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赤色の悪役令嬢に転生しました その後  作者: りな


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13/21

仕事を始めます

 私は、職業斡旋所に足を踏み入れた。

 壁一面に貼られた、無数の募集紙。

 ――字は、読める。けれど。

(……意味が、わからない)

 私は、手に取った紙をじっと見つめたあと、そっと隣のカイルに聞いた。

「カイル、これって、どういう仕事なの?」

「食事運搬……」

 カイルは、紙を覗き込んで言う。

「食堂で、料理を運ぶ人だろう」

 ……そのままだった。

(ひねり、なし。てっきり、何か特別な仕事かと)

 少しだけ、拍子抜けする。

「私でも、できるかな?」

「さあ? 試してみれば」

 あっさりした返事。

「……そうする」

 私は、募集紙を握りしめ、受付へ向かった。その背中に――

「目が見えない状況で、不平不満を言わない奴なら、何でもできるさ」

 カイルが、小さく呟いたらしいが、それは、私の耳には届かなかった。

 受付を済ませて戻ると、今度は、カイルの手に持つ紙が目に入った。

「カイルは、何にしたの?」

 紙に書かれていたのは――鉱石採取。

「……大変なのでは?」

 思わず、声が出る。

「一番、金になるし」

 カイルは、淡々と言った。

「情報も多い」

 ……あ。

(そうだった。目的、忘れてた)

 でも。

(いえいえ。食堂も、立派な情報収集の場よ)

 こうして、私たちの仮の仕事は、決まった。

「仕事は、明日からだね」

 私は、言った。

「……緊張するよ」

「鉄の心臓じゃ、なかったのか?」

 カイルが、からかうように言う。

「そんなこと、ないもん」

 私は、つい、彼の服の裾を引っ張った。

 カイルの金色の瞳は、ふっと、柔らかく笑っていて。

 それにつられて、私も、笑った。


翌日。

 私は、紙に書かれていた場所へ向かった。

 道に迷うといけないから、と――カイルが、当然のように同行してくれる。

(……気配りライセンス、発行してあげたい。満点で)

 本当に、素晴らしい。

 店は、個人店としては少し大きめの食堂だった。私は、扉を開けて声をかける。

「職業斡旋所の紙を見て、来ました」

 中から出てきたのは、腰の曲がった高齢の女性だった。

「ああ……腰を痛めてね」

 女性は、私を値踏みするように見てから、尋ねる。

「ところで、経験は?」

「初めてです」

 その瞬間。

 女性は、大きく、深いため息をついた。

「……まあ、いい。言ったことを、ちゃんとしてくれ」

 こうして、私は店の中へ入った。話を聞く限り、女性は腰を庇いながら料理をするので精一杯らしい。

 お客の注文取り。料理出し。片付け。

 会計。――全部、私の担当。

(……なるほど。つまり、ワンオペ)

 でも。

(日本時代、喫茶店のウエイトレス、やってたし。コンビニのレジ打ちも、皿洗いも。このメニュー数なら、余裕ね)

 私は、仕事に挑んだ。結果――

「ちょっと」

 女性が、私を見て言った。

「本当に、初めてなのかい?」

 ……お褒めの言葉、いただきました。

(スマイル接客。注文は、復唱。遅れたら、即謝罪。腰は低く。最後は、お見送りの心で)

 ――完璧。

(……やだ。どや顔になる)

 こうして。私の、食堂初日目は――とても、善き一日となった。



宿の部屋で、私はカイルの帰りを待っていた。

(……やだ。これ、新婚みたいじゃない?気分は、仕事から帰る旦那を待つ妻)

 今日の給料も、ちゃんと貰ったし。

 ――扉の向こうに、気配。

「……カイルだ」

 私は、ぱっと顔を上げた。

「お帰りなさい」

 自然に、笑顔が出た。

 カイルは、少しだけ目を見開いたあと、視線を逸らし。

「……ただいま」

 小さな声で、そう返した。私は、嬉しくて、すぐ報告する。

「今日はね、誉めてもらったし、給料も入ったの」

 にこにこしながら、受け取ったお金を見せる。カイルも、無言で袋を出した。

「俺は、普通かな」

 ……普通?袋の中身を見て、私は目を瞬かせた。

「……私の、倍?」

「鉱石採掘だ」

 カイルは、淡々と答える。

「労働手当と、危険手当が付く」

(……あ。それ、明らかに大変なやつ)

 よく見れば、

 服には汗の跡が残り、いつもより、少しだけ疲れた匂いがした。

「大変そうだね」

 私は、そう言ってから、続ける。

「何か、良い情報はあった?」

 カイルは、ほんの一瞬だけ、言葉に詰まった。

「……良い、のは無いな」

「そっか」

 私は、軽く頷いた。

「一日目だもんね」

 その言葉を――私は、もっと深く聞くべきだった。

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