喫茶店(ルル)で…
(ピピピ、ピピピ)
TWの発信音がシャワールームに響き渡る。シャワールームと言っても男子のシャワールームではない。『女子』のシャワールームだ。
そして、TWの持ち主はレナ。
レナは水を頭からかぶった事で、今はシャワールームにいる。
何故シャワールームかと言うと、ビショビショになった制服を魔法水につけにきたのだ。魔法水に制服をつけて、取り出せばすぐに乾くからだ。
「ん?誰かな…?」
TWにはシイナからのメッセージが送られてきていた。内容はこうだ。
『キール先生が、今回の授業はいいからちゃんと、シャワーを浴びて風邪をひかないようにしてくださいって言ってたよ~』と書いたあった。その後メールに書いてあった通りにシャワーを浴びる事にする。
その時、ソラの制服の上着が眼に入った。
「ソラ君…やっぱり優しいな…」
ボソっと呟いて、シャワーを浴びに行く。
最初に会った時はなんともなかったけど、昨日、翼の失敗で空から落ちた時に助けてもらった、その時から何だかソラ君の事意識しちゃう。
優しいし、かっこいいし、なんかすごい魔法も使えるし、それにあの笑顔…反則だよ。
そんなソラ君の事、他の女の子がほっとく訳ないよね…。
「はぁ…こんなモヤモヤした気持ち初めて」
また呟くようにして言う。
すると、頭の中でまたソラの顔が浮かんでくる。 今ので、シャワールームにきてから4回目だ。そのたびによく分からないけど、急に自分の顔を手で覆って隠したくなってしまう。
「後で『ルナ』にこの気持ちの事、相談してみようかな」
ルナは、私の双子の姉。顔がそっくりで、髪型を一緒にしたら見分けがつかないぐらい。双子だからだけど。
でも性格は、ちょっと気が強いって言うのかな?そのせいで、私よりちょっと目つきがキリっとしている。ちょっとだからね、別に不良みたいな目つきじゃないからね!!
それに、優しい所もたくさんあってとても仲良し。
(キーンコーンカーンコーン)
チャイムが聞こえた。シャワーを浴びるのを止め、魔法水につけて乾かした制服等を着ていく。
「あ、ソラ君の制服…返さなきゃ」
ソラ君の制服を見たらまた彼の顔が頭に浮かんできて、顔があつくなるのが分かった。これで5回目だ。
私もしかして……でも、まだ会って3日目でこんな気持ちになるものなのだろうか?それに、一時の気の迷いって事や、ただ友達としてという事もあるし。
色々考えてしまう。
とにかく今はソラ君に制服を…。
俺と、サイ、シイナは、まだ調合室にいる。クラスの皆は先に教室に戻って、今頃は部活やら寮に帰っているだろう。
俺達Fチームの4人は、ちょっとした罰として片付けをしていた。 以外に早く、15分程で終わった。
「どうしよっかな、制服。シャワールーム(女子)の前で、レナが出てくるのを待ってるのは流石に恥ずかしいし」
「どうしたの?ソラ。もう帰っていいんだよ?」
俺が、レナに貸した制服をどうしたものかと考えていると、片づけを終えたシイナが声をかけてきた。
ルークはもう教室に戻っている。
ちなみにサイは、今キール先生とお話中だ。と、言っても有名な“O☆HA☆NA☆SHI”とは違う。ちょっとした注意のようなもの。
シイナは、それが終わるのを待っていて暇だったから話かけてきたのだろう。
「いや、レナに貸した制服の事でな」
「ああ、なんか羽織ってたね。あれ、レナの制服透けてたからかけてあげたんでしょ?レナは気づいてなかったようだけど」
おもしろしうに話すシイナ。
俺は、そんなシイナのニヤニヤしながら話している事で、少し恥ずかしくなってしまった。
シイナの話では、レナの制服が…す、透けてた事に気づいていて自分と同じことをしようと思っていたそうだ。 途中の『…』の所で、俺がなにを思いだしたのかは内緒だ。
「制服の事は、TWでメッセージでも通話でもしたらいいんじゃない?」
「あ、そうか」
シイナに言われて、TWを取り出そうと自分の制服のポケットに手を突っ込もうとしたが、ポケットがない。
「TW…制服の上着に入れてたんだ」
