第六話 冷めたコーヒーと熱いたこ焼き
―(有賀陽平)―
体育祭が終わって、およそ一ヶ月の間、梅雨のためにジトジトとした日々が続いた。
しかし、それも七月になるまでだった。
どうやら、例年よりも早めの梅雨明けだったらしい。
七月になった途端、夏らしく日差しが暑く照りつけるようになった。
太陽に照らされた夏服の白さが眩しく、半袖から見える女子の細腕に男子はワクワクする。
七月九日、土曜日の今日は、いつもどおり午前で授業は終了。
生徒たちは昼飯を食べ、部活をしたり、帰宅したりする。
「陽平、今日祭りがあるんだけど、綾人や牧原を誘って一緒に行かないか?」
「悪いな、新太郎。今日は止めとくよ」
「また彼女のとこか。ま、来週もあるからいいけどさ。じゃあな」
しかし、俺はそのどちらでもない。
今日もまた、第二化学実験室に行くからだ。
「おっす!」
実験室のドアを開くと、いつものように黒永さんがいた。
もちろん、他の女子と同じく彼女も夏服だったが……あれ、とそこまで思って疑問を抱く。
「来たわね」
いつものように俺を歓迎してくれる黒永さんだが、違和感の正体にはすぐ気づく。
いつもなら彼女はすでに白衣を着ているはずだが、今日は着ていない。
しかも、テーブルの上には実験器具が置かれていなかった。
「黒永さん、今から準備するの?」
「いいえ、今日は実験はしないわ」
なるほど、実験しないのならば準備する必要もない。
じゃあ、どうして彼女はここにいるのだろうか。
俺の疑問を察したのか、彼女はなぜか苦々しく続けた。
「この後、時間はあるでしょう? お願いがあるの」
「お願い?」
「そう」
俺からお願いしたことは何度かあるが、彼女からされたことなど今までなかった。
だからだろうか、どんな無茶なお願いでも叶えてあげようと思ってしまった。
「どんな?」
「それはね――」
それから数十分後。
東西京駅から少し歩いたビルの一階にある店の前に俺たちはいた。
“Alliance”という俺の感覚的には少しおしゃれな名の喫茶店。
「間違いない、ここだ」
「みたいね」
二人で中に入ると、カランコロンと鐘の音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
カウンターにいた店員が「空いている席にどうぞ」と促す。
俺たちは適当にテーブル席に座る。
黒永さんは俺の向かいではなく、なぜか隣に座った。
店内には落ち着いたピアノ曲が流れており、客がリラックスできるようになっていた。
「ごめんなさい、有賀。両親に会うのにあなたに付き合ってもらって」
「いや、構わないけど」
彼女のお願い――それは、両親に会うのに一緒にいて欲しい、というものだった。
なぜ、とは聞けなかった。
彼女もそれを口にしなかった辺り、どうも単純ではない事情があるみたいだ。
今も彼女は隣でなぜか無表情だった。
どうやら、恋人が自分の相手を親に紹介する、などという甘い展開にはならなさそうだ。
「それより、注文しておこう。黒永さん、どれにする?」
「そうね……ただのコーヒー一つでも、結構種類があるのね」
「モカ、キリマンジャロ……コーヒー豆の種類の違いか」
「世界中でコーヒーが親しまれている理由が分かるわね。これだけ種類があるなら、毎日飲んでも飽きにくいわ」
そんな会話をしながら、各々飲み物を注文する。
店員が席を離れたとき、再び鐘の音が鳴った。
入り口の方を見ると、二人の男女が入ってきたところだった。
「いたいた、月夜」
「お父さん、お母さん」
男の人が黒永さんの名前を呼び、彼女はそれに答える。
どうやら、この二人が両親のようだ。
「ん、その子は?」
「紹介するわ、同じ学年の有賀陽平。有賀、この二人が私の両親よ」
