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エピローグ

エピローグ


「ルークよ。またやったそうですね?」

 ルークが執務室に呼び出されると開口一番、トリスタンはこう言った。

あの夜から三年の月日が経っていた。ルークは幽閉を解かれると遊びに興じる毎日を過ごした。人間狩りという名前の遊びだ。元々、宮中の覚えの悪い彼はその悪行から『グリーンヒルドの狂王子』と陰で呼ばれるようになっていた。

「ああ、今回は辺境の孤児院だったぞ、十人ぐらいだったかな」

「少しは世間体をいうものを覚えるのです」

 悪びれもせずにこう答えるルークにトリスタンは米神をほぐしながら説教をする。しかし、おかしな話だ。賢王と呼ばれる彼が人間狩りなどと言う悪行を咎める風ではなく、まるで『やるなら上手くやれ』などと、不手際を責めている風もあるのは何故だろう?

「フンッ、仕方がないだろ。現地に到着したのが昼間だったので夜を待つのが面倒だった事。数が多かった事。まあ、めんどくさかったってのが一番の理由だな。兎にも角にも今さら何だと言うのだ」

 対してルークも悪びれもせずにこう返答する。

「そもそも、お前がそのような危険を冒す事はないのです。それは本来、兵に任せる事案なのですよ?」

「全く愚かな話だ。俺の手で仕返ししてやらねば意味がないだろ?」

 よくある話だ。孤児院とは名ばかりで孤児を暗殺者に育成するなんて事は。つまり、ルークは暗殺の御礼回りをしているのだ。『狂王子の人間狩り』とは、つまりそういう事でそもそもがルーク自身がそう噂を流した結果にすぎない。

「だからと言ってお前一人でするには危険が過ぎます。それに無駄に恨みを買う行為をする必要性もありません」

「一々細かい事を気にするな、兄上よ。そんな事だからいつまでも童貞なのだ」

 トリスタンが例の禁句で露骨に顔を顰めるのを無視しつつ、ルークは続けた。

 今朝、早くにグレグから連絡があったのだ。

「それにな、兄上よ。もう、一人ではないようだぞ――」

 コンコンと、ノックの音。

 その音に主であるトリスタンではなくルークが「入れ」と、答えると、一人の騎士が入室した。

 それは美しい女騎士であった。

「名は?」

「アイナ・スタンフィードと申します、両閣下」

 その答えにトリスタンは苦笑し、ルークは満足げに頷いた。



 正直な所、フィーナはうんざりしていた。

何時間経った事だろう? 港のある酒場へ入店してようやく遅めのランチにありつけると思ったのに、この腐れ外道は本当に飲み物だけを注文しやがったのだ。お腹がからは何度もキュルキュルと可愛らしい音がして、何度か食事の催促をしたのだが全て例の『俺の玉声に(以下略)』って奴に阻まれてしまったのだ。

「これで終わりだが、どうだった?」

 などと上機嫌のルークが感想を求めてきたが実のところフィーナは聞いていない。耳に入らなかった、と言うのが正しい。つまり、途中からお腹が減りすぎて意識が朦朧としていたのだ。

「えっと……、素敵なお話だったと思うかな?」

 などとルークから目を逸らしながら適当に答えてしまう。これがよくないのだ。洞察力に優れたルークにはこんな嘘はすぐばれてしまう。

「貴様、さては聞いていなかったな。ふむ、仕方のない奴だ。本来であれば俺様の有難い話を聞き流すなど万死に値するのだが、幸いなことに今日の俺は機嫌がいい。もう一度だけ話してやろう」

「え!?」

「ガハハハハ。喉が渇いたな。オヤジ、店で一番上等なワインを用意しろ!」

「ちょっ、ちょっと! その前にご飯にしようよ」

「貴様! 俺に物を食いながらペチャクチャと下品に会話をしろと言うのか? うーむ、マナーについてもう一度仕込んだ方がよさそうだな」

 などと思案するルークに対して、フィーナは。「あんた、頭おかしいんじゃないの?」なんて言ってしまうのだ。

「フンッ、俺の二つ名を忘れたか?」

 こう言ってルークはニヤリとした。

 可哀想なフィーナはどうやら今日は食事にありつけないらしい。


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