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赤色の悪役令嬢に転生しました【連載版】  作者: りな


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8/22

演技、最高得点

男は、宝石から目を外した。

「……駄目だ」

「どうしてよ?」

 思わず、声が強くなる。

「足りないの?」

「いや……多いくらいだ」

「それなら、いいじゃない」

 私は、即座に言い返す。

「余ったら、渡すわよ」

 男は、ぎゅっと歯を噛みしめた。

「……どうして、俺を信じるんだ」

 その声には、はっきりと、悲痛が混じっていた。

(……そんなの)

(他に、誰もいないからよ)

 もっとも手っ取り早い。

 説明も、交渉も、時間もいらない。当たり前の選択。

 私は、言葉を選ぶ。

「……あなたは、ずっと真面目に働いていたわ」

 ゆっくりと、続ける。

「サボろうと思えば、いくらでもできたのに」

 私は、そっと、男の手を取った。

 驚いたように、男が息を呑む。

「命は、大切よ」

 目を逸らさず、言う。

「共に……逃げましょう」

 男の瞳を、まっすぐ見つめた。

(……どうでもいい。そんなこと。女一人は、危険なの。歩く地図と情報を持った人間が、どうしても必要なのよ)

 心の中で、叫ぶ。

(返事は――はい、よ。言いなさい)

 男は、まだ、黙っていた。


「……俺は、捨てられた」

 男は、ぽつりと言った。

「多分……もう、戻れない」

(……はあ?)

 内心、思わず突っ込む。

(何の組織よ。それ。こっちは、命がかかってるんですけど)

 けれど、顔には出さない。

「……私と、同じね」

 静かに、そう言った。

「私も、両親に捨てられたわ」

 男が、私を見る。

(……よし。出なさい、私の涙。ここが、見せ場よ)

 ほんの一瞬、間を置いて――

 ほろりと、一粒。涙が、頬を伝った。

「過去は、戻らないわ」

 震える声を、作る。

「あなたが……生きたいか」

 ゆっくりと、息を吸う。

「それだけよ」

 もう一粒、涙を落とす。

(……よっしゃ)

(演技、最高得点)

 しばらくの沈黙のあと、

 男が、言った。

「……俺は、まだ、生きたい」

 私は、すっと立ち上がった。

「一緒に、行きましょう」

 微笑みを添える。

「二人なら……怖くないわ」

(……ええ。私一人なら、お金を巻き上げられて、騙されて、路頭に迷いますからね。頼みますよ。本当に)

 私は、男に、手を差し出した。

 男は、少し迷ってから、

 おそるおそる、その手を取った。

(……よし。ゲットしたぜ)

 私は、満面の笑みを浮かべる。

 男は、少しだけ、顔を赤くして――

 ほんの少し、笑った気がした。

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