「は、初めまして、有賀陽平です。いつも黒永さんにはお世話になってます」
両親に会うと聴かされていたのに、緊張から馬鹿丁寧な挨拶をしてしまった。
そんな俺の様子を見て、二人はクスリと笑った。
「失礼。これはご丁寧にどうも。僕は月夜の父の黒永博人です」
「私は母の朋美です」
二人は俺たちの向かいの席に座り、適当にコーヒーを注文した。
博人さんはスーツにネクタイと、いかにも仕事できますという風な格好をしていた。
見た目の年は大体四、五十ぐらいだろう。
朋美さんの方も外でバリバリ働いている雰囲気があった。
少しだけ香水ではなく、消毒液の臭いがするがどうしてなのだろうか。
「僕は西京大学の教授をしていてね、朋美は外科医なんだけど午後は休みをとったんだよ」
彼が自分たちの職業を話したのを聞いて、納得した。
「しかし、月夜が男の子を連れてくるなんて意外だわ。どうしたのよ」
「別に、ここまで案内してもらっただけ」
「ははは、またまた。月夜は恥ずかしがるからな」
親子三人の会話が俺のそばで行われ始めた。
運ばれてきたコーヒーに口をつけながら、彼らの会話を耳にしていた。
最近のこと、家での出来事など、親子なら聞くまでもないであろうことを話していた。
いや、そもそも、なぜここでそんな話をするのだろうか。
まるで、赤の他人同士が集まったようなありえなさがそこにあった。
「おや、陽平くん、どうかしたのかい?」
「え、いや、あの……」
「なんでここでそんな会話をしているのか、と聞きたそうな顔をしているよ」
「え、あ、あの」
「まあ、理由は簡単だよ。僕たちは忙しくて家になかなか帰れないんだ」
「だから、こうやって暇を作っては月夜と三人で交流することにしているのよ」
そのとき、携帯が震えるような音がした。
朋美さんがふところをあさり、携帯を取り出した。
「ちょっと失礼。もしもし、黒永ですが……」
そう言いながら、彼女は席を立ち、店の外へ出て行った。
「ところでお父さん、仕事は何時から?」
「あと三十分後ぐらいに研究室に戻っていないといけないかな」
「そう」
それから、黒永さんは朋美さんが帰ってくるまで黙っていた。
戻ってきた彼女は椅子に置きっ放しにしていたバックを持つ。
「ごめんね、緊急オペが入っちゃったみたいで、人手が足りないみたいなの」
「そうか、じゃあ時間もちょうどいいし、僕も帰るか」
「あ、月夜も陽平くんもゆっくりしてていいから」
慌しく黒永さんの両親は席を立ち、レシートを持って会計をしてから出て行った。
俺はその光景をただ見ているだけだった。
本当に彼らは黒永さんの両親なのだろうかと、疑いたくなってしまう。
表面上は心配しているのは分かるが、俺の両親と比較して黒永さんの両親はどこか無関心な部分があった。
いや、でも多忙だから娘のことを想う余裕がないだけなのだろうか。
分かろうと思っても、分かるはずがない。
二十年も生きていない人間が、子供を持つ親の気持ちなど真に理解できるはずもない。
ましてや、隣に座る黒永さんは普通の子供とは違う。
だから、俺の両親とは子供に対する接し方が違っても不思議じゃないのだろう。
そう思わないと、黒永さんが可哀想でならなかった。
「……“あれ”が私の両親よ」
黒永さんがそう言ったので、俺は驚いてしまった。
両親を“あれ”呼ばわりした冷たさの中に、何かを期待し失望した響きがあった。
俺は何を言っていいか分からず、彼女は続ける。
「平気で家を何日も空けているのに、思い出したようにこうやって親らしいことをしているのよ。変でしょう?」
「あ、ああ、まあ……あまり一般的な家庭じゃないね」
「正直、私からすれば他人よ」
