第46話
「螢に奈緒。帰るわよ」
ドアが開くと同時にそう呼ぶ声がした
「すいませーん。螢と2人でちょっと話をさせてください。薫」
名前を呼ぶと薫はニコリと微笑み奈緒を連れて部屋から出て行った
「さて…と。螢、あそこにある鞄持ってきて」
「うん」
立ち上がり指示したとおりに動いてくれた
《ガサガサ》
鞄の中からある物を探す
「あったあった」
それは俺の大事なもの
だけど2度と使うことのないものだ
「螢これやるよ」
それを差し出す
螢はそっと手に取る
「リストバンド?」
「そうだ」
そう…
螢に渡したのは赤のリストバンドだ
「実はお兄ちゃんもバスケの選手だったんだ。そしてこれはお兄ちゃんにバスケを教えてくれた人からもらった大切なものなんだ」
「大切なもの?」
螢の言いたいことはわかる
貰っていいのか疑問に思っているんだろう
「うん大切なもの。だけど螢にあげたいんだ」
「なんで?」
「螢がバスケを好きだから」
「え?」
そんな理由?とでも言いたそうだった
でもこれがホントの理由だから仕方がない
「だからそれを着けて上手くなれよ」
笑った
心から笑った
俺は事故でバスケはできなくなった
でもだからって螢を恨んでなどいない
俺の足が使えなくなってまだ未来あるこの子が助かって良かったのだと今は心からそう思う
「わかったよ。これ貰うね」
螢は腕につけこちらに見せてきた
ニッと子供独特の笑いかたをしながら
「ほら、お母さんが待ってるから行きな」
「うん!またねお兄ちゃん!!」
『サヨナラ』ではなく『またね』と言って螢は出て行った
「あれ上げたのか?」
声をかけてきたのは親父だった
無音でここまで来るとは…なかなかやるな
「まぁね。螢もバスケ好きだって言ってたから」
「そうか……話が変わるが答えは出たか?」
やっぱりその話か……
「そのために今から薫に聞きたいことがあるんだ」
「なにをだ?」
「親父に言ったところで何にもならん」
事実だ
だから言うのさ
ストレートに
「教えてよう〜〜」
精神年齢小学生並だな
「い・や・だ!」
「そんなこと言わずに〜」
クドい
あぁ〜苛々してきた
《ドカ!》
「ほげら!」
奇声を発し親父は死んだ
いや気絶した
もちろん親父をやったのは……
「薫ちゃんと話がしたいんでしょ?父さん連れてくわね」
笑顔の母さんだった
だがナイスな行動だよ
引きずられる親父に向かって手を合わせる
永遠に眠りたまえ……
「南無南無……」
「拓也?何してるの?」
いつの間にか目の前には薫がいた
ひいてる感じの表情で…
「あぁ〜…なんて言うか…そのお……念仏?」
薫の表情を記号に置き換えると『?』が適切だ
「あのさぁ…聞きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「うーん…昔さぁ…俺と結婚の約束したか?」
薫の目が大きく開かれる
何か言いたいのかわからないが口がパクパクと動いている
「……したんだろ?」
さらに追い打ちをかける
「うん……」
認めたか…
「いつ?」
「覚えてないの?」
「約束したのは辛うじて覚えてるんだけど……」
いつしたかは全く覚えていない
場所も定かではない
「…思い出したい?」
「ああ」
「仕方ないなぁ…話して上げるよ」
こうして昔話が始まった




