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L`Accident



魔女が住むという森へ越してから一ヶ月がたった。エメは家事の殆どが出来るようになり、狩人の手を借りなくてもよくなった。

 森林の中は広く、エメはよく野草や食べられる食料を探しに行った。種類は少ないがエメ自身で調べ、独自に学習して実践していったものだった。最初こそは狩人にダメだしを出される事はあったものの、最近では自分で判断して料理に使えるまでになっていた。散歩がてらあるく森は誰もおらず、エメは存分にその生活を楽しんでいた。

 小川は広く深く浅く、魚は流石に採れないが縁で休む事が多くあった。時折エメの散歩には狩人の狼がついてくることがあった。人語を理解しているのではないかというほど賢く、代わりに魚を採ってきたり、野草も持ってきたりする。

 森は大変広いために家の周囲だけしか散策できない。なにしろ目印が小川ぐらいで他にないし、なにより狩人から遠くまで行かないようにいわれていたからだ。でもエメにとってこの綺麗な森が大変気に入っていた。狩りや用事でいない時には特に外に出るようにしていた。

 ある日、狼を連れて森の奥まで言ったエメは奇妙なものを見つけた。そこは広場になっていて花や芝生が生えていたが枯れた木が数本、疎らに立っていた。その枯れ木は異様に黒く、枝はまるで触手のように四方に散っており、なにより、木の中心にある模様が人の顔のように見えて少し怖くなった。傍の狼に吠えられるまで呆然としていたエメは、それを見なかったことにすると、早々に家に帰って全ての窓を閉めて扉に錠を掛けると、狩人の帰りまで夕食の支度をして気を紛らわした。よく考えなくともエメは一人でいるのに慣れていない。こんな森の中で一人でいるということにようやく気づいた。

 夕食の支度を終えると身体を洗い、寝室からの窓から狩人の帰りを待った。

 夕方頃に帰ってきた狩人を迎え入れ、夕食の席につくと同時に今日のことを話す。ふと思ったことエメは聞いた。

「そろそろ実家に帰ってみたいのだけれど、出来るかしら?」

 それを聞いた狩人は端正な顔を微妙に変化させ、肉をを刺したフォークを置いた。

「すまないが、この森からあと先、一ヶ月は出ることが出来ない。ご両親に会いたいのはわかるが、少し待ってくれないか」

 意外な返答にエメは酷く混乱した。

「でも、あなたは森の外にでているでしょう?」

「ああ。だが君は別なんだ。意地悪をしているわけじゃないが」

「……また言えないの」

 狩人は食事を再開して、言う。

「ああ。すまない」

 エメは自身は色々と自分でできるようになり、狩人の役に立っていると思っていたがやはり信用されていないんじゃないのかと思い始めていた。

「前から思っていたけれど、その秘密というのはなぜ秘密なの?」

「それも言う事ができない。だけど近いうちに教える」

 教える、というのだからきっと教えてくれるのだろうけれど、いい加減自分が一緒に生活しているにもかかわらず、狩人のから保護されているだけという状況に腹がたった。腹がたったがそれが理不尽だということはわかっていたからただ言う事にした。

「今日散歩の途中で奇妙な木のオブジェクトを見たわ」

 それを聞いて狩人は驚いたように食事の手を止めた。エメは後悔と腹がすく思いと嫌な後味と感じながら言う。

「あなたの狼に急かされて、怖かったし急いで帰ったけれど、あんなのはじめて見たわ」

「エメ、何もなかったのか?」

「そういうことは何かあるのよね?」

 狩人は黙ってしまう。その態度に苛立ちを覚え、エメは食事を早々に片付けると、挨拶も簡単に先に眠ってしまった。

 翌日、早朝に起きたエメは既にどこかへ行く準備をした狩人とあった。昨晩の出来事は全くなかったかのように狩人は普通に振舞っていた。

「今日はかなり遠くへ行く。何度も行っているが、今日は外に出るなら家の周りだけに。そして周りの物は動かさないように。夜になったら全ての戸締りをしてリビングに蝋燭を一つともして、僕が帰ってこなかったら先に寝ていてくれ。分かったかい?」

 狩人は今日も多くの狼を待たせながらエメに言う。今日の朝は異様に霧が深く、森自体が全く見えなかった。

「分かったわ」

 エメは簡素に言ったが、狩人は何も気にしなかったかのように多くの狼を連れて霧の中へ消えていった。

 別に互いに喧嘩をしたというわけではない。エメもその気はなかった。ただ今でも昔のように何も知らない娘のように扱われるのが嫌だっただけだった。

 だから朝食を摂っているうちにどんどん気持ちは上向きになり、狩人が帰ってきたら驚くぐらい家を綺麗にして喜ばせようという気になった。朝日が出る頃には霧は浅くなっていて、まずは庭の掃除をし始めた。掃除といっても枯葉を家周辺から取るのと、炭をすてるぐらいだったが、狩人に動かすな、と言われていた花壇が目に付いた。

 狩人はきっと自分がまだ扱えないから言ったのだろう、そうエメは思って花壇の整理を始めた。無秩序に散らばっている手に収まる奇妙な石は積んであっただろう、花壇から散らばって見えた。それらを元に戻し、配置を換えると、雑草を抜き、森から採って来た花を植えると随分と家が華やいで見え、エメは上機嫌になった。きっとこれで彼も喜んでくれるに違いないと。

 家の傍に数本立っている木のオブジェクトは大きくどうすることも出来なかった、だが、不気味さはかわらなかったのでオブジェクトの向く位置を全て小川になんとか向けさせ、布をかけた。

 自分のした仕事に満足がいったところで昼になっていた。

 昼食を摂ったエメは、家中を徹底的に掃除をして整理をした。しかし元から荷物が少なかったために直に終わってしまった。

 狩人は帰ってきてさぞかし驚いて褒めてくれるに違いないと思ってエメは裁縫を始めた。

 この日に限って陽が落ちるのが早く、エメは何時も通り、戸締りをした。しかし二階のベランダに干してあった洗濯物を取り込むのを忘れていた事に気づくと急いで取り込んだ。

 夜になるとやることもなくなって、静まり返った家の中で紅茶を飲みながら本を読みながら狩人の帰宅を待った。

 しかし幾ら待っても狩人は返ってこなかった。それでもエメは深夜まで起きていたが、そしてその時異変が起きた。

 最初は風が吹いてきたのかと思うほどの森のざわめきと家の軋み。最初は気にしなかったが、徐々に強くなっていくそれにさすがにエメは変に思った。そして急に怖くなった。

 散々家のことについていった狩人の言葉。

 散々自分には秘密にした事。

 それが今になって怖くなった。エメの知らない所何かが起こっているのではないかと怖くなった。

 異変は収まる気配がなく、いよいよ家が「揺れ始めた」。電灯用の蝋燭が激しく揺れ、家全体が軋み、皿が落ち、エメは恐怖で固まったまま動けなかった。

 でもエメは急いで一階の戸締りを確認したあと、壁に掛けてあった獣笛を首にかけ、壁にあった銃を取ろうとしたが自分が使えるはずも無いと思い、急いで二階に駆け上がり寝室のベッドにもぐりこんだ。

 家は「何か巨大なものに弄られているかのように」あちらこちらで軋み、木が折れる音がする。

 しかしそれは徐々に収まっていった。エメは少し安堵するが、なおも少し揺れている家全体の中で思う。

 ――二階の戸締りは?

 夕方に洗濯物を取り込んだ時に「ベランダの扉を開けたままだったことに気づいた」。

 エメは急いで隣の部屋へ行くと、それを見た。





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