そう、今は黒の学院指定のカッターシャツ。制服はレナの所だ。(シャワールーム)
つまり、連絡ができる訳がない。更に言うと、もしTWがあったとしてもレナのアドレスは登録されていない。その事にシイナは、あちゃ。と言いながら、自分のTWを取り出す。
と、言う事でシイナに俺の代わりに伝えてもらう事にした。
内容は『ソラの制服は、サイやルークにでも預けておいてくれって、ソラが言ってたよ』だ。
なぜサイやルークなのかと言うと、俺は今からバイトに行かなくてはならない手渡しは無理。次に、サイやルークは同じチームだし、まだ出会って2日目だけど仲がいいから。と言う事。
「それじゃあ、俺バイトあるから」
「バイトって、なんの?」
「校舎内にある、喫茶店のルルってお店で接客とか」
「あそこか、行ったことないけど」
どうやら喫茶店はあまり流行っていないらしい。
「店長。遅れました……って、ルーク!!?」
店に入ると、昨日俺が座っていたカウンターの席で、ルークが紅茶を優雅に飲んでいた。
そして、俺の声に気がついて、普通に話しかけてきた。
「よぉ。ソラはここでバイトしてるんだって?」
「え?知ってたの?ルーク」
「さっき、店長とリリから聞いた」
店長の話では、ルークはここの常連客で、殆ど毎日放課後にはここで紅茶を飲んでいるんだそうだ。なんでも喫茶店にいると落ち着くらしい。
確かにそれは俺にも分かる。まったりとした音楽が店内の雰囲気と会っていて、あまり流行っていないのか人は少ない。
それに店員も店長のメイさんだけだし。あ、今は俺もいるか。
「ねぇソラ。魔法水の授業で失敗したんだって?」
「何故それを…ルークか」
「そゆ事~♪」
いつものように、フフフ、と微笑みながら俺の頭の上にチョコンと乗ってくる。
リリになにか弱みを握られると、そのネタを使ってからかわれてしまうから気をつけなくては。
「では、俺着替えてきますね」
「急がなくていいからね」
「着替えなんてすぐ終わりますよ、店長」
そう言って、奥の部屋に入っていく。
というか、リリは俺が着替える時はちゃんと更衣室の前で待っていてくれるんだろうか? いくら妖精だからって、女の子のリリがいるところで着替えるのは恥ずかしい。
「安心して、ソラ。更衣室には入らないから」
俺の思っている事を見抜いてきた!!
これもなにかの魔法を使っているのだろうか? そんなこんなで、着替え完了。
最後に黒のなんか文字が書いてある、エプロンをして終わり…っと。
「それ、ルルって書いてあるんだよ?」
「うわぁぁぁ!!びっくりした~。……いきなり脅かすなよ」
エプロンを着る為に、少しの間だけ前が隠れてしまう。
そして、暗闇から光が出てきた瞬間に、目の前にリリがドアップっでいきなり声をかけられたのだから、驚くのも無理はない。
クールな、ルークでもびっくりするだろう。……あ、クールの反対って、ルークじゃん。どうでもいいけど。
そんな俺の反応にリリは、後ろに大きく吹っ飛んでいた。と言っても、飛んでいるので壁に激突とかそう言うのはない。
「私のほうがびっくりしたわよ。いきなり目の前で大声出すんだもん」
「いや、だっていきなりだったし。てか、なんでリリが更衣室にいるんだよ、待ってるんじゃないのかよ?それと俺の心を読むな」
「なんかお客さんが着たから伝えようと思ってね」
「お客さん?」
リリの言った、お客さんとは俺やルークと同じFチームの、レナとシイナ、後サイだそうだ。
それを聞いて、リリがまた頭の上に乗る事は分かっていたのでそれを待ってから。すぐに店に戻った。 4人は、カウンターではなくテーブルの席に座ってそれぞれメニューを見ていた。
そこに、気づかれないようにこそっとオーダーを聞きに行く。
「ご注文はお決まりですか?お客様」
「ソ、ソソソソソソラ君!!!」
一番最初に反応したのは、レナだ。
と言っても、なんかすごい驚きようだな。いきなり席を立ち上がり、顔が真っ赤なトマトのようになって両手を顔の前でブンブンと音が鳴るぐらい勢いよく振っている。
俺がここでバイトしてる事知っててきたんじゃないのかな?