そう言ったときの彼女はコーヒーカップに目を落としていた。
両親が座ってから、一度も口をつけていない冷めてしまったコーヒー。
一体、そこに何を見出しているのだろうか。
俺はそのとき、彼女が寂しそうな雰囲気を持つ理由の一つが分かった気がした。
やっぱり、黒永さんは独りなんだ。
学校だけじゃなく、家の中でも。
それからすぐ、店を出てしまった。
あの気まずさに耐えられなかったからだ。
時間は三時過ぎぐらいだ。
まだまだ太陽は空高くあり、ちょっと暑かった。
東西京駅前のロータリーを通り過ぎるときに、彼女が言った。
「それじゃあ、ここで」
「え、バスに乗って帰らないの?」
ここに来るときにバスに乗ったのだから、てっきりバスに乗って帰るのだと思っていた。
「鈴さん――私の家で働いている家政婦さんを呼ぶから大丈夫よ」
「そ、そう……」
両親が家を空けっぱなしにしているのだから、誰かが家事をやらないといけない。
黒永さんは家事よりも研究がしたいだろうから、家政婦一人ぐらいいてもおかしくはなかった。
けど、俺はそれでいいのだろうかと考えていた。
彼女が家に帰る、家政婦を除いて誰もいない家に……。
そこで俺は昼に新太郎の言っていたことを思い出した。
『陽平、今日祭りがあるんだけど、綾人や牧原を誘って一緒に行かないか?』
そういえば、今日は祭りがあったんだった。
彼女に孤独な思いをさせてしまうぐらいなら、誘ってみようか。
断ってしまった新太郎に心の中で謝りつつ、俺は口を開く。
「黒永さん、今日祭りがあるんだけど、一緒に行かない?」
黒永さんは突然の俺の言葉に驚きつつも、その内情を見透かしているようですぐに答える。
「気を使っているのなら、必要ないわ」
「いや、そんなつもりは……」
ない、と言おうとして俺は一瞬迷って言い直した。
「いや、多分気を使っているのかも。でも、黒永さんと遊びたい気持ちもあるんだ」
素直に気持ちを言葉にする。
彼女に対して、偽らない方がいいに決まっている。
いや、彼女に嘘を吐きたくなかった。
黒永さんはそんな俺の気持ちを察したのか、珍しく考え込んでいた。
「あ、でも、忙しいんだったら、無理しなくてもいいから……」
「いえ、行くわ」
俺が言い切る前に、彼女は簡潔に行くことを示した。
その迷いの無い返事に俺は内心嬉しく思いながら、あとでメールで連絡すると言って、一旦黒永さんと別れた。
そして、時は進み七時になった。
ようやく陽は沈み、夜が訪れようとしていた。
俺は黒永さんを待つために、祭りの中心地である神社から少し離れた交差点にいた。
メールで送ったら、家政婦に車で送ってもらうと言っていたので、神社からちょっと離れた場所に集合することにしたのだ。
祭り目当ての人が大勢歩いている中、俺はただ彼女を待った。
七時を少し過ぎると、俺の前に一台の黒い車が停まった。
後部座席のドアが開き、そこから降りてきたのは黒永さんだった。
だが、俺は彼女を見て、思わず感嘆のため息を吐いてしまった。
なぜなら、彼女が着ると思わなかった浴衣を着てきたからだ。
名前のように、黒い生地に黄色の月のような丸い模様が浮かんでいた。
帯の赤色が浴衣を一層引き立たせている。
足元を見ると、下駄を履いてきていた。
そして、長い髪は後頭部でまとめ上げているため、普段は見ることがないうなじが見えそうだった。
そういえば、前に新太郎が浴衣美人のチャームポイントはうなじだと言っていた。
大人の色気が一番出やすいだとか何とか色々言っていたが、その時は対して興味もなく聴いていた。
けれど、今ならばうなじ美人という言葉が存在する理由が少し分かる。
新太郎、お前って、やっぱすごいわ。
「お待たせ」
