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第一話 太陽廻って月が出る

 ―(有賀陽平)―


 ゴールデンウィークも終り、いつもの平日が始まった金曜日――五月六日。

 いつも通り平凡な日となる予定だったこの日を、俺は一生忘れることはないだろう。

 なぜなら、この日初めて“彼女”に出会ったのだから。


 その日の午後。

 俺は眠気のために重いまぶたをこすりながら、本日最後の授業である英語を受けていた。

 先生が教壇に立って構文の説明をしているのをしっかりとノートに取りつつ、ある考え事をしていた。

 どうして、日本人は英語の勉強をしなければならないのか。

 国際化が進んだ現代において、多くの国で使われている英語を学ぶ必要性があるのは分かる。

 だが、それならばなぜもっと早い段階で英語を習わせないのだろうか。

 小学校のころいやそれ以前から本格的に英語をやらせれば、今こうして英語で苦労することもないはずなのに……。

 英語が一番の苦手な教科である俺はそんな下らないことを考えていたが、先生はテキストに載っている英文を黒板に書きつつしゃべるのを止めない。

「――この“as long as”は“~する間”という『時』と“~する限り”という『条件』の二つの意味がある」

 そこで先生は黒板に一つの文章を書いていく。

 チョークの砕ける音が小気味よく教室に響いた。

「では、この“You will meet her as long as you go there .”はどういう訳になるかな。それでは……吉岡」

 先生に呼ばれた男子――吉岡新(よしおかしん)()(ろう)は、俺の後ろで机に突っ伏して寝ていた。

 ちらっと後ろを振り返ると、彼は用意周到にアイマスクを着けていた。

 ここが後ろの方の席だからと言っても、教師の目線からは寝ているようにしか見えないだろう。

 眠いからと言ってもアイマスクまで使って授業中に眠る新太郎の根性には、中学からの友人である俺も呆れるしかなかった。

 先生も同じだったようで呆れつつも出席簿に何か書き込み始めた。

 恐らく平常点の記録に“吉岡新太郎、マイナス二点”とかしているのだろうか。

「吉岡は欠席っと」

 ぼそりと恐ろしい呟きが聞こえた。

 いくらここが義務教育ではない高校だからと言っても、寝ているだけで欠席は厳しくないだろうか。

 ……でも、自業自得なわけだし、新太郎だからいいか。

 俺がそう思っていると、先生は少々悩んだ後、次の生徒を指名する。

「仕方が無い、牧原(まきはら)、訳をよろしく」

「はい」

 当てられた牧原(まきはら)美恵(みえ)は流暢に答えを口にする。

「“あなたがそこへ行くのならば、彼女に会うでしょう”」

「グッド! その通り、だからこの文は“if”を用いて書き換えることも出来るわけだ」

 そう言って、先生は先ほどの一文を別の単語を使った文章に書き換えた。

 そこで授業の終りを告げるチャイムが鳴った。

 ウトウトしていた生徒たちは冬眠から目を覚ましたクマのように大きな欠伸をする。

 勿論、後ろに座る新太郎も例に漏れず「ガオ~」と叫びそうなくらい口を大きく開けているだろう。

