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赤色の悪役令嬢に転生しました その後  作者: りな


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4/21

火事です

別荘に来てから、一月が過ぎた頃だった。

 生活は、表面上は穏やかだった。何も起こらず、何も変わらず、淡々と日々が過ぎていく。――だからこそ、油断していたのだと思う。

 その日、一番近い町に住むようになったという、商人を名乗る男が、二人、別荘を訪ねてきた。

「こちらの別荘に、人が住み始めたとお伺いしまして。商いは食料品が主ですが、取り寄せも承っております」

「お近づきのしるしに、ささやかなものを持って参りました」

 そう言って差し出されたのは、

 酒と、菓子。見るからに高価そうというわけではない。だが、粗末とも言えない、程よい品だった。

「それは、それは……」

 中年の女性――ハンナが、

 嬉しそうに、それを受け取った。警戒は、なかった。疑いも、なかった。ただの挨拶。ただの、顔つなぎ。――そう、思っていた。

 その夜。

 別荘で、事件が起きた。


その夜、私は部屋にお菓子を置いたまま、文字の勉強をしていた。

 着替えすらしていない。

 ――やっとだ。

 やっと、普通に読めるようになった。ほんの少しだけど、簡単な文章なら作れる。

(凄い。私、凄い)

 誰も褒めてくれないなら、自分で自分を褒めればいい。

 そして、ふと。昼間にもらったお菓子に目をやる。

 ……ご褒美。夜中の、ご褒美。

 なんて、甘美な響き。ふふふ――と、口元が緩んだ、その時。

 鼻を突く、違和感。

 ……煙?いや、匂いだけじゃない。

 視界の端で、白い靄が、ゆっくりと部屋に流れ込んできている。

 ――火事だ。

(ヤバい)

 考えるより先に、身体が動いた。私は廊下へ飛び出し、一直線に、ハンナの部屋へ走った。

 扉を開けると、ハンナは、ベッドで眠ったままだった。

「起きて、ハンナ!」

 大声で叫ぶ。揺さぶる。

 ……反応が、鈍い。

(まずい)

 私は迷わず、近くの椅子を掴み、窓に向かって思いきり投げつけた。

 ――ガシャン!

 ガラスが砕け散る。そのまま、ハンナをベッドから引きずり下ろし、ベッドのマットを掴んで、窓の外へ放り投げた。

 ……薄いマットで、本当に良かった。

 投げられた。

 私は、ハンナの肩を掴み、叫ぶ。

「飛び降りて! 今すぐ!」

 煙が、濃い。火が、近い。

(なんで。なんで、私とハンナ、二階で寝てるのよ!)

 文句を言っている暇なんて、ない。

 生き延びるしかない。

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