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赤色の悪役令嬢に転生しました その後  作者: りな


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6/21

現場からの逃走

「……逃げるぞ」

 男が、小さな声で言った。私は、黙って頷く。まだ、着替えてもいない。靴も、ちゃんと履いている。怪我も、ない。

(幸運だ)

 それだけが、救いだった。私たちは、静かに、静かに動いた。足音を殺し、息を抑え、闇の中を進む。幸いだったのは――別荘が、激しく燃えていたこと。

 爆ぜる音。崩れる音。

 そのすべてが、私たちの微かな物音を、飲み込んでくれた。

 どれくらい、歩いただろう。私は、もう、

 どこを歩いているのか、分からなかった。

「……この辺が、限界か」

 男は、立ち止まり、私を見て、そう言った。

(……なんで分かったの)

 足が、悲鳴を上げていること。これ以上、進めないこと。

 ――そうよ。限界よ。引きこもり令嬢を、舐めないでほしい。もう、歩けない。

「ええ……休みが、欲しいわ」

 私は、できるだけ、平静を装って言った。

 男は、何も言わず、腰を下ろす。私も、その隣に、腰を下ろした。見上げると――

 闇は、少しずつ薄れていた。

 空が、ほんのりと明るくなり始めている。

 夜が、終わる。朝が、来る。


しばらく沈黙が続いたあと、

 男が口を開いた。

「……どうして、狙われているか、分かっているか」

 ――ああ、それ?内心で、私は肩をすくめた。

「……私が、王妃教育を受けていたから、かしら」

 慎重に、言葉を選ぶ。

「極秘情報を、保有しているとでも思われたのよ」

 男は、目を見開いた。

「記憶が……戻ったのか?」

「いいえ。単なる、推測よ」

 私は、すぐに首を振る。

「それより――」

 視線を、まっすぐ向ける。

「あなたは、どうして狙われているの?」

 男は、黙り込んだ。沈黙。

 長すぎる、沈黙。

「……だんまりは、なしよ」

 私は、低く言った。

「これから、共に逃げるのだから」

 男は、はっとしたように、私を見る。

「……なぜだ」

「私、一人じゃ無理だからよ」

 即答だった。

「俺は、共に逃げる気はない」

 男は、きっぱりと言った。

 ――そう。なら、手段を変えるだけ。

「じゃあ……あなたを、買うわ」

 私はそう言って、いつも首から下げていた、小さな袋を取り出した。

 口を開き、中から、宝石を二つ。

 夜明けの薄明かりに、それは、はっきりと輝いた。

「これで――」

 私は、静かに告げる。

「私を、隣国まで連れて行ってくれないかしら?」

 男は、何も言わず、しばらく、その宝石を見つめていた。

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