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第二話:朗読会の始まり
白鷺館の応接間には、十数名の招待客が集まっていた。 文芸評論家・綿貫澄江が主催する朗読会――テーマは「記憶と沈黙」。 招待状には、“語られぬ記憶を語る者に託す”と記されていた。
椿子は、館の空気に微かな違和感を覚えていた。 参加者の多くは、鷺沼家に縁のある者たち。 旧使用人、澄江の弟、大学関係者、そして椿子の亡き母と交流のあった者もいた。
朗読会は、澄江の朗読から始まった。 彼女は、未発表の評論文を手にし、静かに語り始める。
「記憶は、語られることで形を変える。 沈黙は、語られなかった記憶の器である。 そして、語る者は、沈黙に試される。」
その言葉に、椿子は既視感を覚えた。 それは、帝都大学で透が遺した言葉と重なっていた。
朗読が終わると、澄江は「少し休憩を」と言い残し、西棟の書斎へと向かった。 その部屋は、かつて鷺沼侯爵が“語られぬ記録”を保管していたとされる密室だった。




