三次元でこんな部活は認められない
「どうして……!どうして、俺の部活申請を承認してくれないんですか!?」
「どうしてって、お前ちゃんと部活動に関連する校則を読んだのか?」
俺、梶木時雨は彼の発言にそう言わずにはいられなかった。
俺の前には、少年と少女が一人づつ立っている。
少年は、金髪碧眼の美少女を後ろに下げて、なにかから庇うように腕を上げ、俺を睨んでいる。
少女は、瞳を涙で潤ませて俺を見ている。
俺はそんな彼らの様子を見て、嘆息したような、ため息を着くよりほかなかった。
端から見れば、俺が悪役に見えるかもしれない。実際、彼らも内心では自分達が勇者で俺が魔王だと考えていてもおかしくない。
俺の所属している組織は人気もあるし、トップの人望も凄いため、多くの人に慕われているが、俺の就いている役職は嫌われ役でしかない。
生徒会執行部部活動監査職。
やたら長い代わりに、一目で、一聞きでどんな役職か分かるそれは、毎年、嫌われ役であった。
この桐宮高校では、設立してしばらく経った時代に、学校を混乱が支配していた時がある。
現在の校則は改変されているが、当初の校則には随分と緩い条件での部活設立が可能だったため、それはもう殆ど名前だけの部活が存在していたりしたらしく、部費に結構の額を取られたりしていたらしい。
自主性を重んじるにも程があるわな。教師はそれを見てもスルーしていたらしいし。事実は知らない。
そんな事態を重くみた当時の生徒会が、作り上げたのが、先程言った、俺のついている役職であり、新たな部活動に対する校則である。主な仕事は当然、部活動の活動確認や、部費の検討等である。
「だいたい、なんだよ、この第四文芸部って」
「……それは、第三文芸部まで存在しているから!」
「あー、言いたいことは分かるけど。それは無理な。だって、ちゃんと第三までは活動しているから」
渡してきた部活動の申請のプリントにさっと目を通そうとするが、まず一番最初に目を向ける部活動の名前から突っ込みどころがあるのだが。
桐宮高校には俺の役職があっても尚、多種多様な部活が存在している。その中でも、第三まである文芸部というのは確かに珍しく、なら第四も認めてくれよと言う話なのだが、第三まであるのにもちゃんとした理由があって、第一と第二は人が多くて部室が手狭なので分離、第三は創作性の違いなどから作られたので、はなか違う部活である。そのため、第一と第二は、年によって一つになったりするので、第一と第三しか存在しない時もある。
「それで、このプリントには顧問がかかれてないんだけど。誰がやってくれるの?」
「え?あ、いや…その」
そこで彼はしどろもどろになって、答えに窮する。あまり穴ばかりつくと、それを発見できてしまう自分のことをなんて性格の悪い奴なんだろうと思う時がある。まあ、それでもこの役職に就くことを選んだのは俺なので、文句は言えないのだが。
「はあ、じゃあそれはいいや。部活動内容にも問題があるんだけど、これ第三文芸部と殆ど一緒だよ?そっち入った方がいいんじゃない?」
俺はプリントを見ることが面倒くさくなって、投げやり気味に聞く。もう本音を言うと、この少年が出してきたプリントを見る限り、ハーレム専用の部活にしか見えない。ほら、名前ばかりが存在していて、その実中身は全く伴っていない部活みたいな感じ。ちゃんと活動してくれるのなら、何やろうが俺の知ったこっちゃないんだが、それだけをするために部費を割く余裕はない。
「とにかく、認めてくれよ!」
「却下。感情論ばっかりで、全く何がしたいのか見えてこない。こんなものに部室を分け与える余裕はない。だいたい書きたいだけなら部活を作る必要性すらない。さらに言えば――」
「もう、止めてください!」
俺が、そろそろ話は終わりだとばかりに捲し立て始めると、少年に庇われていた少女が少年の前にたって、きっと俺を睨み付ける。顔は可愛いので、怖くもないし、全然威圧も感じない。そして、恐らく切り札であろうその可愛さですら俺に効き目はない。
「どうして分かってくれないんですか!?私達の他に正論部とか意味わからないやつだってあるじゃないですか!!どうして私達だけ認めて貰えないんですか!?」
「……言いたいことはそれだけか?」
全てを少女がヒステリック気味に叫ぶのを見て、喋り終わるで黙っていた俺だったが、彼女の言う理論は全くもって意味不明で、支離滅裂であった。そして、この学校に『面白い気に入った。その部活を認めてやろう』は存在しない。それが許されるのは二次元だけだ。それでも、俺は完全に叩き折るために、笑顔を浮かべて聞いてやる。
話に出てきた正論部はディベートしてるだけだけどな。ちゃんと活動しているし、ディベート大会にも参加している。どうして正論部なのかは知らないが。
少女は一息で言ったせいか息切れしており、顔が赤くなっている。横でその様子を見た少年が顔を赤らめるのを俺は見逃さなかった。少女は、俺の笑顔を見て、勘違いしたのかもしれない。
「ええ。認めて貰えるんですか?」
