貸金庫に預けた
翌朝。
宿の小さな部屋に、朝の光が差し込んでいた。
カイルは、腕を組んだまま、私を見下ろして言った。
「さて。これから、どうするんだ?」
……来た。
「もちろん、考えているんだろうな?」
(……何も、考えてません。勢いだけで、ここまで来ました)
――とは、口が裂けても言えない。
私は、一瞬だけ思考をフル回転させ、平静を装った。
「……手元に資金はあるわ。だから、商売なんてどうかしら」
自分でも、よく言えたと思う。
「でも、市場がわからないから、まずは偵察が必要よね」
それらしく。とても、それらしく。
カイルは、少し考える素振りをしてから、頷いた。
「なるほど。……まあまあだな」
(ふ。思いつきでも、十分だったようね。流石、私)
内心で、こっそり胸を張る。
すると、カイルは話題を変えた。
「それと、宝石だが」
私は、無意識に首元の袋に手をやる。
「貸金庫に預けた方がいい」
……か・し・き・ん・こ?
(何それ。そんな、便利な物があるの?)
どうやら、疑問は顔に出ていたらしい。
カイルは、小さく息を吐いた。
「まあ、いい。資金はまだある」
そして、さらりと続ける。
「連れていってやる」
(……頼りになる。とても、頼りになる。ありがたい。本当に、ありがたい)
私は、ちらりとカイルを見た。
黒い髪。金色の目。整った顔立ち。
……眼福とは、こういうのを言うのだわ。
「……何、見てるんだ」
カイルが、少し怪訝そうに言う。
「いいえ」
私は、すぐに視線を逸らし、平然と答えた。
「顔色が、良いようね」
――普通の声で言えた。……はずだ。
こうして。私とカイルは、町へと出た。
私は、あっさりと貸金庫に宝石を預けた。
(安心。これで、当面は大丈夫。カイル様々だ)
「さて」
私は、気合を入れ直して言った。
「あとは、仕事ね。どこか、求人でもしてるかな?」
すると。カイルは、まるで“残念な子を見る目”で、私を見た。
「……職業斡旋所がある」
淡々とした声。
「そこに行けば、大概の仕事は見つかる」
(……え?なにそれそんな、便利な場所が?この世界、優秀すぎない?)
思わず、全身がわなわなした。そんな私を見て、カイルは、ふっと小さく笑う。
「行くぞ」
「待って。置いていかないで」
私は慌てて、カイルの背中を追った。
歩きながら、ふと気になって、聞いてみる。
「ねえ。どうして、そんなに詳しいの?」
カイルは、少しだけ視線を前に固定したまま言った。
「……昔、仕事で、この国にいたんだ」
(……あ。地雷、踏んだ)
よく考えれば、
わかることだったのに。
「そっか」
私は、足元を見て、小石を蹴った。
「凄い偶然だね」
カイルは、少しだけ間を置いてから言った。
「役に立ったな」
……そうだね。本当に。
それは、悪いことばかりじゃない。きっと。
私は、顔を上げて、精一杯の笑顔を作った。
「とっても、助かってる」
言葉を、選んで。
大切に。
今は、それでいいと思った。




