言い訳は、難しい
「あの、それは……ですね」
私は、必死に口を開いた。
「大地が、揺れるかもしれない事を……伝えただけ、です」
棒読みだった。
(……ゲームの世界で、そういうイベントがあった、なんて。言えるわけがない。だから、多分、とか。曖昧な言い方も、できない)
「ミアが」
耳元で、低い声が落ちてくる。
「どうして、そんな事を知ってるのかな?」
(きゃー。近い。近すぎます。ゾワゾワするし、その声、腰にきます)
「……別荘の本に」
私は、苦し紛れに言った。
「そんな事が、書いてあったような……?」
(……苦しい。苦しすぎる言い訳だわ。どう考えても。無理が、ある)
「……それだけ?」
カイルの声が、静かに問いかける。
「それだけ、です」
私は、即答した。
「……“自分を曝した”っていうのは?」
(まだ、続くのですか!?)
「……知識を、曝したのです」
私は、ほとんど死にかけながら言った。
……本当です。 本当に、それだけです。
「……あいつは」
少し間を置いて、カイルが言った。
「ミアに、何もしてないの?」
「指一本」
私は、きっぱり答えた。
「触ってません」
「……本当に?」
念を押すような声。
「本当です……」
私は、もう、 涙声になっていた。
「……良かった」
その一言と同時に、 背後から、ぎゅっと。
カイルの腕が、 私を抱き締める。
ふう、と。 はっきりとした―― 安堵の、ため息が、 首元に落ちた。
(……ひゃー。お願いです。首に、顔を埋めないでー!!!)
心臓が、 壊れそうなほど、 うるさく鳴っていた。
それから、私は――カイルに、色々と聞かれた。
殴られたこと。牢屋に入れられたこと。手錠をかけられ、ナイフを突き付けられたこと。ひとつ、ひとつ。私が話すたびに、背後の空気が、少しずつ冷えていく。
「……殺すか」
ぼそりと、確かに、そう聞こえた気がした。
(……聞こえなかったことに、しよう。うん。平和が一番)
「……カイルは、どうだったの?」
私は、話題を変えるように聞いた。
「普通だ」
一言だった。
(……しまった)
あの場に、カイルがいたということは。動いていない、はずがない。殺しが、生業だった人だ。“普通”の基準が、違う。
(……でも)
私は、ゆっくり息を吸って。
「……とても、助かった」
ぽすん、と。カイルの胸に、倒れた。
「ありがとう」
しばらく、沈黙。カイルは、何も言わなかった。
その沈黙が、重くて、深くて、でも――拒絶ではないことは、わかった。
「……聞かない、のか?」
少しだけ、戸惑ったような声。
「言いたくなったら、で、いいよ」
私は、カイルを見ようとしなかった。
今は――この、静かな時間を。
無事に戻ってきた、この場所を。
大切にしたかった。
「本当に、嬉しかった」
それだけは、ちゃんと、伝えたかった。
今。この瞬間。私は――とても、良い。
そう、思えていたから。




