私は窓から飛び降りた
私は、ハンナを引きずった。
煙で、視界が悪い。息を吸うたび、喉が焼ける。
ようやく、ハンナが目を覚ました。
「……え?」
「火事よ。ここから、降りて」
考える暇は、ない。私は、ハンナの背中を押し――窓の外へ、突き落とした。
……よし。次は、私。
そう思った、その時。
「誰か、逃げたぞ」
――声。
「女のようだ」
「逃げたぞ!」
「逃がすな、追え!」
……ちょっと、待って。今の、何?
誰かが、いた?しかも、複数。
混乱する頭に、次の音が、叩き込まれる。
――バンッ!
扉が、蹴破られた。
現れたのは、あの、若い男性使用人だった。
「お前か?」
短く、低い声。
「知らないわ!」
私は叫ぶ。
「今、ハンナを落としたの。下に、人がいるわ!」
煙が、さらに濃くなる。
(……ここで、死ぬ)
そんな選択肢、ない。さっき、言っていた。
――逃げた。
――追え。
なら、今は?私は、窓へ走った。
「待て!」
男の声が、背中に飛ぶ。
……知らない!
私は、振り返らず、そのまま――空中へ、身を投げ出した。
――バスン。
私は、マットの上に落ちた。衝撃に息が詰まる。
その瞬間、上から声が降ってきた。
「どけっ!」
……は?
考える間もなく、私はわたわたとマットから転げ落ちた。
――バスン。
今度は、男が落ちてきた。
男がマットから降りた時、闇から声が聞こえた。
「くそっ……中年女か」
吐き捨てるような声。
「やめて……!」
次の瞬間。私と男は、ほとんど同時に、繁みに隠れた。息を殺す。視界の先には。
「おい、若い女は?」
低い男の声。
「……まだ、上にいるわ」
ハンナの声だった。
「私を、突き落としたのよ」
「ひでえな」
別荘は、完全に火に包まれている。赤い光が、夜を焼く。
「……まだ、中か?」
「若い男は、知らないか?」
「知らない。知らないわ」
ハンナの声が、震えている。
「どうする?」
「二人の死体を、確認しないと駄目だろ」
「……ちっ」
「睡眠薬を盛ったんだ。男は、寝てるだろ」
「かもな」
「この女は?」
一瞬、沈黙。
「……言ったら、殺すぞ」
男の声。
「言わないわ。死んでも」
ハンナの答え。
私は、息を止めたまま――隣の男と一緒に、燃え盛る別荘に照らされる、二人の男と、ハンナの姿を、ただ、目に焼き付けた。




