第六話:語る者の朗読、沈黙の赦し
白鷺館・応接間。 澄江の死から数日後、椿子は再び館を訪れた。 朗読会の参加者たちが静かに集まり、椿子の前に座っていた。 誰もが、語られなかった記憶の続きを待っていた。
椿子は、澄江の原稿と母・澄乃の手紙を手に、朗読を始める。
「語ることは、暴くことではありません。 語ることは、沈黙を理解するための手段です。 今日は、二人の女性の沈黙について語ります。」
椿子は、母が鷺沼家の“記憶室”で見たもの―― 語られなかった罪ではなく、語られなかった赦し――を語った。 そして、澄江がその沈黙を“理解するために語ろうとした”ことを伝えた。
「澄江さんは、沈黙を壊すためではなく、 沈黙の意味を残すために語ろうとしました。 それは、語ることで赦すという選択だったのです。」
椿子は、母の手紙の最後の一節を朗読した。
「椿子。あなたが“語る者”になったなら、 その沈黙を、赦しに変えてください。」
朗読が終わったあと、応接間は静寂に包まれた。 だがその沈黙は、語られなかったものへの畏れではなく、 語られた記憶への敬意だった。
参加者の一人が、そっと椿子に言った。
「語られたことで、沈黙が赦された気がします。 それは、誰かの声を奪うのではなく、 誰かの沈黙に寄り添うことだったのですね。」
椿子は、白面を見つめながら微笑んだ。 それは、語られなかった記憶の象徴ではなく、 語られた記憶を赦す者の証となっていた。
白鷺館の庭に、鷺が一羽舞い降りた。 椿子は、澄江の原稿と母の手紙を資料室に収めながら、静かに呟いた。
「語ることで、誰かを壊すこともある。 でも、語ることで、誰かの沈黙を赦すこともできる。 私は、語る者として、その選択を続けていきたい。」
こうして、椿子の“記憶録”は三つの事件を経て、 沈黙を理解する者から、沈黙を赦す者へと変わっていった。
読者の皆さまへ。
令嬢探偵・朝霧椿子の物語を、ここまで読んでくださりありがとうございました。 この三つの事件は、謎を解く物語であると同時に、 “語ることの責任”と“沈黙の意味”を問い続ける旅でもありました。
椿子は、誰かの記憶に寄り添いながら、 語ることで赦すという選択を重ねてきました。 その姿が、読者の皆さまの心に何か静かな余韻を残していたなら、 それ以上の喜びはありません。
そして、彼女の傍らには、いつも静馬がいました。 語る者と、支える者。 沈黙に寄り添う二人の歩みは、これからも続いていきます。
語られなかった記憶に、 語る者がそっと手を伸ばす―― そんな物語を、またいつかお届けできる日を願って。
ありがとうございました。