「では、次回の授業はこの続きからやります。予習はある程度しておくこと」

 先生がそう言うと、クラス委員がいつものようにクラスメイトに挨拶を行わせた。



「しかし、新太郎も懲りないな」

 学校からの帰り道、すでに日は傾き、赤くなりつつあった。

 新太郎の茶色の頭が、夕日によってさらに明るい色になっていた。

 俺は彼と一緒にバス停まで歩いていた。

 いつもならあと一人一緒に帰る仲間がいるんだが、残念ながら今日は忙しいらしく終礼が終わるとさっさと帰ってしまった。

「だから起こしてくれって頼んでいたじゃないか!」

 新太郎は大変渋い顔をしていた。

 こいつはこれでもサッカーに関しては天才的(と前に自称していた)プレーヤーであり、実際に様になっているので女子から大変人気がある。

 顔だって俺なんかよりもずっと整っており、イケメンと呼ばれてもおかしくないはずだ。

 にも関わらず、彼女が出来ないのは普段ズボラだからだと思う。

「後ろ振り向いていたら、俺が佐藤先生に怒られるだろうが」

「そこは親友だろ? オレのために何でもしてくれるんだろ?」

「何でもって……そんなものは親友でも友達でもないだろ」

「少しぐらい助けようと思ってくれたっていいじゃんかよ」

 俺たちは長くなる影を追うようにバス停に向かって歩き続ける。

 まだ何かを言っている新太郎をよそに、俺は昨日までの日々を振り返っていた。

 ゴールデンウィーク中、新太郎と一緒に滅多に行くことのない東京まで遊びに行ったのだ。

 もっとも、その目的は新太郎のナンパの付き添いだったが。

 何でも一人で声をかけるよりも二人で行ったほうがナンパの成功率があがるのだと何かの雑誌に書いてあったから、試してみたいと言い出したのだ。

 俺はそんなことに付き合いたくもなかったのだが、泣きそうな顔で迫る新太郎の気迫に負けて思わず了承してしまったのだ。

 そういうわけで実際に東京まで行き、そこで新太郎は何人もの女の子に声をかけた。

 二人で行った効果なのか新太郎の外見が良かったからなのか分からないけども、ナンパそのものの成功率はまあまあだった。

 しかし、成功した後に調子に乗った新太郎が素の自分をさらけ出してしまうため、結果的にデートらしいデートまで漕ぎ着けることはなかった。

 女の子たちは皆怪訝そうな顔をしていたが、俺も正直困ったものだった。

 一日目で俺は止めたくなったのだが、一度引き受けたことを放り出すのは精神的によろしくない上にナンパに付き合ってくれたお礼ということですでに夕食をご馳走になっていた。

 新太郎自身も一日目で止めるつもりもなかったようだった。

 そのせいでゴールデンウィークのほとんどをナンパに費やしてしまった。

 思い出していくと、横を歩く親友に怒りを覚えざるをえない。

 そうだ、そのせいで、化学の課題を徹夜でやらなくてはいけなくなって――。

 そこまで考えた時、俺は忘れていたことを思い出した。

「あ……あああ!」

 叫ばずにはいられない。

 新太郎がものすごく驚いているのだが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 俺は急いで学校に戻ろうと走り出した。

