プロローグ
粉雪が舞う。さっきまではボタン雪が降っていて町はあっという間に白に覆われた。積もる雪が季節を感じさせる。だけど、僕にはそんなことどうでもよかった。
「おい、水口、お前薄着じゃんか。これ着ろよ」
友達と遊んだ帰り道。いつもと同じ光景。
僕はクラスメイトの水口に自分の上着を着せる。
「有難う!すっごくあったかい!」
小学校の卒業式を控えた6年生の冬。今思えば、彼女が僕に好意を抱いてくれたのは些細な親切心を振りまいたからだ。ただ上着を貸しただけなのに彼女が僕を好いてくれたのは正直嬉しかった。
「私、あなたのことが好き。恋人がいるあなたでも、恋人がいるのにずっと別の人が好きだったあなたでも……」
「ありがとう。でも俺は……」
まさか、こんな事態になるなんて想わなかった。
僕は人として最低だ。一人の女の子と付き合っていたのに、別の女の子を好きになってしまった。
「水口、僕も君のことは好きだよ。だけど、一番じゃないんだ」
「うん、分かってる。だから私は付き合ってとは言わない。想いを伝えたかっただけ」
僕が本当に選ぶべき人は誰なんだろう?
このときまで、僕は深く考えようとしなかった。これからのこと、未来のことを。
ずっと僕は悩み、悔やんでいた。なぜ僕はあの時彼女を追いかけなかったんだろうって。
想いを告げられて気まずかった。だけど、僕は沈黙に耐え切れず言葉を発した。
「もう帰ろう。今年も雪が積もる」
「あの時は上着貸してくれた」
「あんときは薄着だっただろ?」
仲睦まじいと噂されたときもあった。彼女は少し下ネタが過ぎるけど、嫌いになれない女の子だ。
この物語のヒロインは、彼女なのかもしれない。