そんなレナを見て、サイとシイナは二人して笑っている。ちなみにルークはさっき飲んでた紅茶を目を瞑って飲んでいる。
「レナ、少し落ち着こうよ。そんなに驚くことじゃないだろ?」
「う、うん…」
何故かテンパッテいるレナを落ち着かせ、席に着かせる。顔はさっき程ではないが、まだ少し赤いままだ。
「ほら、レナ」
「あ、そうだね」
?なんの事か分からないが、シイナに呼ばれてレナがなにやら綺麗に畳まれた白い服を取り出して俺に渡してきた。
「これ、借りてた制服。さっきはありがとうね」
「どういたしまして。それにしても、わざわざ手渡しで返しにこなくてもよかったのに」
どうやら、制服を返す為にわざわざきてくれたようだ。それで、サイとシイナは付き添いみたいのまのか?たぶんおもしろ半分できたんだろうが。
そんな事を考えながら、制服を脇に挟む。すると、俺の言葉がなにか気に触らなかったのか、レナがまた急に立ち上がり、顔をグイっと近づけてきた。
「だ、だって!!自分でありがとうって言って、返したかったんだもん!!」
「えと、あ、ありがとう」
そうとう必死に言うレナに、少し気圧されて一歩後ろに下がってしまった。
それにしても顔近い!!近い近い!!嫌じゃないけど近い!!
その事に気づいた瞬間に、また色白の綺麗な顔を赤く染めて席に縮こまるようにして座る。
「レナ、照れてる~♪」
「リ、リリちゃん!!」
図星で恥ずかしいのか、更に真っ赤になっていく。
レナは、リリの事はちゃん付けで呼んでいる。他にもちゃん付けで呼ぶものも多い。 それを見たサイが、爆弾を投下してきた。
「もしかして、レナってソラの事す―――いっ!!!」
サイが何を言おうとしたのかは、分かったがそれをレナが許さなかった。言い終わる前にテーブルの下でサイの足をドン!!と、テーブルが揺れるぐらいに思い切り踏み潰した。
その顔は、いつもの男をそれだけで落としてしまうような笑顔なのだが、今回のはなにか恐怖のようなものを感じさせる。
そして、サイの言葉を否定する。
「そ、そんな訳――」
「そんな訳ないよ、サイ」
「え!?」
今度は、俺がレナの言葉を遮って言う。
その瞬間に、レナとシイナ、それにサイもキョトンとして固まる。ルークは、変らずに紅茶を飲んではいるが、目を開けて俺を見ている。
シイナとサイがキョトンとして固まるのは分かっていたが、レナは何故か分からない。
ただ、レナが言おうとした事を俺が代わりに言っただけなのだが。
まぁ、一応説明しておくとする。
「だって、まだレナと会ってそんなに経ってないんだよ?それに俺、相手にそんな感情をもつ訳ないんじゃないかな?」
そう言った瞬間に、さっきまで顔を真っ赤にしたり笑顔だったりしていたレナが、顔を伏せて、少しプルプルと震えているように見えた。
「な、なんでそんな事が分かるの?」
俺の言葉にシイナが理由を聞いてきた。今まで、笑っていたのになんだか様子がおかしい気がする。シイナやレナだけじゃない、サイとルークも様子がおかしい気がする。空気がさっきの楽しかった時よりも重い感じになっている。
「そりゃぁ、レナみたいな綺麗でかわいい子が好きになってくれたらうれしいよ?でも周りにはルークみたいな俺より断然かっこいい子や、サイのようにおもしろい子もいるし、俺よりは皆、魅力があると思うんだ。だから、俺のような普通の奴をレナが好きな訳ないって事」
本当の事だ。実際に元の世界での中学時代は女子には好かれるどころか、避けられている感じがしたし、自分でもかっこいいとか面白いなんて事一回も思ったことなんてない。
ましてや、レナとはまだ会って3日目だ。更に可能性はなくなる。
そんな中学時代を思い出すと、仲のよかった友達や先生の事が頭に浮かんでくる。すると、自然とまた母さんの事も思い出して寂しくなってくる。
だけどもう決めたんだ。泣かないし、絶対に元の世界に帰るって。
「はい、この話は終わりね。皆注文は決まった?今日は俺が奢るよ」
後で、メイさんに俺のバイト代からひいといてもらわないと。
その後は、皆注文したパフェや、ジュースなどを飲んで帰っていった。
最初程じゃないけど、重かった空気をサイがなんとかしてくれて帰る頃には今日の事はなかった事になったような感じがした。
しかし、レナだけは最後までなんだか少しだけ元気がないように見えたのは、気のせいだろうか?
あ、ちなみに店長は俺と交代で、奥で休んでました。なんだか今日はやらなきゃいけない仕事が溜まっていたらしい。
材料の注文とかそんなのだろうか? そんなこんなで、俺の編入初日の学院生活は終わった。少し最後は変な空気になっちゃったけど。
ちょっと、暗かったですかね?
それに今回魔法は一つも出てきませんせしたね。すいません。
なんだか、魔法ありとなしの時が極端に違うような気がするんですよね。
でもがんばって、成長していきたいと思います。