「お、おい、陽平、どこへ行くんだ!?」

 後ろから新太郎が声をかける。

 だけど、俺は足を止めずに段々小さくなっていく親友に向かって大きく叫んだ。

「化学の課題、出し忘れてたから、急いで出してくる!」

「お、おーい!」

 新太郎がまだ何かを言っているが、俺はもう振り返らずに急いだ。

 下校時間にはまだ早いとはいえ、下手したら化学の先生が帰ってしまうからだ。

 俺は学校に向かって加速し続けた。



 ―(吉岡新太郎)―


 そして、オレの静止も聞かずに、陽平の姿が角を曲がって見えなくなった。

「……行っちまった」

 残されたオレはもう見えない陽平の背中を追うなんてバカなことはしなかった。

 バスがもうすぐ来てしまうのもあったし、昨日までのナンパ疲れを早く癒したかったのもある。

 だが、何よりも、だ。

「化学の課題の提出日は明日だって言うのになぁ」

 きっと寝ぼけながら課題を終わらせたために提出日を間違えたのだろう。

 電話をかけてあげようかと思ったが、あの様子では携帯を手にとることもしないだろう。

 そんな親友のバカさ加減に呆れつつ、バス停に向けて再び足を動かすことにした。



 ―(有賀陽平)―


「はぁはぁ」

 校舎に着いても、俺は走り続けた。

 真っ先に職員室を尋ねると、先生は第一化学実験室にいるという。

 実験室は校舎の五階にある。

 一階は職員室や事務室、校長室などの執務関係の施設がある。

 二階から四階までは下から順番に三年生、二年生、一年生の教室がある。

 そして、五階に特別教室と呼ばれる実験室や美術室などがあるのだ。

「つ、着いた……」

 一階から五階までの階段を全力疾走で駆け抜け、俺はついに実験室の手前まで来ていた。

 ここに来るまで生徒はおろか先生にも会わなかった。

 それはつまり、下手をすればこの教室に先生がいる可能性が低いということだ。

 この学校には階段は三つあるわけだから、すれ違った可能性もある。

 しかし、俺は頬を流れる汗を袖で拭いつつ、実験室の扉に手をかけた。

 だが、ここで俺は一つだけ確認し忘れたことがある。

 先生がいるのは第一実験室であって、第二実験室ではないことを。

 急いでいたため、そのことをうっかり忘れていた。

 俺がそれに気づくのは、扉を開けて、教室に入って数秒経ってからだった。


 第二化学実験室は第一とは違い部屋が少し狭いため、授業で使うことはまずない。

 クラブ活動として“科学部”がよく使うということは聞いていたが、まるで誰にも使われたことがないかのように整理整頓されていた。

 静かだ、と思ったのもつかの間、ガラスがぶつかる音がした。

 誰かいるのだろうかと、俺は音がした方へと視線を向ける。

 この教室には当然だが実験を行うためのいくつかのテーブルが設置されている。

 その最も奥のテーブル、すなわち教室の奥に“その人”はいた。

 テーブルの上にいくつもの試験管を立たせ、その人はその中の一本を手にして振っていた。

 白衣の下に見慣れた制服を着ていることからも、その人はこの学校の生徒であることは容易に分かった。

 俺がいることはドアの開閉音で分かっているはずだが、その人は一向にこちらに振り返ったりはしない。

 実験に夢中なのだろうか、それとも俺が入ってきたことに気づいてないのか。

 理由は分からないが、俺はそのおかげでその人――“彼女”を見続けることが出来る。

 赤を通り越して黒く染まっていきそうな教室の片隅で、実験を続ける彼女を。

 俺はもう課題を提出しなければとか、そんな考えはとうになくなっていたことに気づいてなかった。

 なぜなら、そこに座る彼女があまりにも綺麗で、楽しそうで、けれどなぜか寂しそうだったから。

 薄暗い部屋のため、その顔がよく見えないというのになぜそう思うのかも分からないが、とにかくそう思ったのだから仕方が無い。

 俺は勇気を出して、声をかけてみようと思った。

「あ、あの――」

「何?」

 声をかけた瞬間、彼女はすぐに反応した。

 警戒を含んだ冷たく、まるで機械がしゃべったような声だった。

 どうやら先ほどの振り返らない理由は前提が間違っていたらしい、彼女は始めから俺が入ってきたことに気づいていたのだ。

 それでなお実験を続けていたということは、それは、俺に興味がないということだ。

 一瞬、口をつぐんだ俺だったが、もう一度、声をかける。

「えっと、俺、B組のアリガヨウヘイって言うんだ」

 って、何自己紹介しているんだ。

 確かに俺は彼女を見たことはないし、彼女の様子から俺を知っているはずはないだろう。

 しかし、この状況で名前を名乗るか、普通。

 どうも彼女の冷たい先制攻撃が見事に急所に入っていたようだ。

「アリガ、ヨウヘイ?」

 彼女が俺の名前を呟いた。

 さっきとは違い、少し人間らしい声だ。

 それだけのことなのに、俺はなぜか無性に感動していた。

「有限のユウに年賀状のガ、太陽の平面で、(あり)()陽平(ようへい)

