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赤色の悪役令嬢に転生しました その後  作者: りな


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14/21

カイルは鉱山労働

翌日、カイルは鉱山へ向かった。

 町の外れ、岩肌を剥き出しにした採掘場は、朝から人の声と金属音で満ちている。

 斡旋所で渡された札を見せると、最低限の説明だけで作業に回された。

 つるはし。籠。

 単純で、重い労働。

(……金になる、わけだ)

 体は慣れていた。

 だが、胸の奥に引っかかるものが、あった。

 作業場へ向かう途中――人の流れとは異なる方向に、ぞろりと一団が移動していくのが見えた。

 縄で繋がれ、まとめて歩かされている。

 粗末な服。窶れた身体。その中に――女がいた。そして、背の低い、子供の姿もあった。幼い子は、足取りがおぼつかない。

 女は俯いたまま、声も上げない。監視役の男が、無言で棒を鳴らす。

 カイルは、無意識に足を止めていた。

 近くで道具を整えていた鉱夫に、低い声で聞く。 「……あれは?」

 鉱夫は、ちらりと視線をやっただけで、興味なさそうに答えた。

「奴隷さ。借金、罪人、戦争の後始末……理由は色々だ。女も子供も、珍しくねえ」

 言葉が、胸に落ちる。

「……鉱山で使うのか?」

「使えるのだけ使う」  

鉱夫は肩をすくめた。

「使えなきゃ、商人に流す。港か、街道沿いか。欲しがる連中は、いくらでもいる」

 淡々とした口調だった。

 人ではなく、荷物の話をしているように。

 カイルは、その一団から目を離せなかった。

 女の細い肩。子供の、必死についていく足。

(……ここは。人が、消える場所だ)

 鉱山は、金になる。情報が集まる。労働力も、人身も。

(……ミアには、絶対に、近づけさせるべきじゃない)

 胸の奥に、冷たい予感が沈んだまま、

 カイルは何事もなかったように作業へ戻った。


働き始めて、六日目のことだった。

 高齢の女性の腰は、目に見えて良くなっていた。動きも軽くなり、顔色も前より明るい。

「助かるよ。本当に……」  

そう言ってから、少し迷うように続けた。 「なあ、ミア。よければ、このまま働き続けてくれないかい?」

 ミアは、一瞬だけ驚いたあと、柔らかく笑った。

「……ありがとうございます。嬉しいです」

 悪い気は、しなかった。

「また、明日来ますね」  

そう言って、ミアは店を出た。――その日は、とても忙しかった。気づけば、空はかなり暗くなり始めている。

(急がなきゃ)

 宿に戻らないと。カイルが、待っている。


「ミア、忘れ物だよ」

 高齢の女性が、そう声をかけて、店の外へ出た――その時だった。路地の向こうで、ミアが、誰かに引き寄せられているのが見えた。

「なにをして――」

 叫ぼうとした、その瞬間。

「痛っ……!」

 ぎくりと、腰に激痛が走る。

 思わずその場に崩れ落ちた。

「痛たたた……」

 息を整え、必死に顔を上げた時には――

 そこに、誰もいなかった。

 ミアの姿も。引きずる影も。

「……ミア?」

 声は、返ってこない。

 腰は痛み、立ち上がれない。

 助けを呼ぼうにも、辺りはもう静かだった。

 どれほどの時間が経ったのか。

「――大丈夫ですか?」

 低い男の声が、頭上から降ってきた。

 顔を上げると、一人の男性が立っている。

「そこの店なんだ……悪いが、少し手伝ってくれんか」

 男性に支えられ、店の中へ戻る。椅子に座り込んだ高齢の女性は、震える声で言った。

「親切な人だ……一つ、お願いがある」

 男性は、黙って聞いていた。

「先日から働いていた、ミアっていう子がね……。誰かに、拐われたかもしれないんだ」

 言葉にした途端、胸が締めつけられる。

「できたら、届け出てほしい。職業斡旋所に行けば、あの子の情報があるはずだから……」

 男性は、静かに問い返した。

「それは……いつのことですか?」

「……もう、一時間は、経っていると思う」

 その瞬間。男性は、はっと顔を上げた。

 揺れる灯りの下で、ようやく見えた――

 黒い髪。金色の瞳。

 高齢の女性が、それに気づいた時、男性は短く頷いた。

「わかりました」

 それだけ言って、踵を返す。

 迷いは、なかった。

 男――カイルは、闇に溶けるように走り去った。


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