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プロローグ

プロローグ


「ふむ。海というものは、まさに聞きしに勝るという表現がぴったり当てはまるものだな」

 生まれて初めて見た海というものにしきりに感心しているルークを余所にフィーナは少しうんざりしていた。

 いや、フィーナも実の所、海を見るのはこれが初めてだったし、最初のうちは今の彼と同じように好奇心で瞳を輝かせていたわけだが流石にやりすぎというものであった。

 確かに、まるで邪気のない少年のような瞳をしている今のルークを見るのはフィーナにとってこれまた初めてなわけで、これも実に珍しい体験ということもできるわけだが……、彼是三時間は経過しようという今となってはうんざりしてしまうのも仕方のない事であった。

 かと、言って移動を促せば機嫌を損ねた彼の報復が怖い。だから、『どうせ気が付いていたとしても無視するんだろうな』なんて思いながらも、片膝付きで座り込み時折、彼にジト目を向けるぐらいが彼女としては最上級の抗議なのだ。

 時間でいえば十時ごろに海が見えるこの場所に到着し今はもうお昼過ぎだ『きゅるる』と彼女のお腹からかわいらしい音がしても当然、彼はあえて気がつかない。

「そのようですね」

 アイナの何度目かの同じ内容の相槌。

 表情はいつも通り無愛想なものではあったが、ルーク全肯定の彼女のことだ、恐らく彼がこの景色に飽きるまでこのまま付き合うつもりなのだろう。


 そんな二人を見てフィーナは思う。


 かつて、ルークは言った。アイナに全てを捧げさせる代わりに全てを許す、と……。

 かつて、アイナは言った。自らの忠誠は自分が死ぬまで変わらない、と……。


 なぜ、この二人はそこまでお互いを信頼できるのだろう? 

 いや、何があったらそうできるのだろう?


 いや、フィーナとしてはどうしても知りたい訳ではなかったのだ。むしろ、それが地雷の類なのは容易に予想ができたのだ。


「ふむ、このままここで夕焼けというものを見るぞ」「わかりました」

 なんて、やり取りがあったものだから彼女としてはたまったものじゃない。一刻も早く空腹を満たしたいフィーナは地雷に飛び込む覚悟をせざるを得ないと言うものだった。

「あのさ……。うん、実に唐突なのは判ってるんだけど……」

 話を切り出し始め彼女はゴクリと生唾を飲み込んだ。ルークの視線をこちらに向けることには成功した。だが、彼の視線は実に覚めたものだった。

 こういう時は危ない。かと、言ってビビって黙れば彼に楽しみを邪魔されたと難癖を付けられるのは間違いない。何よりもゴハンの為に黙るわけにはいかなかった。

「前から聞こうと思ってたんだけどね。お二人はどうやって出会ったのかな? って……」

「ふむ、貴様ごときに俺とアイナの愛の記録を教えてやる義理は微塵ほどもないわけだが。――まあいい。夕方までは、まだしばらくある事だし、お前にとって幸いなことに今日の俺は機嫌がいい……」

「えっ!?」そんなに長いんかい! なんてツッコもうとしようとして彼女はしまったと口を手で塞ぐ。

「おい、貴様。以前、言ったはずだ。許しもなく俺の玉声に割り込むなど万死に値すると」

「斬りますか?」

 なんてアイナまで若干嬉しそうな顔をして剣に手をかけるものだからフィーナは焦る。ここは一気に畳み掛けないと命すら危ない。

「今、アイナさんだって!」

「アイナはいいのだ」

「じゃなくって! 長い話なんだよね? だとしたら、飲み物ないときつくない? ほら、夕焼けなら港に接してる宿屋でもとってさ。そこで見ようよ。大切なアイナさんとの愛のメモリーだよね? なら、こんな場所より落ち着いた場所でじっくり聞きたいかなって……。ううん、知らないけど絶対そう!」

「ふむ……」

 しどろもどろになりつつも何とか言いきったフィーナを腕組みしつつルークは眺めると「まあいい。そのくだらない策略にのってやる」と身を翻した。


「おい、早くしろ。置いてくぞ」

「まってよー!」


 この王子。身内のことをだしにすると意外とちょろい。

フィーナは胸を撫で降ろしつつも、その身内たちになんとなく嫉妬した。



ルーディラック・グリーンヒルド(ルーク)……本編主人公

アイナ……ルークの従騎士

フィーナ……今回の出番終わり

トリスタン王……ルークの兄

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