 だからなのか、ご丁寧に漢字まで説明してしまった。

「有賀陽平……それで?」

「それでって?」

 彼女はもう一度俺の名前を言うと、また元の冷たい声に戻った。

 それにびっくりしたため、俺は思わず聞き返してしまった。

「用件は?」

 最初からだが、今もこっちを振り返ることなくそう言う彼女。

 確かにこの教室には他の誰もいない。

 だから、彼女は自分に用があって、俺がここに来たと思ったのだろう。

 そう思ったとき、俺は本来の目的を思い出してしまった。

「あ、君に用があるわけじゃないんだ。先生を、化学の岸山(きしやま)先生――」

「岸山? 彼なら向かいの第一実験室にいるけど」

「そ、そう、ありがとう」

 どこにいるのか聞きたかったわけじゃないが、それを聞いて俺は改めて残念に思った。

 先生がここにいないなら、この教室から出ざるを得ない。

 もしもそうなったら、二度と彼女には会えない気がする。

 なんだろう、この気持ちは……。

 同じ学校の人間なのだから、そんな訳がないのだが、なぜか不安ばかりこみあげてくる。

「あ、あの、何の実験をしているの?」

 だから、少しでも会話をしたかった。

 この時間が永遠に続くとは思えないからこそ。

「……電気、つけて」

 赤とも黒とも言えるような色をした彼女の横顔がそう告げた。

 俺は言われたとおり、ドアのそばにあるスイッチを入れた。

 蛍光灯の明かりが、教室を白く明るくした。

 するとどうだろう、赤く黒かった彼女の顔がはっきりと見える。

 化粧をしているようには見えないが、高校生とは思えないぐらい綺麗だ。

 可愛いだけなら同学年には何人もいるが、彼女には誰も勝てないだろう。

 俺は思う、きっと彼女の笑顔は誰よりも可愛いのだと。

 ストレートに伸ばした黒髪が、その印象を強めていた。

「これは、反応速度の実験」

「反応速度? 何それ?」

 彼女は実験の名称を言ってくれたが、生憎俺には全然わからない。

 これからの授業でやるのかどうかさえ、分からなかった。

 だからか、彼女は説明をしてくれた。

「それぞれの試験管に入っている塩酸にチョーク――炭酸カルシウムを加えて、どれくらいの時間で溶けるかを調べてる」

 手に持っている試験管から目を離さず、彼女は続けた。

「それで、濃度を色々変えて、それがどのように結果を変えるかを観測し、最後は考察する」

 言っておくが、俺は別に化学が苦手ではない、むしろ好きだ。

 しかし、突然そう言われてすぐに理解できるほど、頭がいいわけではなかった。

「いずれ、あなたもやるでしょうね……一年後に」

「一年後かよ!」

 つい突っ込んでしまったのも無理はない、高三で習うことだったのかと驚いたのだ。

 しかし、突っ込みで叫んだため、彼女は驚いてこっちを見ていた。

 だが、その顔はうぬぼれでなければ、俺のことを嫌っているようには見えなかった。

 さっきまでの興味のなさなど微塵にも感じなかった。

 最悪、実験の邪魔をされて怒っているのではと思っていたのだが。

「……変な人ね、有賀は」

 変態は新太郎だけで十分だ。

 いや、新太郎は別に変態ではないのだが……。

 どうしたんだろう。

 さっきまで不安を感じていたのに、今は彼女と話をしているのが楽しくなっている。

「俺は、別に変じゃない。君こそ、変じゃないか」

「変?」

「だって、高三でやる実験を今やってるんだ、十分変さ」

 って、俺は何を正直な感想を述べてるんだ。

 それも、こんなに綺麗な人に向かって。

 こんなことを口に出したら、嫌われるじゃないか。

 せっかく興味を持ってくれたのに、これじゃあ台無しだ。

「ごめん、こんなことを言う――」

「クロナガツキヨ」

 “つもりじゃなかった”と言おうとした俺の言葉を彼女はさえぎった。

 さっきから彼女は人の発言をさえぎることが多い。