だというのに、彼女はその全てが何でもないように言った。
「では、月夜さん。祭りが終わる頃、九時頃に迎えに行きますので」
「ええ、お願い」
運転席から顔を出してそう黒永さんに言った人が、家政婦なのか。
街灯の影になっていて、丁度顔が見えないが、声の感じからすると五十代の女性のようだ。
黒永さんの言葉を受けて、車は再び発進した。
そして、その場に残される俺と黒永さん。
浴衣のことを褒めるべきなのだろうが、彼女は容姿について褒められても喜ぶタイプの人ではない。
俺は自分の気持ちを無視して、全く別の言葉を言った。
「じゃあ、祭りに行こうか」
「ええ」
彼女が歩くと、カランコロンと下駄が軽快に音を出した。
祭りは大いに賑わっていた。
神社はいつもの厳かな雰囲気を崩し、赤提灯や安っぽい豆電球が暗闇を暖かく照らしている。
屋台もずらっと並んで、人の熱気や食べ物の香りで頭がクラクラしてきそうだ。
これで花火が上がれば完璧な祭りだったのに、と残念に思う。
「有賀、これは何?」
黒永さんが指差したのは、鉢巻を巻いたおっちゃんが作っているたこ焼きだった。
もう、この匂いだけでも購買意欲を刺激するというのに、見た目もかなり食欲を刺激してくる。
「ああ、これはたこ焼きだよ」
「これがたこ焼き……初めて見た」
「あの丸い生地の中にタコが入っているんだ」
話を聞くと、実は彼女は祭りに来たことがないという。
だから、俺は黒永さんに色々と説明しながら案内していた。
いつも、黒永さんから色々教わっているので、俺から何かを教えるという行為はなかなか新鮮だった。
黒永さんは俺のたこ焼きに関する説明を聞いて、買ってみることにしたようだ。
「まいどあり!」
屋台のおっちゃんから受け取ったたこ焼きは熱々の出来たてだ。
彼女はつまようじにたこ焼きを刺して、持ち上げてみる。
まるで研究対象のようにそれを注意深く観察すると、少しだけ頬張る。
ハフハフと言いながら食べるかと思ったが、あまり熱がらずにモグモグと口を動かしている。
「……おいしい」
飲み込むと、一言そう言った彼女は残りも頬張り始める。
俺はそんな彼女を見ながら、ただ隣で微笑んでいた。
けれど、楽しい時間はあっという間に流れる。
たこ焼きに始まり、お好み焼き、焼きそば、カキ氷、綿あめ、チョコバナナ、りんご飴と食べ歩いた。
それに、ヨーヨー釣り、金魚すくいなどの遊戯系も行った。
ヨーヨー釣りは黒永さんは四個ぐらいすくい取ったが、持ちきれないということで一個だけ持ち帰ることに。
金魚すくいでは逆にすぐに紙が破れてしまい、一匹もすくえずに終わった。
だが、店主の厚意により、一匹だけもらうことができた。
黒永さんはお礼を言うと、その金魚が入った袋を大事そうにもらった。
そんな風に遊びまわっているうちに九時を過ぎ、祭りを楽しんでいた人たちが帰り始めた。
屋台のいくつかも片づけを始めていたが、まだ黒永さんは帰るつもりはないようだ。
今は射的ができる屋台の前にいた。
「このコルク栓を撃って、倒した物がもらえるんだよ」
「なるほどね」
そう言って銃を構えると、即座に引き金を引いた。
パンッと倒れたのは、キャラメルの箱だった。
「おお」
まさか当てるとは思わなかったので、俺は驚いた。
彼女は喜ぶこともなく、コルク栓を詰め込み、再び発射する。
次に倒れたのは、小さい猫のぬいぐるみだ。
そして、最後の一発は……恐らく目玉賞品と思われる大きなガラスの置物に当たるも栓がはじかれてしまった。
「けど、全部当てるなんてすごいね」
倒したものを袋に入れてもらい、受け取っている彼女に俺はそう言うしかなかった。
けど、彼女は当たり前じゃない、と言っているような顔で言った。
