目の見えないミア
私とカイルは、町へ向かった。道中、カイルに迷いはなかった。まるで、何度も通ったことがあるかのように。
(……土地勘、完璧)
町では、まず、金になるものを手放した。着ていた服。切った髪。それらを売って、
庶民の服と、鞄。それから、フード付きのマントを買った。
顔も、髪も、視線も、すべて隠せる。
カイルは、小間物屋で何かを買い、店を出てから言った。
「今日も……悪いが、野宿だ」
「もう、慣れたよ」
私は、素直にそう答えた。
(森の中で、三日も過ごせば。人間、慣れるものね)
風呂なし。トイレなし。
食べ物は、僅か。木の実を見分け。
魚を捕り。火を起こし。
カイルが、超有能でなければ――
私は、間違いなく、とっくに餓死していた。
(断言できる)
「……強いな」
火を見つめながら、カイルが、ぽつりと言った。少しだけ、笑う。
(……ん?あれ?笑うと、ちょっと、いい男じゃない?)
――今のは、内緒だ。
絶対に。
カイルは、焚き火を起こしながら、何かをしていた。
しばらくして、こちらを振り向く。
「ミア、ちょっといいか?」
「何?」
呼ばれて近づくと、
カイルは、私の目の前に座った。
距離が――近い。
「少し、目を瞑ってくれ」
真剣な眼差しで、そう言う。
(…………ちょっと。胸が、鳴ってるんだけど。顔、近いわ)
けれど、私は素直に、目を閉じた。
(うるさい、私の心臓。止まりなさい)
次の瞬間。
ふわり、と。
カイルの手が、私に触れた。
そして――瞼の上に、何かが、塗られる。
べちゃり。
(……ギャー!?何したのよ、今!)
さらに、もう一度。
べちゃり。
「……しばらく、目を閉じててくれ」
落ち着いた声。
私の心臓は――もう、完全にトーンダウンしていた。さっきまでの騒音が、嘘みたいに。
「……これは?」
恐る恐る、聞く。
「何って」
カイルは、さらりと言った。
「目の上に、傷跡の偽物を作った」
(……は?ちょっと待って。それって、本気で、私を“目が見えない人”として運用する気!?)
「どう見ても、傷跡にしか見えない」
カイルは、落ち着いたままだ。
「安心していい」
(……いやああああ。全然、安心できません!乙女の危機!いえ、人生の危機!)
私は、心の中で全力で叫んだ。