 けれど、それに怒りを感じる前に、彼女が何を言ったのかが分からなかった。

「黒に永遠のエイに月の夜」

 俺が黙っていたからか、彼女はそう続けた。

 あぁ、俺がさっき名前を教えたから、彼女も自己紹介したのか。

「黒永、月夜?」

 確認のため、俺はそう言った。

 黒永月(くろながつき)()と名乗った彼女はただ微かに頷くだけだったが、それは間違いなく肯定の意味だった。

 “黒永月夜”。

 その名前はこの学校においては有名だ。

 彼女は俺のことを何も知らないだろうが、俺は彼女のことをいくらかは知っている。

「そうか、邪魔したね」

「別に」

 そう言うと、彼女は再び試験管に視線を戻した。

 俺は知っているからこそ、彼女には近づいてはいけないと感じた。

 早くこの場から立ち去って、先生に課題を提出しなければいけない。

 俺が持つ知識と経験が導き出した結果がそう囁いている。

 それに従って、俺は彼女に背を向け、ドアに向かって歩き出す。

 ドアノブに手をかけたとき、この実験室でのことを思い出す。

 興味深そうに試験管を見つめていながら、寂しげな顔をしていた彼女の横顔。

 そして、二度と会えないのではないかと感じた不安。

 俺はもう一度彼女の方に振り返る。

 彼女は先ほどど変わらず、試験管を見つめていた。

「黒永さん」

 呼んでみたけれど、彼女はこちらを見ることはない。

 けれど、俺は勇気を振り絞って言った。

「また、ここに来てもいいかな?」

 正直に言えば、心臓がバクバクしている。

 もしも断られたら、俺の心はさらに傷つくだろう。

 これでも思春期真っ只中の高校二年生なのだ。

 今、沈黙に保たれているこの教室の空気を破るであろう彼女の答えを俺は待った。

 実際には二秒と経っていないはずだが、俺にとっては一分にも感じられた。

 彼女はほんの少し、そう、この距離ではよく見ないと気づかないほど少しだけ、頭を下げた。

 つまり、頷いていた。

「明日の放課後」

 そして、彼女は小さく、だけどはっきりとそう言った。

「わかった、それじゃあ」

 俺は今度こそドアノブを回して教室を出る。

 廊下は真っ暗で不気味に見えたが、不思議と怖くはなかった。



 ―(黒永月夜)―


「太陽の平面、か」

 面白い漢字の組み合わせだと思った。

 彼が出て行ったドアをほんの数秒見てから、すぐ実験に戻る。

 だけど、私の頭の片隅では先ほどの彼のことを考えている。

 身長百七十センチより少し高めで黒髪の短髪。

 顔は整っているが一般的にはかっこいいと言われることはなさそうだ。

 雰囲気だけで判断すれば、勉強も運動も特に出来る訳ではないように見えた。

 この時間にこんなところに来るということは、部活には入っていないのだろう。

 そこまで思考してから、私はいつも通りの結論を出した。

 つまり、私とは生きる世界が違う人間だ。

 だから、すぐに興味を失くしていく。

 また来てもいいかなと彼は言ったけれど、恐らくは来ないに決まっている。

 例え来てしまっても、この次はしっかり断ろうと思う。

 “あんなこと”があったのだから、私は反省しなければならないのだ。

 そう思う私は少しだけ異常なことが起こっていることに気づいた。

 口の端が少し上に引きつっている。

 鏡があれば、顔を見たいのだが、生憎この教室には鏡はない。

 病気かとも思うが、体のどこにも痛みや違和感はない。

 だけど、この感じは数年前にもあったような気がする。

 不思議なことだが、今は実験を終わらせることが優先事項である。

 私は再び試験管に目を移す。

 そこには溶けていく炭酸カルシウムが塩酸の中で浮かんでいるのみだった。


 第二話へ続く

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