すべての始まり
「じゃあ、教えてもらえますか?」
「いいですが、まずあなたは………ここのクラスの存在意義を200字以内で答えられますか?」
「無理です」
はい、即答。
「でしょうねえ。まぁー単刀直入に言えば、私たちは実験台ーモルモットな訳です。まず、地球温暖化に対抗して作られた物質ークラニウムの出現」
「知ってます。酸素にかわる物質とかなんとか」
「あと、一時の問題にすぎなかった、少子高齢化問題」
「そんなことも、ありましたね」
「食糧危機」
「あー」
「じゃあ、エネルギー問題」
「懐かしいなあ。でも、石油に代わる物質が出てきたとかなんとかで、おさまりましたよね」
彼女はそう言った後も、淡々と話を続けた。
「つまり、政府は子供たちに勉学やスポーツ面などで競争し、互いをを高め、磨いてほしいーと考えてるんじゃないでしょうかー?あ、少し後に体育祭があるのはもちろん知ってますよね」
「もちろん知っています」
「あれ、政府の人間が親たちに紛れて、偵察しに来るらしいですよ。ちゃんと、計画が順調に進んでいるか」
体育祭。井草小学校3大イベントの1つー
らしい。
「あと、ここで生き残るためには、同盟なんかも必要ですからね。それを破棄することも、時と場合によっては必要だけど!………はい、分かりましたか?」
麻倉さんはそう言い終わると、横目で腕時計を見た。シルバーのイミテーションの宝石付き。きっと、どこかのブランドのものだろう。
「………といっても、もう終っちゃいますね、休み時間」
「それじゃあ、どうすれば?」
私が半ばイライラしながら聞くと、
「なら、放課後にしましょう。そうですねえー4時20分に、たいやき屋の『やましろ』に集合ですよ。あ、たいやき屋の場所、分かります?」
「まぁ………」
私は、人差し指で机を叩きながら曖昧に答えた。
校門を出て、横断歩道を渡ると、田舎にあるような一軒家が見えてくる。
かなり、古い建物だ。
『やましろP』
駐車場らしき、空き地にそう書かれた看板が出ていた。
いそいそと中に入ると、木のテーブルとイスのセットがいくつか、目に飛び込んでくる。これもまた古いけど、上品な色合いで長時間眺めていたくなるほどだ。
「注文は」
テーブルを拭いていた、若い女性が口を開いた。
「はー、迷うことないでしょう。カスタードか、粒あん。さあ、どっち」
奥の方に目をうつすと、肩まで伸びた黒い髪の少女ー麻倉さん座っていた。
「遅くなったから、怒られそうだな………」
そうぼやきながら麻倉さんの表情を恐る恐る見た。
その表情は、私が想像していたものとはどれも違ってー限りなく和やかで、でもどこかぼうっとしていて。まるで、花嫁を見つめる母親のようだった。
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あれは、4月。始業式の日。
あれは、4月。全ての始まりの日。