お礼を要求されました
「君は、俺にすべてを与えてくれた」 バルド・グレインは、低く、噛みしめるように言った。
「だから、礼がしたいんだ」
「大袈裟ね」
私は、肩をすくめる。
「私のしたことなんて、ほんの少しよ」
――実際、指示を出しただけだ。 動いたのは、彼自身。
「その“少し”が、大きいんだ」
バルドの声は、静かだった。 だが、その目が――異様に、輝いている。
(……あ。これ、まずいやつ)
「私は、少し自分を曝しただけ」
距離を取るように、言葉を選ぶ。
「頑張ったのは、あなたでしょう?」
――なのに。バルドの瞳は、さらに熱を帯びた。
(やばい。完全に、方向を間違えてる)
その時だった。
「――それまでだ」
扉が、乱暴に開いた。
「誰だ!」
バルドが、即座に身構える。私は、息を呑んだ。
「……カイル」
思わず、名前が零れる。 そこに立っていたのは――
「……どうして、ここに?」
黒い髪。 金色の瞳。 見慣れた、でも今は胸が締めつけられるほどの姿。
「すごく、探した」
それだけ言って、カイルは私を見た。次の瞬間。 私は、考えるより先に、駆け出していた。――カイルの元へ。
「……ミアを、放してくれないかな」
カイルは、静かに言った。 だが、その声音には、はっきりとした圧があった。
「君は、今は“ミア”と呼ばれているのか」 バルドが、興味深そうに私を見る。
「ええ……」
私は、思わず一歩、後ずさった。
「ミア、お願いだ」
バルドが、縋るように言う。
「願いを……」
「近寄るな」
カイルが、すっと私の前に出た。 その背中は、完全に“守る側”のそれだった。
「ミアは、もう言っただろう」
カイルは、淡々と続ける。
「土地と建物の権利書。それから――」
一瞬、視線が鋭くなる。
「慰謝料として、十年分の生活費だ」
(……ちょっと待って。私、そこまで要求してない。勝手に条件、盛らないで)
私の内心などお構いなしに、 バルドは、顎に手を当てて考え込んだ。
「なるほど……」
そして、ぽつり。
「ミアが住むなら……そうだな。あそこがいい。少し、待っていてくれ」
そう言い残し、 バルドは慌ただしく部屋を出ていった。
(……怖い。結果が、すごく怖い)
私は、そっとカイルを見上げた。
(それに……。どうして、この人、こんなに不機嫌なの?)
しばらくして。 扉が勢いよく開く。
「用意した」
息を切らしたバルドが、 腕いっぱいに何かを抱えて立っていた。
「土地と建物の権利書」
次に、袋を差し出す。
「それから、生活費だ。持ち運びしやすいよう、宝石にした」
(……でかい。多い。明らかに、多過ぎる)
袋の口から覗く宝石は、 きらきらと、嫌なほど光っていた。
私は、バルドを見た。――冗談でも、見栄でもない。 彼の表情は、 ひどく、真剣だった。




