あの時私を見切ったの
松山が神妙な顔付きで語り始めた
「僕が初めて自分のバレーでの教え子を持ったのは二十歳の時だった」
当時の松山は、熱血で今とは比べ物にならないくらい気象が荒かった
そんな松山は、あるバレーの強豪校からコーチとして働いて欲しいとの要望があった
松山は二つ返事で了承した
どの選手も才能があった、どの選手もバレーに真剣だった、どの選手も松山には同じに見えた
松山は、数ヶ月でその強豪校のコーチを辞めた
その後、なんども他の強豪校のコーチに就任したが、どの選手たちも松山には同じに見えた
底が知れてる、上手いがそれまでの実力
松山は、勝手に失望し勝手にバレー界から身を引いた
二度とバレーをするものに期待なぞするものかと誓って
「でも、杏樹、君がいた」
この歳にしてありえないくらいのバレーセンス、少しの間しか見てないが、明らかに今までの選手とはオーラが違った
松山は、杏樹に自分の夢を叶えて欲しかった
「一番になって欲しい」
至って真面目な松山の顔
「一番……?」
一番、1番、number one?
「日本で……いや、世界で一番のバレー選手に」
君は成る
なんだ、なんなんだ、この松山の表情は
キラキラと子供のような無邪気な笑顔
前の時はこんな顔しなかった
前の時……?
……あぁ、彼は見切りを付けたのか
前の私に……バレーを投げ出した私に
だから、あの時私を見切ったのか
あの時?あの時って?
あぁ、覚えてない
でもいいか、前の私は関係ない
いやになったら放りだそう
「いいよ、乗ってあげる」
私が、一番になるよ