「あの程度なら、計算でどうにかなるものよ。どこに当てれば倒れるとか……」
俺は彼女の射的の解説を聞きながら、このまま帰るのは嫌だなとか考えていた。
だって、黒永さんが今、楽しんでくれているのだから。
けれど、どうしたって祭りは終わる。
始まりがあれば、終わりは必ずある。
俺たちは車が待っているであろう場所に来たが、予想に反して車は停まっていなかった。
「まだ早かった?」
「待つしかないわ」
しょうがないので、俺たちは近くにあった街灯の下で待つことにした。
祭りから帰る人たちで、歩道は溢れていた。
同じ祭りを楽しんだ仲間たちは、みんな元の生活に戻っていく。
隣にいる黒永さんも、俺もそうだ。
「有賀」
「何?」
彼女はこっちを向いていなかった。
その横顔は、街灯に照らされ、暗い影を落としていた。
黒い瞳は空に輝く月に向いていた。
「今日は楽しかったわ」
「そう? なら良かった」
「本当に楽しかった」
静かにそうつぶやくと、彼女は黙ってしまった。
視線は依然、空に向いている。
もしかして、昼間のことを思い出してしまったのだろうか。
さっきまでが楽しかったから、余計に昼間の出来事が浮き彫りになったのではないか。
そう思うと、彼女に寂しい思いをさせたくないという気持ちがあふれてくる。
「また、祭りに行こう。今度は新太郎たちも誘って、大勢でさ」
「……そうね、それもいいわね」
それから、俺たちは彼女の迎えが来るまで、ずっととりとめもない話をした。
夕暮れの教室の、ちょうど真ん中。
机が一つ、置いてあり、褐色のフラスコが固定されていた。
周りには誰もいなかった。
ニャー、ニャーと猫の鳴き声がする。。
俺は、少しもためらわずにそのフラスコを手に取って、中を覗いてみた。
予想通りというか、分かっていたが、やはりそこには猫がいた。
夕日や褐色ガラスのせいで、色はよく分からないが、ひどく小さい子猫だ。
綺麗だったであろう毛並みは乱れ、心なしかやせ細っているように見える。
ガラスの壁を削ったのだろうか、爪もボロボロだ。
子猫は、このフラスコの中に一体どうやって入ったのだろうか。
猫は俺に気づくと、より一層強く鳴き始める。
そして、俺に向かって前足を伸ばす。
人間で言えば、丁度手を伸ばすような感じだ。
「お前、ここから出たいのか?」
俺のつぶやきに、猫が答えるわけもない。
その代わり、フラスコの口に向かって前足を伸ばし続ける。
間違いない、ここから出たがっているのだ。
事情は分からないが、助けてあげなくては。
フラスコを割ってしまおうか。
そんな安易な方法を考え、すぐに否定する。
ただ叩き割ってしまっては中にいる猫がケガする可能性がある。
出来れば、この猫をケガさせることなく助けてあげたい。
どうすれば、フラスコから出してあげられるのか。
どうすれば、この猫を救えるのか。
どうすれば、どうすれば、どうすれば――。
何も浮かばず、俺はただただ焦るばかりだった。
こんなとき、彼女ならば、どうするのだろうか……。
「ん……」
上体だけ起こすと、携帯のアラームが鳴っているのを止める。
そして、さっきの夢を反芻する。
以前にもあの褐色フラスコの夢を何度か見たけど、今日のはその続きみたいだった。
夢の続きを見たのは今日が初めてだ。
黒永さんと祭りに行った日から数日経過しているが、あの日の出来事がまるで昨日のことのようにはっきりと覚えている。
俺はベッドから起き上がると、とりあえず、制服に着替えることにした。
一体、この夢は何を示しているのだろうか。
心理学者でもない俺には分からないが、ただ一つだけ、確かな予感は感じる。
このフラスコの夢は、俺に関わる重大なことなのだということだけは――。
第七話へ続く