔法を使ったんですか?」

「さて、何を使ったのだろうな。―――ところで、私も食事を始めていいだろうか。このままだとあいつらに全てを食い尽くされてしまいかねん」

「いくらなんでも、まかさそんな―――って、わあ」


 御剣の言葉にシャロミーがシチュー鍋を見ると、恐ろしい事にその中身はもう半分も減っていた。


「うめ、うめ」


 アメリアが目尻に涙すら浮かべながらシチューを食べまくる。

 それを横目で見た田中以下略がニヤりと笑みを浮かべて、皿にシチューをよそって差し出した。


「遠慮するな、今までの分しっかり食え……」

「ぶふっ」


 すると何故かアメリアがむせる。


「おかわりもいいぞ!」

「ごほっごほっ……バカ、お前それは一番言っちゃあ駄目な奴だろう、勘弁しろよ死亡フラグが立つわ!」

「うははははは。今のを聞いたらつい言いたくなっちまった」

「ったく……」

「つうかこのネタが通じるお前も大概だと思うぞ」

「うっさいわ!」


 馬鹿笑いする田中以下略をアメリアが肘で小突く。

 まるで気のいい男同士が二人で軽口をたたきながら、メシをかっ喰らっているかのような光景である。

 見た目が美少女でなければ、事実その通りであった。


「自己紹介も済んでいないというのに……すまん。想像以上に下品だった。もう一度言う、すまん。後で私からきつく言っておく」

「……い、いえ。気にしていませんから、大丈夫ですよ」


 御剣が珍しく眉間を押さえ、シャロミーが頬を引きつらせた。

 シチューを食べる事に夢中な二人は、それに気づかない。


「おいひい!」


 アメリアの能天気なその声は、実に幸せそうなものだった。

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