「ああ。やっぱり拒否だ」
「なっ……!」
俺は吐き捨てるように言う。
表情とあっていない台詞を言うと、少女は固まる。
絶句と言う表現がもっとも近いのだろうか、唇は小刻みに揺れ、息が漏れるものの、意味のある音としては出てこない。それは少年も同じだった。やっぱり、こういうのって性格悪いかな……。でも、やるときは徹底的にやらなきゃ付け上がるだけだってなんかの本で読んだし……。
「じゃあ、俺は他にも生徒会の仕事があるから」
俺は踵を返して、廊下を歩いていく。
正常な思考を取り戻した彼らが、何かを喚いていたが、俺は気にすることなく歩く。歩いて数分もかからず、生徒会室へと到達する。
「入るぞー」
扉を開けると、部屋にいたのは一人だけだった。
扉から距離を置いて、真正面の席に座っている女こそが、生徒会長、森本木林である。彼女が一人のところを見ると、他の役員は出払っているようだ。
「お、はろー、あめあめ」
名前の由来は時雨の雨を音読みして、二回連呼してあめあめらしい。美少女だからギリ許されるレベルのネーミングセンスである。
「その呼び方は、馬鹿と甘さを足して二で割った感じがするから止めてくれないか、と何度言えば分かる?」
「いやいや、この可愛さがなんであめあめには分からない。ま、お仕事お疲れ様」
「……下校時間まで寝る」
久しぶりに、話を聞かない奴等だったので時間がかかった。二年生から上はそうでもないのだが、一年生はあんなのばっかりである。説得の通じない、自分の中の理論を曲げない奴が多く、こちらの話を聞かない奴も多いので大変なのである。疲れたので机に突っ伏して寝ろうとする。が、彼女はごそごそと音を立てた後に、話しかけてくる。
「そんなに大変だったの?」
「それはそれは。こっちの話は全然聞かないし、意見の押し付けばっかりだったし」
「うわー。それは大変だったねえ。あ、飴食べる?」
「いや、いらん」
俺のあだ名があめあめに決定してから、木林は毎日飴を持ってくるようになった。木林がやると、からかっているように見えないのが凄い。普段の行いが善意の塊によるものだからだろう。
「すいません、失礼します!」
そう言って扉を開けて入ってきたのは、先程の少年と少女。それから、第四文芸部|(仮)の人達だろうか。女子四人に男子一人。やはり俺の予想は当たっていたようだ。
「森本会長!俺達の話を聞いていただけませんか?」
「ん?え、えーと、君達は一体誰かな?」
「お、俺達は第四文芸部の部員です!」
「……そんな部活動は存在していないはずだけど?」
そこで、生徒会長は俺の方をちらっと見る。
俺は首をふって、認めていない意を伝える。しくったな。俺の考えが甘かったようだ。もっと強く反論する余地すらなく潰すべきだったか。
「それは、そこの人に揉み消されたからだ!!本当ならば、承認されているはずなのに!」
少年は激昂したかのように、感情を高めて言う。
そういうところが駄目だって言ったのに。
「へぇ、私の人選に文句をつけるんだ?」
「……ッ!? い、いえ。そう言うわけでは」
冷ややかな目で、少年達を見つめる生徒会長。
しかし、会長に仕事を回してしまうなんて、俺も全然ダメダメである。先代の監査役の人は一切の反論を許さなかったのに。俺が甘いのだろうか。
「悪いですが、君達の部活は認められません。お引き取りください」
「……仕方ない。また今度、来ます」
生徒会長から絶対零度を思わせる視線に見据えられ、第四文芸部|(仮)の部員達は引き下がらざるを得なくなり、部屋から退出していった。
「確かに、あれは大変だねー。お疲れ様」
「悪いな、迷惑かけて」
「気にしないで、あめあめ。生徒会役員の責任は私がとるしね。あれは人の話を聞かないタイプだったし」
木林は笑顔を浮かべて俺を見る。そこには先程まであった冷たさは一切感じられない。俺はこの顔に見惚れて生徒会役員になったのだ。にやけそうになる顔の筋肉を必死に抑え、ポーカフェイスを保つ。多少引くついているがそれは気にしたら敗けだ。
「だから気にしちゃ駄目だよ?あめあめがいないと書類だって嵩張っちゃうんだし」
「ああ。そうやって、言ってくれるだけでも俺は頑張れるよ」
「それに、時雨がいないと私は寂しいしね」
その一言で、ポーカフェイスが崩れ去って、顔の温度が上昇するのを感じ、そっぽを向く。赤面した顔を見られるのが恥ずかしいと言うのもあるが、木林を直視できないのが主な理由だ。
「なんちゃって。他にも書類はあるから頑張ってね、あめあめ」
悪戯っぽい笑みを浮かべ舌を出したのち、俺に書類を渡す生徒会長を、やっと見ることができた。あの雰囲気のままだと他の役員が戻ってくるまで、顔を生徒会長の方に向けることは出来なかっただろう。
渡された紙に目を通し、俺はため息をつく。
「三次元でこんな部活は認められないってーの」
俺の呟いた声は、木林にだけ聞こえ、彼女はただ笑みを浮かべるだけだった。
ネタが思いついたからつい投稿。
なんか取って付けたようなラストですけど問題ありませんよね!